第9話「兄の趣味は妹に筒抜け」

「ね、涼介。詩乃のこと、どう思った?」


 テレビに目をやりながら、葉月が尋ねる。

 近くの椅子に座っていた涼介は、その質問の意図がイマイチ分からなかったが。


「立花さんか? うーん、いい人だと思うぞ」

「いい人、ねー」

「だって、お礼がしたいってわざわざご飯を奢ってくれたしな。それも、言い出した次の日にだぞ」


 ひとまず、今持っている印象を口にする。

 親切というか、律儀というか。

 うまい言葉が出てこず、結果「いい人」などという曖昧な表現にはなったが。

 それは、葉月も引っかかったようで。


「もっと他にないの? 可愛かったとか、おっぱい大きかったとか」

「おまっ──。んんっ、まあ、それは否定しないけど」


 事実、立花詩乃の胸は非常に大きかった。

 少なくとも、目の前でアイスを食べながらだらけている妹に比べれば、かなり。


「……いま、アタシと比較したでしょ?」

「いや、そんなことないぞ?」

「嘘。絶対、詩乃の胸を想像しながら、アタシのこと見てた」


 あー、やだやだ。これだから男は……と、葉月は呆れた顔を見せる。

 自分から話題を振っておいて……と、涼介も言いたいところではあったが、そこはグッとこらえる。余計な火種は生まない方がいいのだ。

 そもそも、妹の胸など興味のサラサラないのだが。


「ま、それはいいとして。かわいいでしょ、詩乃」

「……まあ、世間一般的に見れば、かわいい部類ではあると思う」


 葉月が美人系であるならば、詩乃はかわいい系だろう。

 いわゆる『守ってあげたくなるオーラ』のようなものが出ているというか。

 やや小柄で、控えめな性格。それでいて、気配りもできる。

 葉月ほどずば抜けた容姿ではないものの、それでも学内で見れば上位に入るだろう。


「なにそれ。なんでちょっと遠回しなの」

「いや、別に……」

「……ははーん。さては涼介、結構好みなんでしょ?」

「ばっ──。そ、そんなことはないぞ……?」

「いいって、隠さなくて。そういえば涼介、そういう子が好みだったっけー? 女優でも、大原望結ちゃんが好みだって言ってたもんねー」


 しまった。こういう時、兄妹というのは厄介なものである。

 自分の好みが、すべて筒抜けじゃないか……と、涼介は頭を抱えた。

 正直、詩乃はかなり好みのタイプだ。

 特に、あの守ってあげたくなる感じがいい。


「……言っとくけど、好きとかそういうんじゃないぞ?」

「はいはい、分かってるって。というか、会って数日で好きになられたら、こっちもビックリよ」

「まあ、そうだな」

「にしても、詩乃がタイプかぁ……。そうだ、せっかくだし、今度の週末みんなで遊ぶ?」

「え? なんでまた急に」

「いや、今日話したじゃん。今度遊ぼうって」

「まあ、そういう話もあったが」

「じゃあいいじゃん。涼介もさ、自分の好きなタイプの女の子と遊べるの、嬉しいでしょ?」

「……」


 嬉しくないといえば、嘘になる。

 だが、余計な気遣いは不必要だとも言いたかった。


 とはいえ、今みたいに葉月が「やる」と決めたことは、反論の余地がないことを重々承知している涼介は……。


「はい、決まりね! じゃあ詩乃にはアタシから連絡しとくから」

「……はあ、わかった」


 ただ一言、「分かった」としか返すことができないのである。


【あとがき】

すみません。

切りのいい箇所で区切った結果、少し短くなってしまいました…!

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恋愛感情のない双子の兄妹が、二人暮らしをするとどうなるか? ミヤ @miya_miya2525

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