だい〝さんじゅうろく〟わ【決戦! 総選挙なスーパーうぇんずでぃ・開票編】

 想定外が積み重なっていき、かくして投票は始まってしまった。事前の打ち合わせの目的がなんだったかを思い出せ!


 そう、あの安達って女子を押さえ込むのが目的。来年以降のために敢えてまとめ先輩を会長には選ばないというのが肝心の肝!


 どういう結果にするんだったっけ? そうだよ。徳大寺さんが4票を獲って会長になることになっていた。でも、その4票の中に徳大寺さんの1票が混じっている。自分が自分に投票するのが禁止なら徳大寺さんに入る票数は3票になるしかない。3票じゃ過半数に届かず決選投票になってしまう。


 まてよ、その場合の決選投票の相手の二位はどうなる? 二位が複数存在してしまう可能性がないか? しかも僅か1票で二位になれたりしないか? 複数の二位を足利将軍のようにくじ引きで確定させ、その二位と一位で決選投票? 可能性としてはこれはゼロにはできない。これでは会長を選ぶところからゴタゴタが始まってしまう。やっぱりすんなりこの一回で決める必要が、なんとしてもある。


 取り敢えず僕は徳大寺さんに入れるしかない。問題は——徳大寺さんは徳大寺さんに入れられない。これだと1票足りない。徳大寺さんはあと1票獲ればいいだけなのに。

 徳大寺さんに投票すべき人は……まとめ先輩だ! これで徳大寺さん4票になる。逆に徳大寺さんはまとめ先輩に入れればいいんだ。こちら側の5票が全て徳大寺さんに入ってしまったら疑われるって、まとめ先輩も言ってた。

 万が一安達さんと比企さんがまとめ先輩に入れたとて、3票対4票で徳大寺さんがハナ差で勝利っ!


 これだっ! まとめ先輩と徳大寺さんが票交換すればいいだけだ。


 しかしどちらかがこのイレギュラーな事態に心を乱され、おかしな行動をとってしまえば予期せぬ結果を生むかもしれない。選挙って終わるまでなにが起こるか分からない。


 ここでまとめ先輩がサイドボードの方へと歩き出す。先輩のことだからまともに考えていてくれてますよね? あなたが鍵を握ってます。山口多聞さんが見てます。あなたは自分には入れられず、徳大寺さんに入れなきゃならない。しかしそんな指摘ここではできない。


 そしてその次は徳大寺さん。まとめ先輩ほど責任は重くはないけれど、まとめ先輩に入れてくれないと事前に練ったシナリオ通りにはならないからね。


 あって無いような順番だけど順々にみんなが投票していき、そしてもちろん僕も投票し、七人全員が投票を終えた。

 時計を見る。昼休みの残り時間はあと、十四分もある。開票作業に必要な時間は充分にある。




「みんなで開票作業やるからね!」まとめ先輩が花瓶を手に取り高らかに宣言した。


 応接セットの真ん中のガラステーブルに花瓶の中身がひっくり返される。七枚の紙がばらまかれる。


「じゃわたしが一枚ずつとってくからみんな確認して」そう言うとまとめ先輩は一枚紙を取り上げた。


「わたしっ‼ まず1票」まとめ先輩が声高らかに言った。


「誰が投票したんです?」そう訊いてきたのは安達さんだった。嫌なことをいちいち訊く。しかし記名投票方式としたのだから仕方ない。


「投票した人は徳大寺さん!」


 さすがは徳大寺さん! しかしこの先はどうなるか……


「徳大寺さん1票っ。投票した人、今川くん」

 僕のやつか。


「上伊集院さん1票っ。投票した人、比企さん」


 誰かの嘆息のような声が漏れた。この声はにーにーちゃん? しかし声の主は複数だ。比企さんは安達さんじゃないのか? ういのちゃんの方を見る。なんとも言えない不思議な表情をしていた。


「徳大寺さん1票っ。投票した人、新見さん」

 にーにーちゃんは予定通りだな。


「徳大寺さん1票っ。投票した人、上伊集院さん」

 これまた予定通り。誰もイレギュラーな事態に混乱しなかった。立て続けに徳大寺さんに票が入り、合計票数はもう3票。


「上伊集院さん1票っ。投票した人、安達さん」


 安達さんも『ういのちゃん』? だがどうして『ういのちゃん』を推している? ここまで開票数6で、まとめ先輩の1票獲得は予定通りとして……ういのちゃんと徳大寺さんが2対3? 安達さんはういのちゃんと相性悪そうだったのに。比企さんを巻き込み何かはかりごとをしている。これは分断工作なのか?


 未開票はあとひとり。まとめ先輩の分だ。よもや徳大寺さん以外に入れてないよね。そうなったら『ういのちゃんVS徳大寺さん』で決選投票になってしまう。いよいよ事態が混沌としてくるぞ。


「徳大寺さん1票っ。投票した人、わたしっ」


 ナイスっっっっ! せんぱいっ! 以心伝心だ。どうなることかと思ったけど結果良ければ全てよしだ! これで最終結果が出た。


 徳大寺さん、4票。会長決定!

 ういのちゃん、2票。次点。

 まとめ先輩、1票。計算通り!

 確かに全部で7票。


「どういうこと? 徳大寺さんってどういうこと?」安達さんが言ってる。疑われてる⁉


「ちょっと上伊集院さん、徳大寺さんで納得しているの?」さらに安達さんが言ってる。


「納得もなにも、わたしが徳大寺さんに投票していますから」ういのちゃんが答える。


「このコはリストに名前も無い、なんの主催もしていないコなのに、いきなり支持を得るなんて有り得ない。これは出来レースに違いないわよ」


「しーずかちゃん、いい加減にしたら。わたしだって『1票』という結果を受け入れてるんだから」と、まとめ先輩。


「でも先輩は徳大寺さんに入れてますよね?」


「……」


 あちゃー、そうか。自分で自分に入れていない以上、まとめ先輩もグルであると、そう見抜かれている! これじゃあ〝こちら側の5票が全て徳大寺さん〟と結果が変わりない。

 落選したまとめ先輩と安達さんが〝傷をなめ合う(?)〟形に持っていくという計算が……崩壊していく————


 安達さんはいよいよ徳大寺さん一人に狙いを絞ったよう。


「徳大寺さん、なにか知ってるなら言った方が身のためよ。それともあなたの知らないところで他の人たちがなにか企んだのかしら?」


 なんだ⁈ 〝身のため〟ってのは。

 徳大寺さんが一方的に責め立てられている。立ちすくむ徳大寺さん。懸念は現実に。


 完全にこれは失敗というかなんというか、人の性格を読み切れなかったというか、どう収拾をつけたらいいの?

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