鈴村廉造 2

 あの後連れて行かれた場所は、ホテルだった。そいつ、もといほしのは、慣れた様子で部屋に入り、けばけばしい色をしたベッドに腰を下ろした。


「どうしたの? 早く入ってきなよ」

「あ、あぁ……」


 ドアの前で突っ立ったまま動かない俺を、その細い腕で隣に招き寄せる。目を伏せて座るほしのは、帽子を取って顔がよく見えるようになったのにも関わらず、いまだに男か女か、見分けがつかなかった。身体付きも華奢だが、少年と呼んでも違和感がない。せめてパーカーを脱いでくれたら、なんてことを思った。


「で、青花会のことだったっけ?」

「ああ、そうだ。青花会がまだ残っているとはどういうことなんだ?」


 ほしのから漂ってくるいい匂いを頭から振り払いながら、俺は頷く。


「青花会はね、元々は宗教じゃなかった。研究施設だったんだ。まあ、何の研究をしていたかというと、簡単に言えば不老不死、かな」

「不老不死?!」

「そう。人類の悲願。いつまでも若くありたい、生き続けたい、死にたくないっていう醜い欲望だね」


 はっ、と鼻で笑って、ほしのは続ける。


「その被験者を集めるために、宗教紛いのこともやり始めたっていうのが真実かな。非正規な実験だし、ダイレクトに人体実験だから、装った方が都合がよかったってわけ」

「なるほど。つまり、信仰は名目で、実験体を集めていた、というわけか」

「そうそう。あなたは理解が早くて助かるよ」


 にっこり、と整った顔で微笑まれて、俺の心臓がおかしなリズムを奏で始めた。落ち着け、鈴村。こいつは男かもしれないんだぞ。だからといって、女だったらいいという訳でも……ないのだが。


「それで、宗教としての活動も始めたんだけど、司教に任命された人がけっこうのめり込んじゃってね。『混じりものは駄目だ!』とか言い始めたらしくって」

「それで、日本人以外は入信できなかったのか」

「ご名答」


 笑みを浮かべたまま、ほしのが俺の手を握りしめる。ばっくんばっくん。大丈夫だ。まだ俺の頭は冷静に働いている。


「そしてね、青花会が宗教として機能し始めたのは、もう1つの要因があるんだ。何だと思う?」

「……何って」

「賢いあなたなら、わかるでしょう?」


 耳元で、ほしのが囁いた。ぞくぞくぞく、と、背筋を何かが這いずり回る。感電したかのように自由に動かなくなった体とは正反対に、俺の頭は回転を続けていた。

 宗教というものは、崇拝するものが必要だ。それは、動物、植物、そして人間であったり。


「……神様の、出現」

「そう。青い瞳の、私の神様」

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