第6話 難関ダンジョン最短突破

 翌日、俺は2日前に発掘されたばかりの地下墓地へと向かう。

 この場所は結構遠く、移動だけで丸2日掛かった。


 そして死に戻りしてから8日目の朝、俺は発掘隊の隊長にギルドカードを見せ、地下墓地の調査隊に加わる。

 ちなみに調査隊といっても、全員でまとまって行動する訳ではない。それぞれのパーティーごとの探索となる。


「6パーティーが地下に潜ったが、まだ誰も戻って来ない。それでも行くのか?」

「はい、大丈夫です」


 発掘隊の隊長が俺を心配してくれるが、問題は無い。罠の位置はすべて記憶している。

 そう、この地下墓地は罠がてんこ盛りなのだ。


 俺も初めて探索した時は、棘の付いた天井に押しつぶされて死んだ。確か44周目だったと思う。

 45から47周で盗賊系スキルをマスターして、48周目に再挑戦したら一発で最奥までたどり着けた。



 俺は自作の解毒剤を一粒口の中に放り込み、地下墓地の入口へと向かう。


「――あら? あなた、お一人様? どう? 私と組まない?」


 美人。巨乳。褐色の肌にセクシーなローブ。勇者学院入学ルートの目の保養ポイントだ。


「喜んで! 一緒に行きましょう! 俺の名前はニル・アドミラリです。お姉さんは?」

「私の名前はシビーラ。よろしくね、ニル君。ふふっ」


 俺はシビーラと握手を交わし、地下へと降りていく。

 狭くカビ臭い通路を進み、奥へと向かう。


「ニル君、進むの早くないかしら? 罠があるかもしれないのよ?」

「大丈夫です。ちゃんと見てますよ」


 怪訝な表情を見せるシビーラには構わず、ずんずんと進む。


「ね、ねえ……もしかして、一度来た事があるのかしら?」

「ははっ! まさか!」


 うっそーん! もう何十回も来てるー!


「おっ、死んでますね……」

「え、ええ……」


 床から槍が突き出てくる罠にかかってしまった冒険者達の死体が、通路に落ちている。彼等の血が床の穴に流れ込んでいるのを、俺はしっかりと確認した。


「壁走りしますが、お姫様抱っこをしても?」

「え? そんな事できるの?」


「じゃあお見せしますよ」

「きゃっ」


 俺はシビーラを抱きかかえ、壁を駆け抜ける。

 本当はこんな事をしなくても、通路の端を歩けばいいだけだ。

 では何故やるか? お触りを楽しみたいから。……ではない。後できっと分かるだろう。


 俺達は通路を進み、部屋にたどり着いた。


「――仕掛けがあったみたいだけど、もう解かれたみたいね」

「はい。最初の2名は失敗したようですが」


 部屋の中央には、何かを操作する台座があり、その前に矢が突き刺さった2人の冒険者が倒れている。

 誤った操作をすると、矢が放たれる仕掛けになっているのだ。


 彼等の血は床の穴に流れ込んでいた。

 今回もいつも通りのようだ。これなら他の冒険者達の血も、すべて吸われている事だろう。


「全員の死亡を確認するのも面倒だし、今回はショートカットしよう」

「――ん? 何かしら?」


「い、いえ! 何でもないです」


 基本1人旅だから、つい独り言をいってしまう。危ない危ない。


 俺は壁の前に立つ。一見まったく不審な所はない。

 だが、ここに隠し通路があるのだ。


「<念動>」


 俺は壁の向こう側にある、鎖のレバーを引いた。

<念動>は<死与>と同じで、対象の存在を認知できていれば、発動できる。


 ゴゴゴゴゴゴッ……!

 壁が床に沈んでいき、隠し通路が姿を現した。


「なっ!? 一体どうやって!?」

「俺の探知スキルで隠し扉を探し当て、<念動>でレバーを引きました」


「う、うそ……!? そんな事ができるのね! 凄いわ!」


 嘘だ。探知で隠し通路を見つける事は可能だが、レバーの存在は感知できない。

 実際に自分の眼でレバーを確認するまで、<念動>で動かす事は不可能だ。


「さあ、きっとここを進めば最奥ですよ。どんなお宝が待っている事やら」

「ええ、行きましょう!」


 シビーラは晴れやかな顔で俺について来る。奥に待ち受けるものが楽しみでしょうがないのだろう。


「ねえ、ニル君。あなたまだ若いけど、かなりの腕前なのね。良かったらこの後も一緒に旅しない?」

「喜んで!」


「うふふっ、じゃあ挨拶のキスをしてあげる」

「マジで!? やったあ!」


 シビーラは俺に大人のキスをしてきた。

 彼女の舌が俺の舌に絡みつく。


「わお……」

「うふっ、びっくりした?」


「これは今後が楽しみです!」

「うふふふ! 正直でいいわね!」


 俺達は楽し気な雰囲気で、階段を降りていく。

 そして、重厚な鉄の扉の前に到着した。


「……うお、重い!」

「私も手伝うわ」


 俺の筋力はまだ低く、彼女に手伝ってもらわないと、この扉を開ける事ができない。

 その為、ショートカットするには、シビーラを仲間に入れる必要がある。


 ゴゴゴゴゴ……扉が開いた。


「――おお、凄い!」

「こんな広い空間になっているなんて……」


 お互い役者だなと思う。


「お、こんなところに石で出来た棺がありますよ!」


 俺は手でベタベタと棺を触ってから、棺の蓋を開けようとする。


「……駄目だ! 開かない! シビーラさん、手伝ってください」

「ニル君……その棺は力では開かないの……」


 シビーラは妖艶な笑みを浮かべる。


「人間の生き血が必要なのよ……丁度あと1人分といったところかしら……」

「まさかシビーラさんは、この棺の中に眠るリッチに、『我の復活を手伝えば、お前に大きな力をくれてやろう』とそそのかされて、冒険者達を罠に導いたのでは?」


 彼女の目が見開いた。


「え、ええ……そうよ……よくそこまで分かったわね……さて、そろそろ麻痺毒が効いてきたんじゃないかしら……?」


 シビーラは舌なめずりをし、腰に差したシャムシールを抜く。


「あっ、大丈夫です。ここに来る前に長時間効く解毒剤を飲んできたんで。大人のキス、ごちそうさんです」

「なんですって!? ……こうなったら直接切り刻んでや――」


「<氷罠>発動」

「あぐっ……!」


 何本ものつららが彼女の胸を貫いた。


「あなたをお姫様だっこした時に、背中に<氷罠>を仕掛けました。簡単に肌を触らせては駄目ですよ?」

「ぐ……ぅ……」


 彼女はその場に倒れ込み、床の穴に血が流れ込む。


「ふっかあああああああああつ!」


 棺の蓋が勢いよく開け放たれる。


「<聖罠>発動」


「ぎゃああああああああああああああああ!!」


 リッチは復活して1秒で滅び去った。

 棺にベタベタ触っていたのは、<聖罠>を仕掛ける為だ。

 シビーラの死角となる場所だった為、彼女は最期まで気が付かなかった。


「第9チェックポイント到達!」


 俺はリッチが着ていた、冥帝のローブに着替えた。

 抗菌作用があるのか、まったくカビ臭くない。


 このローブは全属性に中程度の耐性を持ち、即死魔法に完全耐性も持つ優れモノだ。

 だが、このローブの真価は別にある。

 なんと暗黒魔法に限り、魔力による使用制限が撤廃されるのだ。

 つまりこれを着れば、習得している全ての暗黒魔法が使えるのである。


「ステータス展開」


 体力 :37↑

 持久力:35↑

 筋力 :31

 技量 :227

 魔力 :38(48↑)


 スキル:鑑定LV9 料理LV9 農業LV1 隠密LV9 錬金LV9 探知LV9

     迅雷剣9段 手刀9段 清流拳9段

 魔法 :発火 治癒 死与 火柱 耐水 呼吸 発光 強風 氷結 召雷 氷罠

     念動 聖罠


 耐性 :炎・冷・聖・闇(高) 水・風・雷・地(中) 即死(極)

 特殊 :死に戻り(呪) 成長速度上昇 泉の女神の祝福(体力10)

     婆のマッサージ(体力2 筋力2) 暗黒魔法制限解除


 称号 :武術大会優勝(体力3 筋力3 技量3)



 これで装備はそろった。あとは基本能力値をひたすら伸ばすだけである。


 俺はシビーラの遺体を火葬してから、再び階段を上がり、調査隊隊長に報告をする。


「危うくリッチを、世に解き放つところだった……! 礼を言うぞ! そのローブは君が持って行ってくれて構わない」

「ありがとうございます! では!」


 俺がリッチを倒さない場合、最後の生贄は彼になる。


 そして復活した奴は、アンデッドにしたシビーラと共に、この周辺一帯を死の街へと変えていくのだ。

 かなり被害が大きくなるので、極力ここに寄るようにはしている。


「さーて、そろそろ大詰めだ。気を引き締めて行こう」


 俺は次の街に向けて走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る