第4話      追憶と失望と願い

僕を見ているようだった

そもそもこのシステムを思いついたのも根底にそれがあるからだ

人として産まれてしまったという事実

人として社会で生きていくという現実

その事に、僕自身も疲れ果てていたのだ

安楽死ですら喧々諤々で認められていない、議論すらほとんどされていない

カラダの細胞が壊れ続けて暴走、または機能を停止し

正常な機能を果たせなくなりそれに伴う耐え難い痛みや苦しみを

イヤというほど味わっているのに自由に死を選択することが出来ない

医療の限界に達している目に見える病で苦しんでいる人達だってこのありさまだ

精神的に苦しんでいる人達はもっと厳しい

その痛みや苦しみは誰にも見えない、本人にしか分からない

どんなに苦しくても、痛くても誰にも分ってもらえない

その苦しみを吐露したところで完治出来るような解決策は誰からも得られない

自殺者は年々増え続け、児童虐待も後を絶たない

突発的な殺人事件も多発している

苦しんだ末に、さらに苦しみながら自らの命を絶った人

自分の苦しみを他人を傷つける事で解消しようとした人

悩み苦しんだ人が死ぬ時まで苦しむ必要があるのだろうか

他人を傷つける前にそれを解消することが出来なかったのだろうか

そんなことを考えている時に、臓器提供を待ちわびる患者はたくさんいるが

ドナーとなる患者は圧倒的に少ない・・・という現状を知ったわけだ

外科医を目指していたが精神科の医師となり、クリニックを開業していた僕は

死を渇望している人の臓器を臓器移植を待ち望んでいる人に

提供できないだろうか・・・と考えたのだ

自由に選択して生きる権利があるのなら

自由に選択して死ぬ権利があってもよいのではないか・・・と

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