第17話

人混みを掻き分けてこちらにやってきたのはアロイスの婚約者エーディトだった。


「この度はうちの馬鹿が大変失礼な事をしてしまい申し訳ございませんでした!」


エーディトの登場に驚いていると彼女はアロイスの頭を掴み地面に擦り付けさせながら自分の頭を下げた。

いきなりの行動に私もルードルフも固まる。


「え、エーディト、いたい」

「うるさい!黙って頭を下げなさい!」


ぐりぐりとアロイスの頭を押し付けるエーディトの強烈なキャラについ笑ってしまった。


「ディア?」

「ルード様、もう許してあげましょう」

「しかし…」

「アロイスは騙されていただけです」


私の言葉にアロイスとエーディトは顔を上げる。思い切り床に押し付けられたせいかアロイスの頭は少しだけ血が滲んでおり痛そうだ。


「言っておくけど、次はないわ。一緒に頭を下げてくれた心優しいエーディトに感謝するのね」


ヒロインがアロイスを狙ったのならエーディトには破滅が訪れるかもしれない。

それは避けたいところだ。


「ルード様も良いですか?」

「……今回だけです」


許せないってオーラを出しつつ頷いてくれるルードルフにホッと安堵の息を吐いた。


「ありがとうございます」


二人揃って頭を下げる。

顔を上げるとエーディトは何故か涙を流し始めた。

どうしたのだろうと狼狽えていると彼女はアロイスの胸ぐらを掴み引き寄せ頭突きを食らわせたのだ。


「アロイス!二度と馬鹿な事しないで!」

「エーディト…いたい…」

「私は貴方が居なくなったら嫌なのよ!馬鹿!アホ!脳筋!」


頭を押さえるアロイスに抱き着き泣き出すエーディト。

怒涛の展開に全くついていけないが彼女がアロイスを本気で思っている事だけは伝わった。

アロイスもそれが分かったのだろう。何度も謝りながら彼女の背中を摩っている。


「アロイス」

「は、はい!」


私が声をかけると背筋を伸ばすアロイスに近寄り笑いかける。


「エーディトを放ったらかして他の女性にうつつを抜かす事があったら許しませんからね?」


顔を青褪めさせ何度も頷くアロイスは泣き続けるエーディトを抱っこして素早く逃げていく。

これでアロイスルートは潰せたかな。


「本当に許して良いのですか?」


納得出来ないと言った顔をするルードルフに頷く。


「彼は正義感が強い馬鹿です。バルバラさんに騙されただけですよ」

「しかし、ディアを傷付けようとしたのは事実です」

「次はないと言いました。もしも同じ事を繰り返すと言うならば今度はエーディトが庇おうが容赦致しません」


ルードルフからヒロインの話を聞いた彼の表情を見ると二度と騙されるとは思えないけど、念の為に警戒だけはしておこう。


「早くお昼に行きましょう。食べ損ねてしまいますよ」

「そうですね」


彼の手を引きいつも食事をしている中庭に向かった。

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