第9話

 二度目の告白といえど美也孤としては恥ずかしい。司は「そういえばそんなこと言っていた」と昨日のことを思い出す。あの時は不審者の戯言と流したが、二度目となるとさすがにそう受け取ってしまう。


「意外でした。先輩ってモテるんですね」

「……やめてくれ」

「こんなかわいい子に告白されるなんて。しかもすごくタイプじゃないの⁉ 司やるぅ!」

「やめてくれぇ⁉ てかいつの間に姉さん戻ってきてるの⁉」

「ラブコメの雰囲気を感じた!」

「帰ってくれ!」


 いつの間にか汐が目をキラキラさせながら戻ってきた。

 なぜタイプを知っている⁉ これまで姉弟間で恋バナとか好きなタイプの話とか全然してこなかったのに?


「はい、司さんの好みの容姿になれるように頑張りました!」

「え、なんでわかったの!?」

「神社で本をよく読んでましたよね。その本に書かれている女の子の絵を参考にしました」

「そうだったね! そう言ってたね!」


 昨日言っていた。司がケモミミヒロインライトノベルをよく読んでいることなど、美也子には筒抜けなのだ。


「その……司さんはよく獣の耳がついている女の子がよく出てくる本を読まれていたので、それに合わせました」

「そういえば、中学の時先輩が学校で読んでいたライトノベルはそういったものが多かったですね」

「やめてくれ……」


 美也孤は恥ずかしそうに人差し指を絡ませているが、穴があったら入りたいと思っているのは司だった。前世でどんな悪行を積んだら、姉と後輩もいる場で自分の性癖を暴露されなければならないのだ。


「司が持っているエロ漫画だってケモミミのものばっかりじゃない。お姉ちゃん知ってるんだから」

「ホントやめて⁉」


 姉の口から堂々とバラされる思春期男子の秘密。三人の顔など見れるわけもなく、両手で顔を覆いうずくまる。「なんで知っているの?」とは司はもう聞かない。下手に掘り下げても傷つくだけなのだから。


「わぁ、よかったぁ。ちゃんと司さん好みになれたんだぁ」

「そうよ、恥ずかしがって隠しているけど、内心ベタ惚れだから安心しなさい」

「はい!」


 司を置いて女子三人できゃいきゃい話が進められる。司は何も考えず、ただ落ち着くことを待つばかりだ。

 マグカップを持ち上げ、香りを楽しみ、一口含む。口いっぱいに芳醇な香りが満ち、沸騰した頭をゆっくり落ち着かせる。飲み込むと、舌の奥に残る微かな苦みが癖になる。


「じゃあ、夕飯の準備しましょうか」

「はい。お手伝いします!」

「ありがとう。はー、妹ができたみたいでうれしいなぁ」

「私もお姉ちゃんができたみたいでうれしいです」

「お姉ちゃん――ッ! 良い響き……もう司はお姉ちゃんって呼んでくれなくなったからなぁ」

「え、え? なに? 天河さんもウチで飯食べるの?」

「聞いてなかったの? 美也孤ちゃんは住む家も身寄りもないから、しばらく家で過ごすって話していたじゃない」

「は? 聞いてない!?」

「司も『うん、うん』ってコーヒー飲みながらうなずいてたじゃない。あ、ひなたちゃんも今日は食べていきなさい」

「ありがとうございます。ごちそうになります」

「え、あれぇ……?」


 言っていたような言っていなかったような。司はあまり覚えていない。性癖がばれてたこと、ヒミツのコレクションもバレていたこと、いろいろショックが大き過ぎて放心していた。


「司さん」

「え、はい」

「改めて、よろしくお願いします」

「あ、え、こちらこそ……?」

「司さんに好きになってもらえるよう、私、頑張ります!」


 両腕でガッツポーズをしながらの宣言に司は不意にドキッとした。

 美也孤がなぜこうも司を好きになっているのかは結局聞けずじまい。だが、司から改めて聞こうにも妙に恥ずかしかった。


 こうして、元狐の女の子――天河美也孤との奇妙な共同生活が始まった。


「ところで、弟よ」

「なに?」

「美也孤ちゃんのあの耳ってコスプレ?」

「あー……」


 そういえば、説明していなかった。

 どこから話すべきか……と夕食の準備をしながらこっそりと汐に教えたのだった。

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