天界魂管理局記録保管庫「死神書店」

朋藤チルヲ

【人間界0】

 けたたましくサイレンを鳴らす救急車が、昼下がりの街を駆けていく。


 その音は、辺りの喧騒や匂い、空気までをも巻き込んでいくかのようなのに、人々は意識を取られない。覗き込んだスマートフォンの画面から、視線を上げることすらしない。


 赤色灯を回転させた車が行きつく先では、人間の生と死のドラマが存在する。生と死の狭間で揺れ動く魂を、すでに乗せていることもある。

 そして、それは必ず分類される。


 生還する者と、旅立つ者。どちらかに。


 残念にもこの世を離れることになった魂が、いったいどこに向かうのか、誰も知らない。それらが、もう二度とこちら側に戻ってくることがないからだ。


 だけど、その答えを知っているモノたちがいる。


 耳を澄ませば、きっと聴こえるだろう。

 寿命が尽きた魂を回収にやってくる、黒いマントをひるがえす使者の足音が。


 彼らは、いつも小脇に書籍を抱えている。

 厚みのある、タイトルが書かれていない、白紙の書籍を。

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