第5話 冒険者ギルド

 あれから数日が過ぎて、仕事の手順もだんだん覚えてきたよ。

 重たい飼料の持ち方もコツさえつかめばやりやすい。


 それと孤児院の仲間ともだいぶ打ち解けて、気軽に話せる子も増えてきたんだ。


 実はこれが一番嬉しい! 普通に話せば普通に返ってくる。

 それに感動して涙を流していると、心配もしてくれる。

 はぁ~マジ、天国だよ。


 だけど、この生活にもちょっと不満もあるんだ。


 それは髪の毛を切ろうとしたら猛反対されたんだ。


 見た目が女の子っぽくなったから、せめて長い髪の毛だけでも短くして、少しでも男の子っぽくしようとしたのに。


「ユマちゃん、キャラが変わるから絶対ダメよ」


 自由はないのかと抵抗したけど、それは押し切られちゃって、髪を耳にかき上げる毎日だよ。


 あと服装もあれこれと注文されたけど、それにはこちらが断固拒否をした。

 構ってくれるのは嬉しいけど……スカートはないよ。


 まぁ、色々あるけどおかげで楽しい毎日を過ごせているかな。


 今日も朝の仕事をベルトランと一緒にしている。


「ユウマの故郷には他の種族がいなかったのかよ?」


 この話のきっかけは、僕が獣人の特徴に対して質問をしたからだ。


 同じ獅子人族でもライオンの特徴を色濃く出ている人もいれば、

 ベルトランのようにかなりヒュームよりの人もいて様々なんだ。


 だからそういう人は、ハーフなのかと思って聞いてみた。

 ところがこれが大間違い。

 変な顔されたので、異種族の人をここで初めて見たことを伝えた。



「そっか、そこから話さないといけないのか。

 よし、教えてやるよ。

 その特徴の違いはな、ヒュームでも目の大きさや色の違いってあるだろう?

 つまり普通に身体的特徴だから、親から受け継いだってところかな。

 そもそも子供は同族同士の間でしか生まれてこないぜ」


 なんか、失礼な質問しちゃったみたいだ。

 ごめんなさい。一般的常識らしくすごく恥ずかしい。


「街中でも異種族間での恋愛は珍しくないし、そう思っても仕方ないぜ。

 ただ結婚ってことになるとハードルが高くて、する人は少ないけどな。

 それとそういった人や子供に恵まれない人達が俺たち孤児の親になってくれるんだ」



 なるほど愛する人と添い遂げたい、しかし子供はほしい。

 人それぞれが尊重されている世の中なんだね。






 昼食後、ベルトランに声をかけられ振り向くと、隣にはポーって名前だったかな?  物静かなヒュームの男の子と一緒だった。


 2人はガーラル院長に言われ、僕の身分証明書を作りに付き合ってくれるそうだ。


 行き先は冒険者ギルド。

 そこで発行されるギルドカードが証明書になり、どこへ行くにも必要となる。


 発行は冒険者ギルドだけではなく、他の商工ギルド、錬金ギルドと各所で発行されている。


 偽名を使ったり、犯罪歴を隠すことができない仕組みらしく、だからこそ、その人本人を表すものになるそうだ。


『冒険者ギルド』『ギルドカード』2つのキーワードにテンション上がっちゃうな。


 ギルド会館にはヤサぐれ者がいたりとか、タバコの煙でいっぱいでドラゴンの骨が飾ってあったりするかな。


 ちょっと怖いけど、もし何かあっても2人がいるから大丈夫だよね。


 ドキドキしながら着いた先は……あれ? 


 他の建物と変わらないきれいな外観。


 中もピッカピカでどこか綺麗なホテルのロビーのようだ。

 ファミレスぐらい広いし、人の顔も穏やかで力を入れて損したよ。


 受付のお姉さんは綺麗で、これは鉄板だった。


「ベルトラン、ポーもいらっしゃい。

 今日はどうしたの?」


「モニカさんこんにちは。

 今日は新人のギルド登録と備品を貰いに来たんだ」


「この子ね、じゃあ手続きと登録時の説明をするから、

 2人は時間をつぶしていらっしゃい」


 2人がそのまま掲示板のほうに行くと、代わりに他の人がなぜか群がってきた。


「ほらほら、関係ない人は寄ってこない。散って散ってー、シッシッ!」


 追い払われた人達は少し残念そうな顔で離れていく。


「ごめんね、カワイイ娘みると見境ないのよ」


「あ、すみません。僕、男です」


「あ、あ……え……知ってたわよ」


 ウソだ。絶対ウソ、目が泳いでるもん。周りの人もざわついているし。


「と、とにかく登録しましょう」


 お姉さんはそう言うとおもむろに箱を取り出し手をかざすよう促してきた。


「では名前をどうぞ」


「ユウマ・ハットリです」


「結構、本名と一致しますね。犯罪歴もなし。ではカード製作に入りますね」


 そして小冊子を渡され、そこに書かれている内容を説明してくれた。


「まずギルド本来の目的は、メンバー同士による助け合いと権利を守ることです。

 助け合いとしましては、

 クエスト報酬や、アイテム売却時に税金と共に手数料を頂くことで、

 ギルド運営や新人教育に活かしています。

 それとギルド発注で強制参加の大型クエスト時、登録者全員による相互扶助。

 それに対してのギルドからの補助があげられますね」


 説明は受けているけど何か後ろが気になる。


「また寄ってきている。いい加減にしなさい!」


「俺たちも話聞いておこうかなぁと思ってさ」


「ベテランが何を言っているの! あんまり変なこと言っていると今日、明日クエスト受け付けませんよ」


「え……それでいいの? ありがとう」


 モニカさんにブチ切れられ全員追い払われた。


「はぁはぁ、どこまで話したかしら。

 そうだったわ、権利についてですが社会的保障がない職業柄、

 ドロップなどで得られたアイテムに対する保有権利ですね。

 1度手に入れた物は、他の誰にも奪い取られないよう、

 お渡しするギルドカードの魔法作用により、

 所有者をアイテムに認識させるシステムです」


 モニカさん、またうしろの方を睨んでいる。


「まっ、難しいことではないのですよ。

 例えばあなたの持ち物が誰かに盗まれたり、

 もしくは本意でない譲渡で、アイテムを渡してしまったとします。

 そうしたアイテムには、盗品の文字が刻まれるのです。

 もうこうなったら売ることも、人前で使うこともできません。

 すぐ捕まっちゃいます。……すぅー!」


 一瞬、溜めを作っている?


「これらを元にギルドに貢献して頂きランクを上げて、より良い冒険者ライフをエンジョイして下さいね」


 サムズアップをして白い歯を見せてニッカリ笑うモニカさん。

 最後だけなんか変な感じに……無理なキャラ作りかも。


 でも、思っていたよりしっかりしているかな。


 盗難防止システムも、昔そういった盗難や、

 ダンジョン内での殺傷事件が横行し苦労の末、開発されたそうだ。


 それ以降モラルも向上し、クエスト達成率も上がり良いことだらけなんだとか。


 それとギルドへの貢献度もランク制で表示される。

 Gランクから始まりAランクへと上がり、Sランクが最高となる。


 Sランクかー、いい響きだよね。ダメだ妄想が入る。


 《Sランクのユウマです。僕が来たからにはもう大丈夫》


 なんて言ってさ!く~、カッコいい~。こう剣でバッタバッタと切り倒してさ。


「おう、ユウマ終わったか?」


 グハッ! 急に声をかけられるのは、心臓に悪い。

 恥ずかしい姿を見られたみたいで気まずい。

 少し睨んだのにも気がづかずベルトランは続ける。


「よし、カードと備品を受け取ったら、街の門も通れるし早速外に出ようぜ」


 もらったカードはネックレスタイプの茶色の小さな金属の板。

 それと備品はリュックサックと小さな皮袋、

 腰まである簡易的なレザーアーマーに、大振りのシースナイフと鞘。


 一気にそれらしくなってムチャクチャ嬉しい。


 ギルドを出て装備を確認していると声をかけられた。


「ユウマ君、こんにちは」


 この知り合いのいない街中で、初めて名前を呼ばれた。

 ギルドの正面にあるパン屋から、元気に手を振る優しい笑顔。


 サン·プルルス孤児院で一緒のハンナだ。

 彼女はこのパン屋で見習いとして働いている。


 可愛いハンナに声をかけられるとちょっと照れくさいけど、

 人に名前を呼んでもらうと嬉しい気持ちになるね。


「おう、ハンナか。

 ちょうどユウマの登録が終わって、今から狩りを教えるんだ」


「気をつけてよ、無理しないでね」


 彼女と別れを告げて、門に近づくとそこに立っていたのは、

 初日にお世話になったあの兵隊さんだった。


 孤児院のメンバーと一緒なので、安心をしてくれた顔だ。


 挨拶をして門を抜け外に出ると、右の森には行かず左手の広くひらけた草原へと向かった。


 ここで何をするかというと、モンスター・ホーンラビットを狩るのだ。


 ウサギといっても体高60cmと大きく、名前の通り角がある。

 角は鋭くないけど当たったらヤバそう。


 可愛さのかけらもない表情で、突進してくるので結構おっかない。


 2人に言わせれば、ウサギは溜めてから動くし、直線的なのでたいしたことはないって。

 だから1人が囮となって引きつけ、2人が木刀で倒す作戦だ。


 確かに動きが単純だし、かわして着地を狙えば僕でもいけそうだ。


 まっ、そう思っていたけどね、実際はテンパって何がなんだか分かんなかったんだ。

 って言うか、狩りてこんなに難しいの?


 5匹倒した時点で終わりとし、川へと向かいそこで解体を始める。


 モンスターといえども、生き物を殺すことに抵抗はあった。

 でも、必死だったし初めてのことだったので、

 なんとか2人についていけるよう一生懸命頑張ったよ。


 でもさすがに解体は、グロすぎるよ!


 内臓を出すところから、も、もうダメです。


 皮剥ぎでピ、ピンクの肉がヒイィィッ、み、見えてる! もう、ダメーーーー。


 ショックで青い顔をしていると、静かな声でポーが教えてくれた。


「ウサギ2匹は孤児院でみんなの夕食です。

 残り3匹は肉屋に売るんですよ。

 独り立ちするにも誰も助けてくれないですから、

 そのときの資金は貯めておかないと」


 人は食べなきゃ死ぬ。それはわかっている。


 だけど昨日のシチューの肉がどこから来たのかは考えたことがなかった。


 誰かが手に入れ調理してそれを食す。

 その誰かが自分になったのだ。


 食べるたびに、他者の命を気に病んでいては生きては行けない。


 この世界の当たり前。 いや、元いた世界でも同じことだ


 それは残酷なことではなく、他者の命で自分の命をつなぐ、覚悟の行為。


 ……僕も向き合うべきだ。


「僕も……やるよ」


 避けて通ってはいけない道なんだ。




 捌き終わり、少し軽くなったとはいえ結構な重量。

 担ぐのを順番に変わりながら帰路につき、夕暮れ前には門番さんに挨拶ができた。


 まず向かうのはお肉屋さんだ。

 チャティーさんの精肉店は買値がここら辺で1番いい。

 でもベルトランは愚痴っている。


「あそこの娘うるさいんだよなぁ。血抜きが遅いとか、切り方が雑だとか。

 あれがなけりゃいい店なのにな」


「はははっ、ベッツィーはいい娘ですよ。

 ベルトランにも優しく教えてくれるじゃないですか」


「えー! あれが優しいのかよ」


 その精肉店は入った門から、少し離れた街の中央にあるお店だ。


 買値も売値も良く、店主のチャティーさんの腕もよい。

 それと10歳になる娘のベッツィーも可愛らしいので、

 お客に対するその軽口も人気の1つになっている。


「あ~、やっと来た。遅いわよベルトラン。

 血抜きが遅いって言われたことを覚えている頭があるなら、

 今日はちゃんとしてきたんでしょうね?」


「げっ!聞こえていたのかよ」


 そんな訳ないでしょ。何百メートルも離れていたじゃん。


「大きな声を出せば聞こえてくるし、それにあんたの噂話の伝わり方なんて、

 あんたの足より早いんだからね」


 え? マジ、気をつけなきゃ。


「ほら見せなさい。

 ……最低ラインは超えているけど、う~ん。じゃあこっちの3個を買いとるわね。

 はい、銀貨4枚と銅貨50枚、まいどありー」


 この世界の通貨は、銅貨・銀貨・金貨がある。

 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚の交換で流通している。


 価値としては多分、銀貨1枚は1000円以上の価値はあると思うんだ。


 よくわからないのは、今までお小遣いで買っていたのは漫画かジュースぐらいだし。

 この世界にそれらがあるわけがないので比べにくいんだよね。


 ベッツィーに笑顔で送られ、冒険者ギルドへ向かう道中でも、

 街のみんなに声をかけられる。

 この街はチャティーさんの所だけじゃなく、みんな親切で良い人ばかりだ。


 ギルドではホーンラビットの毛皮を納品するけど、

 これも2匹分は冬支度のため孤児院に欲しい。


 残りをギルドポイントを貯める兼、資金稼ぎのために買い取ってもらう。


 モニカさんはまだ仕事をしていて、怪我なく帰ってきたことを褒めてくれた。


 毛皮は3つで銀貨3枚になった。

 ちなみにホーンラビットの魔石は安く1個銅貨5枚。

 クズ魔石らしい、ちょっぴり可哀想。


 大変な1日だったけど、すごく楽しかった。

 そして帰る途中2人に、


「なっ、今日楽しかっただろ? 明日から毎日一緒に行こうぜ」


 と誘われた。


 マジ? やったー! メチャクチャ嬉しい。

 友達ができるのかと思うと緊張する~。

 本当にいいのかな?

 お礼を言うと怪訝な顔された。


「ありがとうなんて変だぜ、とっくに俺たち友達じゃないか」


 ははは……2人に会えてよかった。

 ほんと、ありがとう。これでボッチ卒業です。



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