14. 心を奪われて〜会いたくて
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気まずい別れから半月。レベッカは寝る間も惜しんでキルト作りに没頭した。彼とは住む世界が違うし、ニューヨーカーなんて大嫌いだけれど、それでも、この気持ちを否定することはできない。
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濡れネズミになったあの日から半月。レベッカは作品に没頭していた。
〈ラミティエ〉の仕事時間以外はほとんど、文字通り寝る間も惜しんでキルトの製作に費やした。
「レベッカ、少しゆっくりしたら?」
スーザンが心配して部屋の外から声をかけてきた。あまり気をつかわせないように、なるべく部屋にもどってから作業をしていたが、伯母は気づいていたらしい。
「そうね、今日はそろそろやめておこうかしら」
返事をしてレベッカは灯りをしぼった。
2人でボートを押しながら泳いで湖岸までたどりついたあと、すっかり頭を冷やされてしまったこともあり、お互いに気まずい空気を引きずったまま別れることになってしまった。
すぐにパントリーで服を洗濯するとレベッカがアンドリューに申し出たものの、いや、あとは帰るだけだからいいと押しとどめられた。
そしてタイミングの悪いことに、ホテルにもどってすぐにマイケルとジェイムズが楽しげに戻ってきて、着替えたアンドリューと釣り談義に花を咲かせているうちに帰る時間となり、2人は帰ってしまった。
レベッカは、なんであれ湖に落ちるきっかけが自分にあったことを反省した。そして、あやまるタイミングを逃してしまったことを心の底から後悔していた。
別荘のことで頭に血がのぼったものの、アンドリューからしてみれば、そこまで責められる筋合いはない。
感情的になっている自分をおさえて冷静になろうとしていたはずなのに。
アンドリューとのことを考え、心を整理しながら作品を進めるつもりだったが、気づくとその仕上がりに夢中になっていた。ひと針ずつ進むうちに、作品のもつ輝きが増していく。
いい仕上がりになりそうだわ。手を止めて灯りの下に置き、少しはなれた場所からキルトをながめる。
そのとき、キルトに足りなかったものが見えた。未来の色だ。赤い情熱の色。
アンドリューは、仕事についても自分の将来についても熱く語っていた。体の芯に熱い思いがあるからこそ、彼はあんなにも人を魅了するのだろう。そのアンドリューの色があってはじめて、家族のタペストリーが完成する。
明日の朝、日の光が差したらアンドリューの色を探しに行こう。レベッカは少しだけ安心して眠りについた。
その後、アンドリューから連絡はなかった。土地に関してもっと強引に迫ってくると思ったが、そうではなかった。
レベッカと過ごしているあいだも、その話題にはほとんど触れなかった。もうあきらめたのかと思えるくらいに。だが、出発間際に伯父と話していた様子から、別荘を作ることをあきらめたわけではないらしい。
では、どうしてもっと強引にレベッカを説得しなかったのだろう。
根を詰めすぎて疲れた目を休めようと外に出ると、自然に足があの丘へと向かっていた。最初にアンドリューとピクニックをした場所だ。
どこにいてもアンドリューを思いだしてしまう。短い滞在だったのに、それほど彼の存在は大きくなっていたのだ。
目は休められても心の安らぎは得られなかった。
それならキルトを進めたほうがましだ。レベッカはじきに部屋に戻り、また作業に取りかかった。なぜこんなに頑張って、自分で作ることにこだわるのだろう。
答えは簡単に出た。
アンドリューに会いたいから。
自分で作ったキルトを、自分の手で彼に贈りたかったからだ。
住む世界が違う人間だということは百も承知だが、それでも会いたい。知り合って間もないし、大嫌いなニューヨーカーだし……それでも彼が好きだ。
愛しているのかもしれない……。
レベッカは自分の気持ちに愕然とした。それでもその思いを否定することはできない。
レベッカは、ひと針ひと針に心を込め、誕生日に間に合わせようと夜なべ仕事を続けた。
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