解説02 キーワード解説


*ハイドロフラーレン(H60)の発見とその応用


 水素原子同士がサッカーボール型の球状に結合したクラスター。

 同様の原子結合を持つ炭素原子クラスターであるフラーレン(C60)は現実でもカーボンナノチューブ等で実用段階だが、従来まで不可能とされてきた弱陽性電荷を持つ水素原子の超共有結合を可能にし、さらにクラスター同士が知恵の輪状に繋げられる性質(H120、H180~H60×∞)を持つ為、理論上は中性子並みに圧縮が可能(本編の段階では常温で耐圧容器に入れられた液体水素の約10000倍の高密度を持つ)。


 超結合生成には多大な電力(軽水炉級の原子炉等)が必要だが、ひとたび結合すると性質的に安定し、また人為的に電荷をコントロールする事で単一の水素原子として取出す事により、化石燃料に代替するエネルギーシステムが完成した。


 主な使用方法は、大気中の酸素と反応させるガスタービン式水素エンジンや燃料電池で、超小型の燃料タンク(高密度になっても水素原子の量自体は変わらないので、その分だけ重くなるが、運搬容器や外部の抽出装置の小型化軽量化が可能)を用いてマシン全体をコンパクトに出来る。


 松羽目の組織で基礎研究がなされていて、防衛ミサイルに偽装した大陸間弾道ミサイル(打ち上げブースターの超軽量化に貢献)や、研究を引き継いだゲッヘラーによって、オートマトン(背中のジェットパックの燃料コンテナ)以降のロボットにはこの技術が応用されている。


 最初にこの形状をジオデシック・ドーム構造として発見したバックミンスター・フラー(1895年生まれの実在した人物。「宇宙船地球号操縦マニュアル」の著者として有名)にちなんで、「バッキー・システム」とも呼ばれる。



*シータワー計画


 海中の水から水素を分解して、

 H60の超共有結合を生成させるエネルギー施設の建設計画。

 原子力に頼らない、本当の意味でのクリーンエネルギーの実現を目指している。

 見た目は石油採掘リグに似ているが、カーボンナノテクノロジーを応用した超高変換効率の太陽発電装置、風力発電プロペラ、潮力発電のスクリューを持った複合プラントを、タワー周囲に広大に浮かばせ、海中の水分から水素を得てH60を生成する計画。



*ペイ・フォワード計画


 ハイドロフラーレンの世界への公平な普及を目的として考えられた経済プラン。


 シータワーの建設と、バッキーエンジンの研究、開発、普及を国連の直結の機関

(U.N.A.E.M.E. =(ユーネム)国連代替エネルギー統括機関)が管理し、参加各国のGDP(国民総生産)に合わせて投資(バッキーファンド)を募ると共に、配給されるH60の価格を調節して、GDPの低い発展途上国に安価なエネルギーを与えて開発を援助する一種のODA(政府開発援助)。


 GDPの高い国が負担した額は一種の通貨=ポイント制として蓄積され、

H60の購入や、後にそのポイントを発展途上国から食料や労働力として提供を受ける事が出来る。また、発展途上国も自国領の海域や土地などにシータワーや太陽発電に必要な面積を提供する事でポイントを取得したり消費する事も出来る。



*バッキーファンド/バッキーポイント


 国家間でのみやりとり出来る特殊通貨。

 目的をハイドロフラーレン技術の開発と普及に限定しており、また国家間や個人の資産の格差を減少させる事が目的とされているので、企業の株の様に個人で売買する事は規制されている。


 だが、自国のH60開発普及の貢献度を、国債を買うと言う形で企業や個人の投資は可能。



*DNA・コード・インプランテーション


 越路博士の研究によりほぼ完全に解析されたヒトのDNAコードを人為的に組み替え、ヒトの特定の器官を増強したり、再生力や寿命を飛躍的に向上させる事が出来る技術。


 形態としては細胞質を持たないウィルスに似ており、特定の細胞のDNAやRNA組織に侵入してインプラントされた対象をごく短期間で改造する事が出来る。


 松羽目の秘密組織には、能力差はあるがこのDNAコードインプラント

(キラ、奈々、ヤエも含む)を受けている。


 ウィルスと異なる点は、コードがインプラントされる対象専用に配列されているので、他の個人には効果や影響が無い点が挙げられる。



*DNAフォトンスキャナ


 ヒトの全DNAコード情報を陽子照射で読み取る装置。

 髪の毛根一本からでも数分で読み込みが可能。



*ハイブリッド・クローン


 身体のどの部位にもなりうる万能細胞の発見と、ヒトゲノムDNAデータ書き換えの両技術の完成で可能となったクローン技術によって生まれたコピー人間。


 卵細胞から成体に成長するまでのプロセスを約半年に短縮し、成体となってからは老化を防止して寿命を延ばすコードがインプラントされているが、技術的に未完成な部分も多く、コピー体もオリジナルデータの持ち主には能力的に及ばない。



*バイオモデム


 デジタル信号を人間の神経組織に流れる電気信号に変換したり、また人間の神経を伝達する電気信号や生理ホルモンの流れをデジタル化する技術とその装置。


 デバイスは小さなカプセルに入れられており、鼻の穴から専用のインジェクターを用いて移植される。


 カプセルは移植対象となる個人専用に作らる為、DNAフォトンスキャナによる読み取りからデータ組み替え、デバイス完成までには時間がかかるが、生体拒否反応を起す事無く身体と神経組織に同化する。


 本編の段階では、まだ二個しか存在しない。


 越路博士が自らを対象に実験台となっていたが、博士の死後、火葬された灰の中から奈々が装置を発見し、やがて奈々の身体にもバイオモデムが移植されている事が判明する。


 バイオモデム単体では機能せず、外部の通信装置を介して脳内でネットを検索したり、マシンのオペレーション・システムと相互通信して、オートマトンの発展型であるサイバーマトンを操縦する事が出来る。



*記憶の移植と消去


 バイオモデム技術の開発によって可能となった、人体の脳の記憶を司る部位のデータの書き換えや消去技術。


 本編内では完成された技術とは言えず、データの移植が完全で無かったり、

消去された記憶が偶発的に甦ったりしてしまう。これはヒトの脳の記憶が多次元的かつ時系列順に蓄積されている為に、部分的な書き換えや消去を行うと脳が自発的に消されたデータを修復しようとする機能があるからではないかと考えられている。


 主にヒトを戦闘マシンに洗脳する為に使用されるが、越路博士が奈々の殺人マシンと言う悲しい記憶を消す為に奈々に施す。


 だが、皮肉な事に奈々は逆に人間的に相反する性格を持つ様になり、後々奈々を苦しめる。




*オートマトン


 松羽目の組織で基礎研究され、松羽目の組織の崩壊後にゲッヘラーの手によって量産化に成功した、バッキーシステムを動力とする自律型戦闘ロボット。


 全高180cm、重量120Kg(銃器等の装備含まず)と、ヒトとほぼ同じ体型をしているので、通常の人員運搬車料や航空機での移動が可能。


 燃料電池と水素ガスタービンエンジンをパワーソースにする機動性に富んだ二足歩行兵器で、ジャンプや不整地でのホバー移動、航空機からの降下程度なら短時間の飛行も可能だが、舗装道路上での高速マニューバリングには、足首に内蔵されたインラインスケート(ローラーブレード)状の車輪を用いる。


 主兵力は5.56mm SS-109弾薬使用のM249改軽機関銃と半自動装填ベルト給弾10連発式40mmグレネードランチャーで武装している。装甲は多重素材の複合式だが、小型軽量化の為に充分とは言えず、O.S.が未完成でバグだらけの為にその性能を生かしきれていない。



*グランドマトン


 オートマトンの貧弱な装甲の問題の対応策として、被弾をレーザースキャナで事前に探知し、爆風を起してダメージを軽減するアドバンスト・リアクティブ・アーマーを備えた後期型。だが、リアクティブアーマーは一度被弾した箇所の装甲が無防備に近くなる欠点がある。


 全高250cm、重量380Kg(銃器等の装備含まず)。

 装甲と脚部の増強でオートマトンの約4倍と重量が重くなった分、機動性が犠牲になっており、舗装路面の高速移動は片足に4輪付いた大型のホイールで走行し、

不整地の移動には二足歩行を用いる。


 主兵力は.50BMG使用のブローニングM2機関銃と、XM307(30連25mm対地誘導型グレネードランチャー)。V-22オスプレイ垂直離着陸機の改造型AV-22GM(水素ガスタービンエンジン搭載)に3機が搭載可能で、機内収容時には両足を折り畳んで前傾姿勢を取る。自重がかなりある為、航空機から降下の際にはオートマトンの様に自力浮上は出来ず、ラペリング・ワイヤーを用いなければならなくなった。



*フライングマトン

 オートマトンの改良型。

 折畳み収納が可能のパラグライダーに似たデルタ形状翼を持ち、装甲を軽量化して低空飛行能力(地上~500m)を持たせたタイプ。

 全高220cm、重量250Kg。


 使用O.S.はオートマトンに三次元航行システムを追加した物だが、やはりバグを抱えていて、仲間の誤射や衝突を起してしまう事もある。


 武装は対地、対空用ゼネラル・エレクトリック社製の口径7.62mmミニガン砲、背中に熱追尾式の4連空対空ミサイル(H.S.A.A.M.)ポッドで武装している。



*サイバーマトン・エグゼター(アイン/ツヴァイ/デュレイ)


 オートマトンのO.S.の未完成度をカバーするべく、人体の脳の反射神経組織をO.S.代わりに使用する一種のサイボーグ。


 ボディ内にヒトをそのまま収容する為、全高約8mと、オートマトンの4倍以上の大きさがある。


 オートマトンとその派生型を遥かに凌ぐ新型で強力なハイパー・バッキー・エンジン(主出力をH60の急速分解して超高圧水素ガスを噴射、アフターバーナーで水素を大気中の酸素と燃焼させる)が搭載されていて垂直離着陸と高速の空中飛行、

それに水素を燃焼しない噴射システムで大気圏外での行動が可能となった(大気圏内でもアフターバーナーをオフにする事で、熱を放射しないドライブが可能で、赤外線追尾ミサイルを避ける事も可能)。


 メインプログラムは搭載されたコンピューターが司り、中にいるヒトは脳の組織だけを利用され、搭乗している本人は意識を失わされている。

 本来なら移植されたバイオモデムを通してシステム機能する筈だったが、越路博士の死亡と松羽目の研究施設の崩壊によるデータ損失の為、個別バイオモデム製造の大幅な遅れを余儀なくされている。


 それを補う為、ヒトの脳や神経組織に直接電極を埋め込むと言う原始的な手段で代用しており、パフォーマンスは充分発揮されていない。


 サイバーマトンの設計思想においては人体はあくまで脳組織を生かす為のドライブシステムと見なされて、不要となった手足を切除されている場合もある残酷な兵器。


 松羽目の組織で基礎研究がなされていたが、ゲッヘラー率いるネオナチスの組織によって試作三機が実用化された事から、壱号機、弐号機、参号機はドイツ語で「一番目」、「二番目」、「三番目」を意味するアイン/ツヴァイ/デュレイと呼ばれている。


 祖父からバイオモデムを移植されていた奈々は、サイバーマトンに乗り込むと最強のパフォーマンスを発揮する事になる。





*バッキーキャノン


 エグゼターのバックパックに装備されているハイドロフラーレンの技術を応用した兵器。H60の結合を急速に分解する事によって発生するエネルギーを利用して、プラズマ状に熱せられた金属の弾丸を音速の20倍もの高速で発射する。


 被弾した対象物を運動エネルギーと熱エネルギーで破壊する為、強大な威力を持つが、反動も大きいので、ツヴァイから発射される際には同じくH60の急速分解による反対方向への対反動制御バックブラスト( C.R.B.B.D. Counter Recoil Back Blast Discharge )を行う、一種の無反動砲でもある(バックブラスト自体もかなりの威力がある為、後方の味方には注意が必要)。


 また発射する際に弾丸が高熱の液体状となってしまう為に、目標が遠距離の場合の命中精度が低いと言う欠点があり、その為にエグゼターのO.S.に標準装備されている弾道予測照準システム(E.B.A.S. Estimated Ballistic  Aiming System )を用いて射撃を行う。


 通常は二つに折り畳まれてエグゼターの背中の右側に収納されている。



*バッキーランチャー


 車両に搭載可能の小型バッキーキャノン。

 やはり強大な破壊力を持つが、後方向の広範囲にに対反動制御バックブラストが噴射されるので、使用出来る状況はかなり限定されてしまっている。


 弾頭が軽い分だけ弾速が音速の約100倍と高く、近~中距離の目標なら照準を合わせた瞬間に的中が可能だが、陸上で使用する場合には超・超音速の弾丸が生み出すソニックブーム(衝撃波)による二次被害さえ出てしまう。


 バッキーキャノンと共に、装甲の厚いグランドマトンを一発で撃墜出来る数少ない兵器の一つでもある。




*バッキーブラスター


 エグゼターの右腕に装備されている小型のバッキーキャノン。威力は若干落ちるが、上下二連で確実に標的を仕留める。




*ハイドロソード


 バッキーキャノンやバッキーブラスターの上下に付いている、H60を急速分解してマイクロノズルから高速噴射し、その勢いで対象を切り裂く接近戦用兵器。



*ステルス戦車


 南部我問が密かに私費で開発していた、バッキーエンジンとバッキーランチャーを搭載した戦車。操舵手と砲手、それに戦車長の3人乗りで、H60の急速分解によるジェットブラスト緊急浮上と水上走行が可能。


 あまりに秘密裏に開発されていたので、名前すら付けられていない。




*弾道予測回避行動 ( C.B.P.M. Counter Ballistic Predict Maneuver )


 エグゼターから搭載されている、自分に向けられている武器の画像を解析し、

銃口の向き等から予測される弾道を計算して、その弾道を高速マニューバーにより被弾を回避するシステム。


 弾速が音速程度の通常弾薬に対しては有効だが、弾速が超高音速のバッキーシステムの武器には完全には対応出来ていない。


 また、ヒトでもDNA改造を施されたキラや奈々は直感的にこの行動を取る事があり、システム開発の発想原点ともなった。



*弾道予測照準システム(E.B.A.S. Estimated Ballistic  Aiming System )


 C.B.P.M.と同じく、エグゼターから搭載されているシステム。

弾道が受ける、地球の重力や大気密度の変化の影響を計算する機能と、目標物体の機動性能パターンを計算して着弾点を修正する二つの機能から成り立っている。


 やはり奈々やキラには、DNA改造によってこの能力が備わっている。



*バイオニックE.M.P.


 バイオモデムと生体融合した奈々に備わった、E.M.P.( Electro Magnetic Pulse / 電磁パルス波)を放射して、オートマトンや誘導ミサイル等の対象となる電子システムを破壊、もしくはかく乱させる能力。




*ハイドロフラーレン爆弾


 高密度のH60を特殊なイオンフィールドの中に閉じ込めて超高速分解し、

その衝撃波と熱波で周囲を破壊し焼き尽くす爆弾。通常では戦略核兵器しか搭載出来なかったトマホーク巡航ミサイル等のサイズでも、ヒロシマ型原爆の1000倍ものメガトン級の破壊力を持っている。


 核兵器と違い放射能を撒き散らさない性質があり、攻撃直後から被爆地の占領が可能な為に、安易に使用されてしまう懸念がある。


 ちなみにオートマトンやエグゼターに搭載されているバッキーエンジンではH60の分解プロセスが異なり、通常は安定しているので、破壊されてもこの様な爆発は起きない。




*ジーンマトン


 サイバーマトンの進化型で、4つのバッキーキャノンを持つ最速、最強の自律型オートマトン。


 現段階では開発すらされていないが、4次元空間を移動出来るキュリアン族によって、未来から再生されて奈々達に挑戦して来る。




*南部百四年式拳銃


 かつての日本人銃器デザイナー、南部麒次郎のひ孫にあたる南部我問が設計した半自動拳銃。


 口径はデザートイーグル等に使用されている.50AEと互換性のある12.7×33mmNANBU。


 外見は.44オートマグと南部十四年式を足して二で割った様なスタイルをしている。弾丸発射時にブリーチにかかる高圧のプレッシャーを、ボルトに配置された3個のローラーにより一時的にロックするヘジテイト式ディレード・ブローバック・システム

(H&K G3に類似)を採用している。


 特にこの銃の為に開発された有翼式徹甲弾(フレシェット型の劣化ウラン製弾頭で、加速用のサボットの他に、弾道安定用のマイクロロケットが内蔵されている)

は、通常火薬を使用する銃としては対オートマトン武器として有効であるが、リアクティブアーマーを備えたオートマトン後期型には効き目が薄い。


 標準の6インチ銃身モデルの他に、ストック内にボルト後退スペースを設けた直銃床ライフルストックと大型コンペンセイターを付けた16インチのカービンモデルもあり、オプションで対リアクティブアーマー用の3点射バーストモードと多弾数ドラムマガジンが用意されている。



*南部十七式半自動拳銃


 オーストリアのグロック17のデッドコピー。9mmパラベラム弾を使用。

トリガーガードやグリップ、マガジンボトムのデザインが南部風だが、基本的な構造やパフォーマンスはグロックに準ずる。


 コンパクトの十九式やセレクティブ・ファイアの十八式等もある。


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セブンス・ガール 〜奈々と言う名の少女〜 駿 銘華 @may_2018

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