終章

01

さて、と。

どこからお話すれば良いのやら。

まあ、依頼はあの家のことについてですからね。

時間軸に沿ってお話ししましょう。

ああ、どうぞお構いなく。飲んでください。


いやあ、ほんととんでもない目に遭いましたよ。

もうこんな依頼は二度と引き受けたくないな、正直。


まずことの始まりは、もちろんあの洋館で起きた出来事だった。

電話の記録で、彼らが話していたようにね。

その発端となる事件がいつに起こったのか、どのようにして起こったのか、というのは私にははっきりとしたことは分からない。


だが、言えることはある。

一つは、あの家に住む者全員が殺されてしまうような事件が起こったことは、ほぼ間違いないでしょうねぇ。

ただ、昨今はネットや情報が張り巡らされているわけですから、そんな一家惨殺事件が起これば、大々的に報道されなくとも、必ず媒体としては残る筈だ。

私だって依頼をされた身ですからね、調べるところは調べましたよ。

何時間も掛けて見つかったのは、地方の新聞記事にごく小さく書かれている記事だけでしたよ。


ほら、見て下さい。

あれ?見えにくいですか?

『洋館の住人、不可解な引っ越し』と書いてあるここですよ。

殺人事件ではなく、”引っ越し”と書かれているのはなぜなのか。


考えられるのは2つです。


事件が起きたが、何者かにより揉み消されてしまった。

まあこんな洋館に住む人間ですからねぇ。

ある程度の権力があったのは間違いはないでしょうね。


或いは、事件が起きた痕跡すらなかった。

これは柱谷さんが話していたように、家からある日誰もいなくなってしまった、という話と符合しますね。

事件が起きたかどうかも判断しかねる、それこそ、突然の引っ越しかもしれないわけだ。


つまり、ある夜に、その”事件”は起きた。

しかし、どういうわけかそれは明るみにならなかった。

家に死体がなく、血痕も争った跡さえもない。

これでは事件性が全くない。

せいぜい失踪程度だ、こんなものは。

あるいは、そういうシナリオに、誰かが書き換えたのかもしれない。

だが、こういった奇妙な事象を好むのは、やはりオカルト嗜好を持つ人間だ。

朝になると家から人が消えていた、だなんて話は彼らには絶好のエサですからねぇ。

まったく、好奇心というのは恐ろしい。


さて、ここからが核心です。

なぜ、この事件は明るみに出なかったか?

私は調査において、これについて一つの答を見出すことができました。


単刀直入に言うと、住人達はおそらく、真犯人の手によりどこかに隠されてしまったんですよ。

そして、自分自身も最後は自殺した。


こういう経緯があったんですよ。

しかし、これでは必ず何かしらの綻びが出てしまう。

いくら上手に殺害をしても、住人全員を殺すような事件なんてのは、家を調べられればいずれ事件性を見出される。

しかし、警察は全くこいつを見出せなかった。


なぜか?

それは、あの”家”が後始末をしたからでしょう。


ここからは非科学的な話になりますが、もはやこれまでの事件を見てきて、今更科学で片をつけようだなんて思ってないでしょうから、我慢くださいな。


恐らく、一連の怪異の根本は、”家”そのものににあるんですよ。

元々、この家は建設された時点で、おかしかった、という訳です。

その怪異が住人を苦しめ、まず最初の起点となる”一家惨殺”が起こる。


ここで振り返っておきますが、あの家での怪異はある意味で”蓄積”していると思いませんか?

顕著なのは日記ですよね。

どこかで見たことのあるような”犬”が出てきたり、どこかで見たことのある”時計”が出てきたり。

これらは、”最初の事件”ではなく、”あの家の被害者達”の記録と共通していますよね。

大抵、幽霊屋敷といえば何か事件があって、そこから生み出された怨霊が、訪れた者に怪異をもたらす、というのがお馴染みですが、この家は違う。

先ほども言ったように、あの家は”そもそもがおかしい”んです。

”あの家の被害者達”も加わって、怪異を巻き起こしている。

つまり、あの家の”住人”となったんだ、彼らは。


そう。

”最初の事件”が起こって、あの家の住人は誰もいなくなった。

そして、あの家は、新たな”住人”を捜し始めたんですよ。








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洋館に棲まう者 住原かなえ @sumiharakanae

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