第16話

冷やな声が響きアロイスは顔を青褪めた。

人形が如くぎこちなく振り返った彼は絶望したような表情を作り出す。


「る、ルード…」

「私の質問に答えてくれますか?」


鋭く睨み付けるルードルフにアロイスはこちらに対して助けを求めるような視線を送ってくる。

さっきまで睨んでいた相手に助けを求めるとは彼が騎士になるのは向いてないのかもしれない。

心優しい女性なら彼を庇ってあげるのだろうが生憎と私は優しくない。


「アロイスが私に対してバルバラさんを苛めたと訳のわからない容疑をかけてきたのです」

「クラウディア!」

「どうして呼び捨てなのですか」


事実を述べた私の名前を非難するように叫ぶアロイスの肩を掴むルードルフ。その瞳は怒りで燃え上がっているように見える。


「先程も私の事を呼び捨てにしてたわね」


私は公爵令嬢、彼は伯爵子息。

立場が違い過ぎるが故に私を呼び捨てにするのは不敬罪として捕まってもおかしくないのだ。

貴族社会とはそういう理不尽なものである。


「ですが、ここは貴族も平民もない学園です。呼び捨ての件は置いておくとしましょう。ルード様も良いですね?」

「ディアがそう言うなら。ですが、苛めの容疑をかけた件は許せませんね」


公爵令嬢と第二王子。二人から睨まれたアロイスは可哀想なくらい真っ青になり、立っているのがやっとみたいだ。


「そもそもバルバラとは誰ですか?」

「入学式の日に私にぶつかってきた女生徒ですよ」


首を傾げるルードルフの問い掛けに答えを出したのは私だった。

その瞬間、無表情で怒り狂う彼に不味い事を言ったかもしれないと苦笑いが漏れる。


「あの非常識な女ですか」

「る、ルード!バルバラをそんな風に言うのは…ひっ!」


ルードルフの言葉を否定しようとしたアロイスだったが睨まれて口を閉ざす。


「アロイス。君の言うバルバラは入学式の日にディアに対して故意的にぶつかり怪我をさせた挙句謝りもせず私に言い寄ろうとした屑です」


簡単な説明ありがとうございます。

ですが、私の大切な婚約者を強調して言うのはやめて頂きたい。

ルードルフの言葉を聞いたアロイスは私に視線を向けた。


「ほ、本当…ですか?」


王子の言葉を疑うとは何事かと思うが彼にとってはそれくらい信じられない事だったのだろう。


「ええ。危うく擦りむいた膝に傷跡が残るところだったわ」


今はすっかり綺麗になっているが、それは侍女であるヒルマが懸命に世話をしてくれたからだ。

もし傷跡が残っていたら怒った父がヒロインを潰していたに違いない。

私の返しにアロイスは膝を折り、土下座の姿勢に入る。


「も、申し訳ございません!」


謝るアロイスにどう反応すれば良いのか分からない。


「謝れば済むと思っているのですか?」


怒りに身を焦がすルードルフに対してもどうすれば良いのか分からない。

面倒だなと思っているといつの間にか出来ていた人混みを掻き分け入ってくる女生徒がいた。


「エーディト…」


意気消沈なアロイスが呟いた。

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