第18話 着信

202X年 6月11日 午後5時30分頃


 私はバンドの練習の帰り道。いつもの公園で、コーりゃんや、クーにゃん、ボスカー達にご飯をあげていると、


「越路ぃ~~っ!!」

 

 と、私を呼ぶ聞き慣れた声がする。


 私が振り向くと、坂井君が息を切らせて走って来る。


「坂井君・・・、どうしたの?」


「どうしたのじゃネーだろ? お前、自分のスマホ落としてったぞ?」


「あれ・・・? いけない!」


「ほらよ!」


「ゴメン! ・・・ありがとう」


 私はスマホのストラップに付けたカプセルを大事そうに確認すると、坂井君は不思議そうな顔をして、


「何だよソレ? お前、変なストラップ付けてるんだな?」


「これはね、おじいちゃんの遺品なの」


「ふぅん。お前もドジだなぁ。そんな大切な物落っことすなんて。ったく、個人情報漏れたらどーすんだよ?」


「フフ、ホントね。でもお陰で助かったわ」

 

「な、なんでもネーよ。それより越路、その動物たちを餌付けでもしてんの?」

 

「そんなんじゃないけど、このコ達は私の友達なの」

 

「ふ~ん、野生動物にしちゃ、なんかスゲー人懐っこい連中だな?」

 

「そうでもないよ、このコ達がこんなにヒトに近づいてくるのは、今の所私だけみたい」

 

「じゃ、オレにはどうかな?」


 坂井君は、私の公園のペット達に、一緒にごはんをあげると、みんな坂井君があげたご飯を無警戒に食べ始めた。


「あら? みんな坂井君の事を好きみたいね」

 

「オレだって、動物はみんな好きだぜ。昔はセキセイインコくらい飼ってた事あるしな」

 

「可愛いよね~、セキセイインコって。ちゃんと人の言葉を覚えて言えるんだから」

 

「ああ、オレの『ピーコ』も、自分の名前と住所番地まで覚えて言えたんだぜ。だけどある日、自分で鳥かごの戸を開けて逃げちまった」

 

「そうなんだ・・・。いつか誰かに拾われて帰って来ると良いね」

 

「ん~、そう思わなくもないけど、ピーコは自由になりたくて、自分から出て行ったんじゃねーかって思ってる。だってさ、風切り羽根を切られてまで、あんな狭い場所に閉じ込められてたら、オレだって嫌になっちまうだろうし」

 

「坂井君って、ちょっと他の人とは変わってるね」 

 

「え? どこがだよ?」

 

「ペットの立場を、自分に置き換えて考えられる人って所。優しい人なんだね、坂井君って」

 

「そんなんじゃ・・・、そう言われると悪い気はしねーな」

 

「フフッ! 所で坂井君、今日の試験、どうだった?」


「優等生のお前に聞かれたくネーよ。カンニングでもすりゃ良かったぜ」


「優等生だなんて・・・。
私はただ、一度見たり聞いたりした事は忘れないのよね」


「そう言うのを、アタマガイイ、って言うんだぜ」


「そうなのかなぁ・・・」


 そこに、私のスマホのSNSチャット呼び出し音が鳴る。


「えっ? このヒト??」


 私は慌ててチャット相手を確認する。


「おじいちゃん!? まさか??」


「誰なんだよ?」


「2ヶ月前に亡くなったおじいちゃんのハンドルネーム、ありえない」


「誰かにハッキングされたんじゃねーの? とりあえず出てみれば?」


 私はチャットを開こうとするが、向こうの相手はすでにオフラインになっている。


「オフられちゃった」

 

 坂井君は、私を半分からかい口調で、

 

「霊界からの通信だったりして」

 

「まさか! って、坂井君は霊界を信じてるの?」

 

「さあ、どーだか。ま、信じるのはこのオレの眼で実際に見てからにするよ」

 

 すると、そこにスーツ姿の男が現れる。男は急いで来たらしく、額は汗でびっしょりだ。


「はぁ、はぁ、・・・。 越路奈々さんだね?」


「はい? あなたは?」


「私は南部我問。かつて君のおじいさん、越路篤人博士の助手をしていた者だよ」

 

「おじいちゃんの?」


「さっきのSNSは、博士の遺品として私が貰ったスマホから、君の居場所を確認する為に発信したんです。良く聞いてください! 君は組織の残党に追われています。 私と一緒に逃げましょう!」

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