第10話 ルキウスとエピア



 緊張が解けて気を失っていたらしい。


 気が付いたら保健室のベッドの上だった。


 保険医が私の体調を確認して、「傷は浅かったけれど、念のために病院に行くように」と告げその場を離れていく。


 担任教師とかクラスメイトに報告しに行くようだ。


 入れ代わりにラスボスがやってきた。


「お前は、無茶をしたな」

「ご心配をおかけしました」

「心配などしていない」


 いやいや。


 心配してなかったら、見舞いには来ないと思いますよ。


 ラスボスは呆れたような顔をして、当然の事を言ってきた。


「こちらはお前の下僕なのだ。命令すればよかっただろう。離れていてもお前を守りにいけたはずだ」

「あっ」

「まさか、素で忘れていたのか。本当に間抜けだな。やはりお前のせいで計画はブツブツ(略)」


 そうだった。


 契約関係にあるのだから、命令すればよかったのだ。

 契約主である私は、下僕であるラスボスをいつでも好きな時に呼ぶ事ができるのだから。


 でも、そんな場面に呼びつけて守ってもらえるほど、仲が良いんだろうか。


 協力関係で、素直になれないラスボスを利用してあげている間柄ではあるけど。


「いたたたた」

「痛むのか?」

「大丈夫です。少しだけですよ」

 

 身動きしたら、わき腹が痛んでしまった。


 ラスボスは、先ほどとは一転して、至極心配そうな顔になった。


「血が流れているのを見て、お前が死んでしまうかと思った。あの時、どうしようもなく焦っていた。俺にとってお前はもはや大切な存在なのだろう」

「それは良かったです。魔王様に監禁されたりして知り合ったかいがありましたね」

「茶化すな。真面目な話をしている」


 すみません。


「だから、反省した。きっと俺はお前の信頼を得られていない。だから危ない時に俺に頼るという発想が浮かばなかったのだろう」


 だから、とラスボスは胸に手を当てて、まるで自分の心を確かめるかのように目を閉じた。


「俺の名前はルキウスだ。ルキウス・ベリルシェパード。魔族で、魔王。お前の下僕だ。困った時はかけつける」

 

 彼が舌のは、唐突な自己紹介。

 そんな当たり前の情報。同じ学校にいるのだから、すでに知っている事だった。

 けれど、私は初めて聞くふりをした。


 それは誰も信じられなくなっていた彼の歩み寄りだったからだ。


 自分以外の人間を対等と考えて、尊重してくれている私。


 だから私は、ここで生まれ変わった彼に初めて出会う。

 

「初めまして、ただの人間。エピア・ネオンハートです。貴方の契約主で、復讐計画立案中の野望家です」


 ん、と差し出された握手を握る。


 大きくて丈夫な男性の手に包まれていると、ちょっとだけ安心感。


「これからもよろしくお願いしますね」


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ラスボスの正体をうっかり知ってしまったけど問題ないわね。そうだ利用しよう。婚約破棄をけしかけた悪役令嬢へ復讐するために 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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