第19話 (ダッシュボードにてお知らせアリ)
ぼやっと意識が浮かんでくる。最初に目に入ったのは天井。横向きで寝ていたはずだが、いつの間にか寝返りを打ったらしい。
瞼をもう少し開けて枕もとのスマホに手を伸ばす。電源を入れるとまだアラームが鳴る前だ。
(昨日、寝すぎたからかな)
スマホのブルーライトに当てられると、頭から眠気がスーッと消えていく。
また寝直すのも微妙な時間だと思い、体を起こそうとする。
「ぁ……はぁ」
左腕の感覚が無い。
見ると美也孤がしがみついていた。
寝ている割には腕の力はすさまじく、痺れて感覚がない。
力は強いが、表情は穏やかだ。昨日は子供のように泣きじゃくっていた彼女だが、今は落ち着いて気持ちよさそうに寝ている。
仕方ないので、司はもう一度枕に頭を預けることにした。
窓から差し込む光を見ると、今日は晴れのようだ。小鳥の鳴き声、時計の長身の音、隣から聞こえる寝息。
なんとなしに目を閉じてみたら、だんだんうとうとしてきた。ゆらゆらと揺れているような感覚が体内時計を溶かしていく。
一分経ったか五分経ったか十分経ったか。微睡みに浸った頭ではわからなかった。
ふと、頭だけを動かして、美也孤の様子をうかがってみる。
「ぁ……おはようございます」
「……ぉはよう」
へにゃっと気の抜けた笑顔に、少しドキッとした。
より一層ぎゅっと腕を抱きしめられたところでようやく解放された。司はというと、左腕から伝わる形容しがたい痺れと痛みにすっかり目が覚めていた。
「そういえば昨日、付いてきてほしいって言ってけどアレは寝言?」
「……? 寝言じゃないですよー」
「俺が一緒に行く必要あるかな?」
昨日の寝る前の彼女を思い出せば、おそらく美也孤のそばにいるのが安全だし、美也孤も安心だろう。ただ、これからの生活も四六時中美也孤と一緒となると難しい。
昨日とは違って美也孤はずいぶん落ち着いている。だからこそ、もう一度この話題を振った。
(……寝ぼけているだけって可能性もあるけど)
「はい。司さん、お祓いしましょう」
「お祓い?」
「ツキモノが寄り付かなくなるお祓いです。私の両親がやってくれます。相談だけでもしたほうが良いかと」
「……なるほど」
司は上体を起こし、背中を伸ばしながらうなずく。
確かに、お祓いも一つの手だ。何が原因かわからないが、相談だけでもしてみるのは手だろう。
それに、美也孤の実家もそんなに遠方というわけではない。一日つぶれることになるが、行ってみる価値はある。
「そうだな。じゃあ相談してみようかな」
「やった! じゃあ、私は先に降ります。司さんも早く来てくださいね。朝ごはん食べましょう!」
「あぁ、着替えたら行くよ」
持参した枕を抱えてぱたぱたと部屋を出ていった。モフモフな尻尾は嬉しそうに左右に揺れている。
「あ、そうそう。山を登るので動きやすい格好でお願いします」
「山を登る⁉」
「はい。実家が結構山奥にあるので」
突然の通告に司は飛び起きた。運動不足に突然の山登りを要求するか。
苦手な山登りに若干顔をしかめる。あっけらかんと言う美也孤を見ると、司の脳裏にさらなる懸念が生じた。
「もしかしてさ、天河さんの両親って……狐?」
「ん? 気になります?」
ニヤッと笑った美也孤は妙に楽しそうだ。
「会ってからのお楽しみです!」
「……嫌な予感しかしない」
悪戯を企てる子供のような顔で答え、美也孤はドアを閉じた。
軽率に答えるべきではなかったかなと司は頭をかく。
これから起こることを不安が募るが、まぁ良いかと立ち上がる。
今度は何が起こるのか。
少し楽しみになっている自分がいたことがなんだか不思議だった。
モフモフで可愛いなんて最高でしょ? 古代紫 @akairo_murasaki
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