【Gコラボ 夜だっ!】

 夜。

 と言っても、ほぼ大勢たいせいの決まったこの人狼ゲーム内の、2回目の夜パートである。

 全員が仏壇の間でヘッドホンと目隠しを律儀にちゃんとしている中、ゲームから除外された二人のほかに、『灰色狼』に肩を叩かれてそれらを外した者の人数は、二人。


「え!?二人とも残ってんの!?マサが狼じゃないの!?」


 思わず『kunちゃん』が素っ頓狂な声をあげる。その声ににやりと笑ったのは『ムンクさん』。


「……これは勝ったね」


 自身のホラーゲーム実況動画でさえ感情をあまり外に出さない彼が、嬉しそうにそう言った。それに恐縮したのは『虎徹』だった。


「すみません、ムンクさん。私が『アス』さんを占い師だって思っちゃったから……」


「いや、二人で決めたんだから仕方ないですよ。上手ですよね。彼女は狂人だったんだ。3分しかなかったし、私も狩人のことは失念してましたし。でも次があったら、リアクションはしない方がいいですよ。狩人に守られた時に、やっちまったーって顔に出てました」


 二人ともが見つめ合って、そんな会話を続ける。髪を撫でながら『虎徹』は、


「あ、……すみません」


 と恥ずかしそうに目を伏せた。そんな彼女を、優しい表情で『ムンクさん』は見つめているのだった。


「……とてもキュートでした」


「え?」


 顔を上げて聞き返した『虎徹』に、今度は『ムンクさん』が頭を掻きながら目をそらす。


「いえいえ、なんでもありません。今の会話のくだり、必ずカットして下さいね。『近藤』さん?」


 そんなことを、恥ずかしそうにマイクに向かって言う『ムンクさん』。この動画の編集担当は企画者の『近藤』だからだ。

 それを眺める『きたぐに』の二人が、意味深なアイコンタクトを行ったが、他人ひとの恋路を邪魔する奴はなんとやら。そのまま黙っていることにしたようだ。


「でも、また狩人に守られたら、次はさすがにどちらかがっていうか、私が疑われるんじゃないですか?」


 尋ねる『虎徹』に、『ムンクさん』が微笑む。


「大丈夫。『近藤』さんが狩人だと思うから、彼を殺してゲーム終了になります」


 その言葉に『虎徹』は首をかしげた。黒ワンピの大きめの襟がひらりと揺れる。


「あの……、根拠は?」


 二人の目が合う。そのまま温和な表情で、『ムンクさん』は答えた。


「ここで人狼をやらなかったら、俺が……、って『虎徹』さん言ってたじゃないですか?おそらく『俺が守れなかったら、人狼の勝ちになる』って言いたかったんじゃないかと。夜に犠牲者がなかったってことは、私たちが『アス』さんを占い師だと思ったように、『近藤』さんも本当は狂人の『アス』さんが占い師だって思ったわけで、そうじゃないと、まずいねー、って言葉は出てこないですよね?」


「あ…………」


 察した『虎徹』から、『ムンクさん』は視線を『灰色狼』に移す。


「というわけで、3分を待たずに『近藤』さんを襲ってゲーム終了ですね」


 満面の笑みを浮かべる『灰色狼』。


「いやー、『ムンクさん』。先のことは言えませんが、さすが経験者、とだけ申しておきましょう」


 賛辞の言葉に、『ムンクさん』は照れた表情を隠さなかった。


「いえいえ、それほどでも」







 全員がヘッドホンとアイマスクを外したのを確認してから、静かに、そして今までで一番に優しい声で『灰色狼』はアナウンスした。


「朝になりました。『近藤』さんの無残な死体が発見されました」


 少しだけの間のなかで、『近藤』が「ああ……」と言いながら頭を抱える。


「…………人狼側の勝利ですっ!」


「え?なんで?」


 なにも分かっていないであろう『Aちゃん』の高い疑問の声が、部屋に響いた。


「うしっ」

「やったー!」

「いぇえええーーいっ!どうだった!?アタシの狂人ムーブっ?」


 口角を上げた『ムンクさん』。両手をあげる『虎徹』。そしてガッツポーズした『アス』が、立ち上がらんばかりに喜びを言葉と身体で表現した。『ムンクさん』が笑った顔のまま、『アス』に声をかける。


「『アス』さん、絶対やったことあるでしょ?初心者の狂人が初手で偽占い師に名乗り出るなんて、絶対ありえないよ?」


「い、いや、ふ、フツーだし……」


 珍しく照れた様子の『アス』。頬が少し赤らんでくる。


「きょ、狂人……。あー、そっかー……」


 やっと敗北を悟った『Aちゃん』は、そう言ったきり苦笑したまま黙ってしまった。


「ちょ、ちょっと。村人はまず俺に謝るべきだと思うんだけど!?」

「申し訳ない……。狂人を守っちゃった俺のせいだわー」

「だから!俺が占い師だってあれほど言ったじゃんっ!」


 『マサ』の村人たちを責める声と、『近藤』の後悔と『kunちゃん』の誰に向けるわけでもない口惜しさが同時に部屋にこだまする。それは『アス』の歓喜の笑い声にかき消された。


「いや、人狼って面白いなっ!アタシ、はまっちゃいそうかもっ!ねえ、もっかいやろーよっ!」


 いちばん最初に追放された『マサ』が、再度、声を張り上げた。


「次はゼッタイ最初に死んだりしないんだからねっ!」


 その声になぜか静まる部屋の一同。反応したのは『虎徹』だった。


「ふふふっ。『マサ』さん。それ、フラグでしかないから」


「……えっ?」

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