第12話
ルードルフに嵌められて婚約者になってからもう五年が経つ。最初はどうにか逃げられないかと思ったが逃げられなかった。それどころが国王夫妻もお母様も喜んでお祝いしてくれたのだ。
嵌められただけなのに。
十五歳になった私の姿はゲームのクラウディアそっくりで「これがコスプレだったら」と現実逃避する毎日だ。
そして我が婚約者ルードルフもゲームの攻略対象者そっくりな姿なのだけど正直に言って好み過ぎて遠くから見つめる許可が欲しい。
そして来てしまった学園入学式の朝。
馬車から降りるとルードルフが待機していた。
「おはよう、ディア」
何故か婚約者になった時からルードルフは私に対して敬語をやめてしまった。ヒロインではなく悪役令嬢の私に対してやめたのだ。
どうなってるのと思ったのはもう五年前の事。
今はもう慣れてしまったので、ヒロインと会ったら元に戻るだろうくらいの感覚だ。
「おはようございます、ルード様」
「今日も私の婚約者は可愛いね」
「ありがとうございます」
慣れたように私の腰を抱くルードルフは甘ったるいほどの笑顔を見せてくる。顔が良いから狡いのだ。
彼の笑顔を見た周囲の人間が温かい目で見つめられた。慣れないのでやめて欲しい。
婚約者になったばかりの時は数多くの令嬢達に嫌がらせを受けていたがルードルフの甘ったるい態度を見て諦めたのか今はほぼ無い。むしろ応援すらされているのだからおかしな話である。
私達は結ばれないのに。
「ディア、行こうか」
「ええ。それにしても私を待ってなくて良かったのですよ?」
「何故?」
「ルード様は新入生代表だからです」
本音を言うなら貴方は今からヒロインに出会うので邪魔をしたくないだけですけどね。
そう思いながら歩いていると後ろから物凄い勢いでタックルされて前に吹き飛んだ。幸いにも顔から地面に当たる事は無かったのですけど膝を擦りむいた。
それよりもぶつかった腰が滅茶苦茶痛いのですけど、誰ですか?
「ディアッ!」
「ルードさまぁ!」
ルードルフとぶつかって来た女の子の声が重なる。
痛みを我慢しつつ振り返ればゲームで見た人物によく似ている人がルードルフに迫ろうとしていた。
ヒロインのバルバラだ。
出会いイベントの発生だと思うのだけど、ゲームの中ではヒロインがルードルフの横で転んで怪我をしたはず。
今怪我をしているのは私だ。
何故ぶつかられたのだろうという理不尽な気持ちと膝、腰の痛みが酷過ぎて泣けてくる。
しかしバルバラは謝る事なくルードルフに話しかけた。
「ルード様、おはようございますぅ!よかったら一緒に体育館まで行きましょう?」
ちょっと違うが攻略対象者とヒロインが出会った。
ルードルフとの仲の良い婚約者生活はここで終わるのかな。
そう思うと胸が締め付けられる。嫌だと思ってしまった。
「貴女はふざけているのですか?」
ルードルフから聞こえた声は低く怒りを含んでいるように聞こえた。彼の表情は無表情。何を考えているのか全く分からない。
「ふざけて…」
「ふざけていますよね。私の婚約者にぶつかっておいて謝りもしないなど。しかもわざとぶつかりましたね?」
バルバラを睨み付けるルードルフの表情はゲーム内でも見た事がある。クラウディアを断罪する際にしていた表情だったのだ。
「わざとじゃありません!」
「だとしても謝るのが先ですよね?それにどうして私が貴女と体育館に向かわないといけないのですか?」
「それは…」
「もう良いです。私達はこれで失礼しますので」
ルードルフの予想外の反応に驚いているとふわりと体が浮き上がった。彼にお姫様抱っこをされていたからだ。
「あ、あの、ルード様…」
「ディア、すぐに保健室に行こう」
「私、重いですから」
「軽いよ。むしろもっと太っていいくらい」
いや、最近太りましたから。
体重が増えたのは胸のせいですけど。
バルバラを見ると沈んだ顔……ではなく睨まれた。
あまりの怖さにルードルフの肩に顔を埋めると安心する匂いを感じて強張った表情も和らぐ。
「どうしたの?」
「いえ、その……このままでも良いですか?」
「もちろん」
そのまま保健室に運ばれた。
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