第4話  人の知らぬ場所で…

会議終了後


「嘘だろ、おい…。」

「はははっ、さすが埼玉県、植物の成長も都心の二倍以上か…。」

「これって、杉の木かな?いや、違うか。はあ、花粉症なんだけどな。」

「ええ、皆様足元には気を付けてくださいねえ…。」


辺りにはうっそうと木が茂っていた。

さすがに、これには基地の人間も驚きを隠せなかった。

一番驚いていなさそうなのはカメラ越しに無人航空機で周辺を見ている操縦者達だろう。

どうせ、カメラが故障しているとかそういった問題だと思って、味方の位置だけ確認できれば良いと思って見ているに違いない。

今、ここにいるのはこのあと輸送機から降下するはずだった空挺隊員と連れの記者団だった。

先程から様子を見る限り特に問題はなさそうだった。

それもそのはずで、ここはすでに先行部隊が探索済みだからだ。

それにしても、基地の周囲が余りにも違い過ぎている。

入間までトラックに乗りここまで来たが辺りにはどこにでもあるような町があっただけだ。


一体、どうなってんだ、本当に…。


「おい、見ろよこれ!」

「なんだ、水晶か…はあ!なんでそんなものが!」

「知らねえよ、それにこれ加工してあるんだよ!」

「いや、それはきっと太古のむかし宇宙人が!」

「そういうのじゃないだろう…邪馬台国だよ、きっとこの場所がそうなのかもしれない!」

「いよっしゃあ!なんにしても、ディレクターなんか辞めて今度こそ俺がカメラに映る方に!」

などと先程から何かあるたび騒ぎまくる記者達。


頼むからマツタケ見つかったって、一センチ位の持って来ないでくれ。

とてもじゃないけど、なんか見ていて悲しい。

はあ、なるほど…カメラの後ろ側ってこういうので…編集するとすごいことになるわけか。


「はあ~…。」

「どうした?」

「いいえ、大丈夫です。」

「そうか、しっかり気を引き締めろよ。なんせ、基地周辺のほとんどこの光景だからな。」

「ほとんどですか・・・どこか変ったところがありましたか?」

「ああ、北門の方で道を発見したそうだ。」

「道…本当ですか!」

「ああ、しかし…。」

「何か問題が?」

「ああ、それがなのだな…地面だ。」

「地面?」

「ああ、舗装工事が施されていないそうだ。」

「……。」

「ああいや、けもの道ではないぞ!ちゃんと、標識が・・・木製だがちゃんと。」

「ここって…御殿場の方でしたっけ?」

「なに言っているんだ…富士に近いだろう。」


おい、本当に何なんだよ。

時間がわからないけどすでに俺、オーバーワークで疲れたんだけど。

しかも、このあと降下訓練か。

まったく、昼飯抜くんじゃ無かったよ、こんちくしょうめ。


……。


入間基地航空管制塔


「ええ、本部聞こえますか?こちら第二混合部隊第三小隊、現在、チェーンソーでの木々を伐採しながら進行中。辺りに人影無し。どうぞ。」

「こちら本部、そのまま進行を。」

「ああ、本部…そのだが…いつまで進行すればいいのか教えてくれないか?」

「ええ、現在時刻は…。」

「いや、その時間じゃなくてだな、今の正確な時間を知りたい。なんせ、どうやら全員の時計が「「ズレ」」っているようなんだが…。ああ、本部聞いているか?」

「はい、勿論です…ですが、その…はあ、仕方ありませんね、それは…。失礼、今、基地司令から指示を貰いました。「「暗くなったら、戻って来るように!」」っだそうです。」

「…すまない、もう一度頼む。」

「暗くなったら、戻って来るように…です。」

「了解した・・・日が沈んだら基地には戻る。」

「ええ、お願いします。」

「ったく、小学生かよ。」

「聞こえていますよ。」

「失礼。」

「夕ご飯はカレーライスです。」

「…懐かしいや、また連絡する。」



「はあ…。」

「おつかれさまです。」

「あら、ありがとう。気が利くのね。」

「はい、コーヒーでよろしかったでしょうか?それにしても、今日は変な一日ですねえ…何回も時間を尋ねられますし。」

「そうねえ…。」

「ああ、それと今日の降下訓練中止になったみたいです。」

「わかったわ。」

「はあ、せっかく通信士になっての初の大仕事だと思ったんですけどねえ。」

「そう、私は特に変わりはないわ。」

「そうですか…あっ、すいません私はこれから業務なので!あまり根を詰めないでくださいね。眉間にしわが寄っていますよ。

それじゃあ、お偉いさんが来た時化粧が崩れて評価が下がってしまいますからね!」

「そうね…それはまあ大変だけど。」

「大変だけどじゃありませんよ、広報の沢代さんなんか今回のMSGで、入間基地が一位にならないとまた、今回も男掴め無かったー!泣きつかれますよ。

先輩はいいですけど、新任の私たちなんかもう大変で…。」

「わかったわ、少し休んだりするからあなたもほどほどにね。」

「はい!」


それではっと、新任の自衛官 熊谷雅(くまは、自分のデスクへっと、戻った。

若崎菜々子は、彼女から貰ったコーヒーを飲みわずかばかりのティータイムを楽しんだ。

さすがに、長時間働きづめのせいで上司の鳴海翔太郎も彼女たちには文句は言わなかった。

まあ、こんな不測の事態でも部下に黙認という最低限の形で気をつかってくれているだけましだろう。

本来、ここは飲食禁止の場所なので普通なら怒られるはずだった。

それほど、重要な機械ばかりの部屋で飲み物を飲み万が一にもこぼして機械にかかったら退職では済まないだろう。

まあ、それを踏まえても当たりの方の上司だった。

通信士は基本、一つの任務が終わるため働くのでその間休むことができない。

それを代表するようにF-15Jと会話しているのが彼女、坂本美奈子だ。


「鳴海さん、レーダーにF-15Jは捉えていますか?」

「ああ、問題はないちゃんと捉えている。


予定通りにA滑走路へ。」


「了解しました。聞こえますか刑部さん?

「「ああ、聞こえている。

それと被弾した、着陸に問題はなさそうだが最悪の場合胴体着陸もあり得る。」」

「わかりました。」

「「ああ、すまない。」」

「鳴海さん!」

「ああ、聞こえている。すぐに消火班向かっている。安心しろ。」

「はい、聞こえますか?」

「「ああ、ばっちりだ。予定通り着陸する。」」

「わかりました。」

「F-15J、確認!外傷はあるもの機体の制動に問題なし。」

「「これより着陸する。」」


F-15Jは速度を落としていき、音を立てて着陸した。


「「…今日はツイていたみたいだな。」」

「こちら管制塔聞こえるか?」

「「ああ、聞こえているよ。」」

「機体を移動させたらすぐに出頭しろ。」」

「「了解…水はもらえるか?」」

「ああ、たっぷりとな。」

「「…ただいま。」」


刑部を乗せたF-15Jは、彼が下りた後もその吐息を周囲に散らしていた。

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