だい〝さんじゅう〟わ【前哨戦! 徳大寺聖子VS安達閑夏】

 徳大寺さんはある程度のところまでは手伝ってくれる。ある程度のところとは『呼ぶ』というところまで。

 なにか頼むのに比企さん経由にしようか、直接安達さんにするかで徳大寺さんは迷っていたよう。だけど〝直接〟を選択したということだ。

 もし徳大寺さんに会うことさえ拒否るなら、この『会』の話しは終わる。ただし学校非公認の会として存続の余地はあるけれど、僕の当初の目標からは外れる。でもたぶん僕はそうなっても抜けそうにもないけど。



 昼休み、職員室。徳大寺さんは僕らの担任の先生に頼んで安達さんを呼び出してもらう。もうこの時点で相手にされない可能性はあった。僕は十二分に離れた机の陰で様子を窺う形にしている。

 別に逃げたわけじゃない。ただ徳大寺さんが「〝本題〟以前に、呼び出したこと自体でなじられるようなことがあったら、直接そんなことを聞く必要は無いよ」と僕を気づかってくれた。やっぱり徳大寺さんって優しい。それに比べてあの安達という女子は……。


 どうせ姿すら見せないだろうと半分以上は思っていた。しかしあの女子はやってきた。けっこう待たされたが。

 傍らには引きずられるようについてきた比企さん。すっかりさりげないしゃれも定着してるな。言うとみっともないから決して口には出せないけど。


 安達さんは来るなり露骨に嫌な顔をしてみせた。


「なかなかやるじゃん」徳大寺さんはよく通る声で比企さんの方を見て言っていた。これは徳大寺さんなりの宣戦布告だ。比企さんは困ったような笑顔。ある程度図星だ。きっと必死に説得して安達さんを連れてきたんだろうな。


「どうしてその『今川』っていう男子と私が会わなきゃいけないの?」不機嫌さを隠そうともしない口調で安達さんが言った。


「えーとね、なにかを賭けた説得がしたいということなんだけど」


「なにを賭けてるっていうの?」


「学校公認の同好会」


「あなた達五人集まってなかったっけ?」そう言った安達さんの顔は笑っていた。とても嫌な感じの笑いだ。


「それはそうなんだけど」


「さてはあなた達、なにか仲違いでもして数が合わなくなったんでしょ?」


 どーしてそういう発想をするんだ? しかし部分的には当たっていなくもない。


「それで今川くんと話しはしてくれるのかな?」徳大寺さんは訊いた。


 安達さんは少し考える。そんな風に見える。

「いいわよ。じゃあ放課後ここにその男子を呼び出しなさい」安達さんの命令調の声が聞こえた。




 僕と徳大寺さんは職員室を後に自分たちの教室へと戻った。

「どうしてあのコに命令されなきゃいけないんだろうって思ったよ」徳大寺さんは腹立たしげに言った。話しはここでは区切られない。「——だけどわたしはわたしの役割を果たした。あとは今川くんがこのコを説得して『会』に入れることに成功すればういのちゃんも納得するよ」と厳しいことを言う。

 そう、まだ道は完全には閉ざされていない。まだ終わらない。気だけはすっごく重いけど。


「——もし失敗してもあのコ抜きで非公認の会は造れるよ。耳が痛いだろうけど学校公認にできなかったのは今川くんの説得不調が原因ということになるから、それはそれで納得するしかなくなるでしょ? 比企さんには……ゴメンだけど」


 徳大寺さんは優しいけど厳しくもある。


「説得するための作戦かなにかがあるの?」徳大寺さんにそう訊かれた。


「なにかを考えてもどうせその通りにはいかないから——」という返事をした。それは率直なものだ。予め作戦立ててもその通りにいかない——即ちレイテ湾だ。(まとめ先輩に言われ多少は勉強したのだ)


 徳大寺さんはダメだこりゃ(たぶん)、という顔をしていた。


「——でも僕と話しをさせるところまでよくこぎつけたよね」と僕は言った。

 一番最初、安達さんには会うなり拒絶されたから——

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