だい〝さんじゅうなな〟わ【主人公今川真、徳大寺さんを護る!】
くっそ! もう僕がやるしかない。会長を引き受けてくれた徳大寺さんのためにはっ!
「安達さん——」僕は動く。
動いたはいいが、考えないで動いていた。
「なに?」と安達さん。
女子の目に射すくめられるとか、どういう情けなさかと思うが、この選挙結果から『こちら側が結託した』というのを否定はできない。だが『トップに安達さんをつけたくないから』などと真っ正直になったら死ぬぜよ。
考えろ! 結託するためのもっともらしい別の理由が要る!
「なに?」再び同じことばをぶつけられる。
なにかもやもやと頭の中に浮かんできているが上手い言い方が出てこない。もうこれ以上の沈黙は無理だ。
「———分かっててわざと言ってるんだよね?」そう訊いた。相手に考えさせる分、僅かでも時間を稼げる。
「あなたになにが分かってるっていうの?」しーずかちゃんにおっかない顔で睨まれた。やっぱりそのあだ名似合わない。
だが怯むわけにはいかない。
「そんなん言うたち、『ワシ以外の誰に分かるか』、ちゅうもんぜよ」
「はあ?」
「徳大寺さんはなんの会も主催しとらんがよ。黒幕はワシみたいなもんやにゃあ」
「その喋り方カッコイイと思ってるの? バカみたい」
「気に障るならやめるけど」
「別に興味無いし。で、なんでそんな人をわざわざ会長に据えるの?」
どう言ったらいい?
「人間の心理を読むのが歴史通ってモンじゃき」
さらに相手に考えさせるよう仕向け少しでも時間を稼ぐ。
「それ、わたしには〝読めない〟って言ってるのと同じなんだけど」
その時だ————フイっと、
突然降りてきた!
「ちいと考えたらすぐ解るき」
しかし安達さんはなにも言わない。
「徳大寺さんを除くワシらはほぼ全員なんらかの会を主催しとったっちゅー言わばはお山の大将ぜよ。こん中の誰かが上に立つとなれば立てなかった者はどうなるがぜ? 風下に立つことになるき。しかも事の始まりはどうなっとったろーな? 自分の意志でこの会を造ったわけじゃないき。学校側の勝手なルール変更のせいぜよ。『あっちも私も同じ立場だったはずなのにどうしてあっちが会長で私はただの人なんじゃっ』ちゅう、どろどろとした感情が湧き上がるんが人間ゆーもんぜよ」
やはりこういう時は怪しい土佐弁に限る。
安達さんは無言のまま。
「誰もが納得するにはそれぞれの利害関係者から等距離の者を選ぶのが好都合。これがパターンだし、この中で誰がその立場にいるかといえば該当者はただひとり」と僕は怪しい土佐弁をやめて言った。
これで通すのはやっぱりくたびれる。そして利害関係者から等距離云々はまとめ先輩が言ってたことでもある。これが突然降りてきた。
そして、僕自身の判断でもう一つの理由を加えることにする。どろっと黒いのと純白と、二つの方がいい。
「——それともうひとつ。女子ばかりのリストを受け取ってどうしようもなくなっていた僕を助けてくれたのが徳大寺さんだ。そういうのを分かってる人は徳大寺さんに入れる」
「『助けてくれた』ってこのコが勝手に名乗り出たの? あなたが頼んだの? どっち?」
嫌なこと、いや、人の前で言うのにためらわれるようなことを訊くよな安達さんは。
「僕が頼んだ」
「なるほど、ごちそうさま。非常に分かり易い理由をありがとっ」
〝ごちそうさま〟って————
ふとまとめ先輩の方を見れば笑ったまま引きつったような顔をしていた。相当に冷や汗もんだったんだろうな。徳大寺さんの方を見ればこちらは表情の無い状態のまま凍ったように固まっている。僕の視線に気づいたのか目線だけが合った。
そして安達さんも最早なにも言わなくなった。ちょうどその時計ったように昼休み終了のチャイムが鳴る。
その音色に意識を取り戻したかのようにまとめ先輩が口を開いた。
「放課後またここに集合っ。提出書類を仕上げるから!」と。
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