第5話 シビリアンコントロール

基地のほとんどが暗闇に包まれたなか、わずかばかりの光があった。


「さてっと、これは少し加工してそうそうそこにテロップを!」

「はあ…こんなん向こうがやる仕事なんですけどね、笹川さん。」

「まあ、そういうなよ。少しはこうでもしないと出世できないからね。」

「はあ…世知辛い世の中ですね。まったく、奈緒子はすぐにというか扱いがなあ…。」

「そういうなよ、女性優遇は前からだろ。」

「はあ…その考え方は欧米由来ですかね?どうもそういう考えには行きつきませんが、まあ前時代の残り香ですかね。今は、男女平等とか言うてますけど、そんなの幻想ですよ。だいたい、そんなこと言うだけ言ってなんになるんでしょうかね?たいていの議員はホストクラブかキャバクラですよ。税金で働くどころか楽しんでますって…。」

「観音崎、君は、悟りでも開くのかい?」

「はは、そいつはいいや。思想犯で逮捕ですか?」

「そうだろうな、なんせ法の縛りはこれからもっと強くなるさ・・・報道すらできなくなるほど。」

「はあ・・・仕事はこれから消えていきますね。最後に残るのは作家でしょうか?」

「そうだな…理系の世界は終わった。今度は私たちだ。しかし、悲惨なのは私たちと彼らのどちらなのだろう。彼らは自分が作ったもので自分の首すらも絞めている。そして、それに応じて作ったものを修理するやつもいる。それで、生産が終了したりしたらその技術や情報は無駄になる。まあ、これは私たちにも言えることなのだがね。しかし、私たちはまだなんとかなる。少し言葉を入れ替えるか借りればいいさ。

そして、平気で噓をつくこともできるし、大げさにすることもできる。なんせ、パーティー会場で殺人事件のことなんか聞きたくもないだろうからね。」

「まったく、嫌な時代に産まれましたよ、俺は…。」


先程から持論を展開しているのは笹川 誠也(ささがわ せいや)。

テレビ局のディレクターである。

そして、その話を受け流しながら作業している男は観音崎 零文(かんのんざき れいぶん)だ。

今回、彼らは取材のために入間基地を訪れていた。

そして、超常現象に巻き込まれたのである。

奈緒子もとい、上高地 奈緒子(かみこうち なおこ)は、新人女性キャスターでこの取材に同行していた。


「さて、終わりました。それじゃあ、仮眠してきますね。」

「ああ、おつかれさま。」

「それにしても、早い事解決してもらいませんとね。いくら中継車といっても電力に限りがありますし。」

「そうだなぁ…。」

「ところで笹川さん、あの話どう思いますか?」

「あの話?」

「ええ、ここが三ヶ月で崩壊するって話ですよ、そりゃあ地震が起きた現場にも行ったことはありますけど、さすがに長くて一か月ちょいでしたからね。すぐに助けが来るとは思うんですけどね。」

「確かにそうだが…奇妙だとは思わないか?」

「はい?」

「ああ、さっき自衛官と見た所だって、ここに来たときは無かっただろ。それに、地震や噴火とかなら少なからず俺らにも影響があったはずだし、それが起きたとしても災害ダイヤルにはアクセスができるはずだが、かからない。」

「確かに…そうですが…。」


観音崎は少しでも自分が安心していられるように極力その異変について考えないようにしていた。

少しでも考えてしまうとそこから悪い方向にしか考えられなくなるからだ。

そして、彼は今はこのような態度を取ってはいるが臆病な性格である。

そのため、虚勢を張って少しでも自分を強く見せようとしているのだ。

その反面、少し弱気になるとボロが出てしまう。

そして、彼は今、その状態へと少しずつ、確実に彼、本来の姿へと戻ろうとしていた。


「…笹川さん…俺たち…帰れますかね?カメラマンの舛添さんは、慣れているようでしたが俺は…その…。さっき、行ったと言いましたけどそれは復興した街で俺はただ話を聞いただけなんですよ。」

「観音崎?」


笹川は、彼が普段とは違う言動に戸惑いを覚えたが特に気にするふしは無かった。

かというのも、彼もまた観音崎と同じように経験が少ないということもあり、

他の人のことを考える余裕などなかった。


「すいません…。」

「どうした?疲れたのか?」

「はい…。」

「そうか、ゆっくり休めよ。」

「はい。」


そうして、観音崎は建物の方へと歩いて行った。

笹川は、観音崎が加工した映像を一通り見終えると車に鍵をかけた。

辺りには自分と同じような報道関係者が同じようなことをやっていた。

中には一人で来た者も居て、どうにもデータが盗まれないか自分の車の周りをただ歩き回っていた。

また、車の中で寝ている人もいた。

笹川は、それを見ると少しは安堵した。

彼らと比べてまだ、人数がいる分交代で仮眠を取り、見張ることができる。

それでも、せいぜい三日が限界だろう。

それにしても、彼らはよくやっている、そう思った。

しばらくすると、音響担当の神田とカメラマンの舛添が来た。

そして、笹川はこの日の仕事を終えた。


「長時間労働だよ、本当に…。」


そう愚痴をこぼしながらつかの間の休憩を彼は取った。

会議室に布団がおいてあるだけの寝室だったがなんとかうまく寝付けた。


「「また、明日も仕事か…。」」


そう、思いながら自分の今の状況から目を背けるようにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る