第13話

保健室までやって来ると入学式の準備がある為か先生は居らず静かな空間が広がっていた。初めて学園に来たというのに真っ先に来る場所が保健室ってどうなのだろうか。

そう思っていると椅子に降ろされる。


「これは酷いな」

「ですね」

「痕にならなければ良いけど」


擦りむいた膝を見ると思ったよりも傷が深そうだ。患部を見ていたら更に痛みが増した気がする。


「泣かないで、ディア」

「すみません、痛くて…」


言われて初めて泣いている事に気がつく。

仕方ない。本当に痛いのだ。

そっとハンカチを目元に押し当てられて化粧が落ちない間に拭ってくれる。


「……あのクソ女」

「え?」

「ううん、何でもないよ。それよりも手当てをしよう」


クソ女って聞こえた気がするのですが気のせいだったのだろうか。

首を傾げている間にルードルフは怪我の手当てを始めてしまった。

流石にこれは不味い。


「怪我の手当は自分でやりますから!」

「良いよ。させて」

「でも、ほら、入学式始まっちゃいますし、行ってください!」

「嫌だよ」


貴方、新入生代表でしょう。

入学式が始まるまで時間はあるが打ち合わせなどあるはずだ。早めに来たのもそれが理由であるはずなのに。

手当てしてくれている手を止めないルードルフに止める気はないのだと分かった。


「あの、ありがとうございます」

「ディアは私の婚約者なのだから甘えていれば良いよ」


見上げてくるルードルフはやっぱり甘ったるい顔をする。

その姿に思い出した。

これ出会いイベントの直後にある保健室イベントじゃないの?

どうして私が相手なのだろう。いや、怪我してるのは私だから保健室に来るのは当たり前だけど…。


「ディア?」

「……ルード様は先程の子をどう思いますか?」


出来心で聞いてみる。

先程の行為で好きになるとは思わないけど、気になり始めるきっかけくらいにはなるかもしれない。

驚いていた表情がにっこりしたものになる。が、怖い。

笑顔なのに怖いってどういう事ですか。


「ディアを傷つけた愚か者だよ」

「えっと…」

「もう良いかな。あれの話をしたくない」


今あれって言ったよ。

有無を言わせない表情で見つめてくるルードルフに何も言えなくなった。


「さぁ、入学式に行こうか」

「私は膝が痛いのでここに居ます」

「駄目だよ」


鬼畜なのですか。

膝も腰も痛いのですけどそれでも入学式に出ろと言うのでしょうか、この王子様は。

睨み付けると何故か嬉しそうに頭を撫でられました。


「怒らないで」

「痛いので歩きたくないです」

「そうか…。歩きたくないなら仕方ないね」

「そうで…きゃっ!」


何故かまたお姫様抱っこをされました。

思わず掴まれば笑顔のルードルフと目が合い頬にキスをされる。


「歩きたくないと言うから運んであげる」

「い、いや、良いです…!」


そもそも入学式に出なくても良い。

あれって別に楽しい物じゃないって知ってます。

ドキドキワクワクするのは前世で十分味わいました。

何よりこの状態で会場に行ったら普段以上に目立つだろう。それは嫌だ。


「駄目だよ。逃がさない」


しっかりと抱きかかえられて抵抗する術もなく連れて行かれる。

せめて会場に入る前に降ろして欲しいのだけど。

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