引きこもりドラゴン♀︎、人化を手にして人間の街に出向く!!

日ノ下 堕翼

第一歩 プロローグ

 そこは、様々な種族が存在する世界「アルガイア」。


 人間や亜人、エルフや精霊、魔獣や魔族。様々な種族が共存し、敵対し、殺し合い、時に助け合って暮らしていた。


 そして、その種族の頂点とも言われる存在、ドラゴン。


 そんなドラゴンのうちのとある一体が、今日も何かを待っていた。


 全身に赤茶色をした独自の金属を纏い、その眼光は桃色に淡く輝いている。

 退化してしまった小さな翼の痕がその風貌をより引き立てている。


「――次だ、次の冒険者で我のレベルは1000を超える――」


 山奥の洞窟にある「磁龍界じりゅうかい」と呼ばれるダンジョンの最奥。そんなことを呟きながらただひたすらにその時を待ち続けていた。


 そこに、カンカンと何かの音が洞窟内に響いた。


「!」


 その音は一秒一秒、次第に大きくなっていく。


「来たか――」


 ガシャンガシャンと、鎧を纏った集団の足音だとはっきりわかるようになった時、最奥の間の入口からその者達は姿を現した。


 そして彼らは最奥の間の中央正面に立ち、言い放った。


「――今度こそは貴様を倒すぞ、磁龍界の主!」


 彼は近隣の国「エルバルド王国」の勇者パーティーを率いる勇者、アレン。


「一年前、貴様に敗れてからこの日まで、鍛錬を積み重ねてきた――」


 アレンの左隣で大盾を構えながら語り出したのは、勇者パーティーのタンカーを担う大男、ジガルド。


「一年前はまだボクも未熟だったけど、今はみんなを援護する立派な魔術師なんだ!」


 まだ若いエルフの少年レフィは、ジガルドの背後からひょっこり現れ決意を露わにした。


「私達のこの一年間を全て叩き込んであげる!」

 アーチャーとアタッカーを兼任するオールラウンダーな美少女エミリーが、パーティーの意志を代表するかのように叫んだ。


 勇者パーティーとドラゴン、両者が構える。


 エミリーの叫びの反響音が静まり、流れ込む涼やかな風を浴びながら心を研ぎ澄ます両者。


 ドラゴンの眼前が明るく照らされた。最奥の間の開けた天井から降る日差しがアレンの足元まで広がり、アレンは瞳を閉じた。


 足元から温もりが胴体へと込み上げる。

 気持ちの昂りをアレンは感じていた。


 そして、アレンの目元に温もりが広がり、アレンは瞼を開いた。


「行くぞ!!」


 直後、アレン達は散開し走り出す。号令と全く同時の素早い移動。


「我が仲間の天命は是、その意思は神の仰せに――」


 最奥の間を駆けながらレフィは詠唱を開始した。


「先制は貰うわ!  ファイアーアロー!!」


 すぐに攻撃を開始したのはエミリー。放たれた何十もの炎の矢は放物線を描きドラゴンに降り注ぐ。


「この程度――」


 ドラゴンが腕を振り上げた。炎の矢はあっけなく砕け散る。


「やはり火属性攻撃は効果がない! 色んな属性を試してくれ、俺は物理攻撃で気を散らす!」


 アレンの指示でエミリーは多属性射撃を開始した。


 アレンは全速力でドラゴンに駆け寄る。


「勇者め!」


 ドラゴンは自身が操る金属の柱をアレンに向け飛ばす。


 アレンは横目にそれを見るが、足は止めない。


 柱がアレンに直撃しそうになる瞬間、ジガルドが横に入り大盾を突き立てる。


「任された!」


 ズドンと鈍い音が立つ。ジガルデはすぐに柱を押し飛ばした。


「――我が名はレフィ、今こそ神々の祝福を授けよ!」


 ―全ステータス上昇―

 ―持続回復効果付与―

 ―防御結界付与―

 ―全属性耐性上昇―


 レフィが詠唱を終えたことにより、勇者パーティーはさらなる強化を得た。


「レフィ! そしたらこいつの弱点属性を探ってくれ!」


「わかった!」


 アレンがレフィに次の指示を出し、ドラゴンの懐に飛び込んだ。


「これでも喰らえ!!」


 ―スキル発動、天地裂傷―


 アレンが振りかざした聖剣から凄まじい衝撃波が舞った。


 ドラゴンはその衝撃で後方に飛ばされる。が、体制を整え着地。


「おのれ!」


 ドラゴンは自身の持つ十二本の柱を一斉に飛ばし、反撃。


「みんな、避けろ!!」


 柱が一斉に地面に突き刺さった。しかしパーティーの四人は全員無事だ。


「ならばこれを喰らいたまえ!」


 ―独自スキル発動、磁力操作―


 ドラゴンは自身のスキルを発動させた。


 突き刺さった十二本の柱から電磁波がピリピリと走り出す。


 ――しかし、なにも起きない。


「無駄だ! 磁力攻撃無効の魔法をかけているからな!」


「何っ!?」


 アレンの言葉を聞き、驚愕を隠せないドラゴン。


「であれば!」


 柱のピリピリとした電気が、その大きさを増していく。


 そして柱同士を線で結ぶように激しいいかづちが走った。


 轟音とともに土埃が立ち上る


「さすがの勇者パーティーもこれで終わりだろう――」


 そして、立ち上った土埃が風によってかき消されていく。

 この一撃でトドメを刺したとドラゴンは確信していた。


 だが、その向こうからドラゴンへ歩み寄る四人の姿が現れる。


「なっ!? 今のを食らっても生きているだと!?」


 その全くの無傷な様を目の当たりにしたドラゴンはあまりにも信じられず、驚嘆の声を漏らした。


「貴様の攻撃は磁力だが、それを応用した雷属性攻撃も可能だ」


 説明を始めたアレン。歩みを止めて語り出す。


「俺たちは一年間、貴様を倒すために対策を練ってきた。この一年間を、貴様の少しの技術で止められると思ったのか――?」


「少しの技術――?」


 ドラゴンはピクリと反応し、小声で呟いた。

 しかしアレンの耳には届いていない。


「あまり舐められては困るぞ、ドラゴン!」


 アレンは続けてドラゴンに向け、そう言い放った。


 ドラゴンは下を向いたまま動かない。


「さぁ、本気でこ――」


「ははっ、はははっ」


 アレンの話を遮るように、ドラゴンは不敵な笑みを浮かべた。


「な、何がおかしい!」


 その嘲笑うかのような笑みに、アレンは苛立ちを抱いた。


「おかしいに決まってるであろう」


 ドラゴンは頭を上げ、見下すようにアレン達に眼差しを向ける。


「何がだ!」


「たった一年程度で『舐めるな』だと? 冗談が過ぎるな」


 ドラゴンは呆れきった表情で感情を漏らす。


「我は何百年もこの時を待っていたのだぞ!」


 ―スキル発動、龍の咆哮―


「うあっ!」


 その凄まじい威圧に勇者パーティーの四人は後ろに倒れ込む。


「いいだろう、そこまで我の最大の攻撃を受けたいというのであれば受けるがいい――」


 ドラゴンは十二本の柱のうち二本を突き立てる。そしてその上に更に二本、また二本と積み上げ、高い二本の柱を形成した。


 そしてその間に立った。


 ―独自スキル発動、メテオインパクト―


 激しい轟音と共に電磁波が柱の間を蠢く。


 そしてアレンの眼前から一瞬にしてドラゴンが姿を消した。


「なっ、どこに――」


 勇者パーティーの四人は辺りを見渡すが、ドラゴンの姿は見えない。


「まさか、逃げたとかでは――」


 ジガルドがそんな疑いを持ち始める。


「一年前ボク達をあっけなく倒したあのドラゴンが、そんなに簡単に逃げるでしょうか?」


 真剣に状況を考えているのはレフィだ。


「いや、これは何かのスキルかもしれない。 みんな、警戒するんだ!」


 アレンは危険を感じ、メンバーの警戒を促す。


 そして、エミリーはふと空を見上げた。


「ん……あれ何?」


 エミリーがそう言って指を指した先には、何やら黒い点が。


「鳥か? いや、止まっているから違うか」


 ジガルドは目を凝らして言った。


 次第に点は大きくなっていく。


 だんだんと地響きに近いような音が聞こえ始める。


「――まさか!?」


 メンバー四人とも何かを察したのか、一目散に入口へ走り出す。


 そしてその直後だった。


 とてつもない衝撃により、辺りの岩石は吹き飛び、地面が盛り上がり、四人は最奥の間の壁に押し飛ばされた。


 衝撃の中心、大きな凹みのできた地面のど真ん中にいたのは、ドラゴンだった。


「ふぅ、さすがにやりすぎたか? まぁ、我を怒らせたのが悪いな」


 衝撃は、ドラゴンのスキル「メテオインパクト」によるものであった。


 ドラゴンは倒れ込むアレンに歩み寄った。


「飛べるなんて……聞いて……な……」


 最後の愚痴を言いかけて、彼は気絶した。


 どうやらこの戦いを制したのはドラゴンのようだ。


「そういえば、我のことをずっと貴様とかあいつとか呼んでいたな、我には『マグナトリア』という立派な名前があるのに……まぁ、誰にも言ってはいないが」


 そんな事を吐露しながらドラゴン、もといマグナトリアは、四人を最奥の間のさらに最奥の空間に運ぶ。


 その空間の壁には人が二人分通れるほどの穴が。そしてその上に「冒険者送還口」と、何かで引っ掻いたように書かれていた。


「今回もいつも通りに弱い連中だったが、少しは楽しめたな……そいっ」


 マグナトリアは慣れた手つきで、四人を穴にほいほいと放り投げた。


 何百年も待ち続けるが故に楽しみが少ないマグナトリアにとって、冒険者との戦いは少しの娯楽であった。


 しかし、どうやらそれも今日までのようだ。


 なぜなら今日この日、マグナトリアの願いは果たされるのである。


「さて、ついにこの時が来た――」


 最奥の間の中心へと歩みながら、マグナトリアは自身のステータス画面を開いた。


「今日を以て―― 我は――」


 そして、その中にあるスキル一覧の項目を開く。


 ――そこには、マグナトリアが何百年も待ち続け、望み続けてきた文字があった。


 ―スキル発動、人化の術―


 その瞬間、マグナトリアの全身を覆っていた金属の鱗は周囲に舞い散った。


 鱗の内側に隠れていた体が白く輝きを放ちながら、形を変えていく。


 まるでゴーレムの如く、同時に悪魔の様だった大きな腕が、細くしなやかに。


 岩石がひしめき合っているかのようだった脚は、長く美しく。


 ドラゴンにしては元々整っていた頭部は、面影を残しながら。


 とてつもなく頑丈そうだった胴体は、小さく華奢に。


 全身が少女の体を形作り終えて、白い輝きが外に弾け飛ぶ。


 そして宙に舞った鱗が、一枚一枚形を変えながら体に張り付き、服を形作った。


 全ての工程が終わり、彼女はゆっくりと瞼を開いた。


 そして、変わり果てた自分の姿を見て、最大級の歓喜と驚きを乗せながら叫ぶのだった。


「人間になったぞ――――――!!」




 ――これは、数百年の時をかけレベルを上げ、ついに人間になったドラゴン(メス)のマグナトリアが、人間として色々な困難に立ち向かう、冒険譚である。







 ◇◇◇おまけ◇◇◇


 磁龍界周辺の森にて。


 冒険者A「おっ、おい! あそこに転がってるの、勇者パーティーじゃないか!」

 冒険者B「ほんとだ! 急いで助けないと!」

 冒険者C「待て……なんでこいつら、下着しか着てないんだ!」


 その日エルバルド王国内で、ほぼ裸で気絶している勇者パーティーが馬車で送られてきたという情報が出回った。


「野外でそういう事していたのでは……?」

「実は変態集団だった?」


 という疑いが国中に広まることとなる、勇者パーティーであった。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 見て下さった読者様へ、


 この度は、「引きこもりドラゴン♀、人化を手に入れ人間の街に出向く!!」に目を向けて下さり、ありがとうございます!

 超絶不定期で更新していきたいと思うので、次話以降も読んでいただけたら幸いです!

 なぜ勇者パーティーが裸だったかは、次の話で分かるでしょう……(不敵な笑み)

 ではまた次の話でお会いしましょう! さようならー!


 日ノ下堕翼より。     

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