好奇心の楽園

 「博士、もうすぐ次の時空に飛べそうです」

コンパクトな船内で、操縦士である助手はそう報告をした。助手が手元のレバーを引き、旅行船は異常な速さで加速していく。みるみる内に外の星々は線となり、やがて眩しい光が全体を覆った。そして一瞬の爆音の後、星々は何も無かったかのように宇宙を照らすのだった。

「これで、ええと。十五回目か。まったく、なかなかいい星はどこの時空に行っても見つからないものだ」

博士と助手は、新しく人が住める環境の地球を、この旅行船で時空を飛び回り、探し回っているのだった。

「我々人間に遠すぎず、我々を受け入れられる程良い状況の星があれば良いのですが」

助手はそうぼやきを言い、前方に見える星へ標準を定めた。

「前方二光年先。地球との類似性は80%。この星へ上陸します」

旅行船は甲高い音を立て、着陸態勢をする。


 「この星は——。」

着陸後、博士は宇宙服越しに見たその異様な光景に息を呑んだ。辺り一面に広がるビル群と、それにかかるような緑豊かな草原。そのビル群の穴の隙間からまばらに木々が生え、そこら中に小さな動物が見える。どこまでも中途半端な景色で、彩りも、景観も、あったものでは無かった。

「廃星ですかね......。小さな小動物はいるようですが、何故か人は居ないようです」

博士は気味が悪い程の青々した空を仰いだ。

「大方文明の崩壊だろう。特に結果もなさそうだ。また新しい時空に行くかね」

助手は首を振った。

「いえ、何か有益な情報があるかもしれません。少し探索してみましょう」

博士は何も言わずに宇宙服のヘルメットを取った。


 捜査は難航した。どこまで行っても同じような風景。同じ空。ビル群の中には芝生が硬く根付いていて入れそうにない。芝がかかってないビルもあったが、既に地中深くへ埋まっていた。そんな廃れた街並みを、朝も、夜も構わず歩き続けた。何度も旅行船を呼び出そうか考えた。そして十回目の夜が訪れた時、遠い地平線に何かが見えた。それは何か綺麗なドーム状の施設のようにも見えたし、ただの目の錯覚のように見えた。とにかく日が昇るまでここで一夜を過ごす事にし、その日はそこで終わった。


 早朝、博士たちは早速その施設が見える程の近さまで行き、その全貌を見た。目の錯覚などでは無く、間違いなくドーム状で、天井はガラス張りになっている大きな施設。博士は正面にあった扉を触り、詳しく観察した。

「材質は鉄製。錆びてる様子はない。鍵も、かかってないようだ」

博士は意を決し、ドアノブをしっかり握って、ゆっくりと扉を開けた。


 ギイイ。と軋む音を聴かせ、扉は開いた。辺りは暗かったが、一歩二歩進むと自然に電気が付いた。そして初めて博士は目の前に高い柵がある事に気付く。その柵の中を見ると、外よりも大分平和で、静かな空間が広がっていた。外よりも緑豊かで、そして様々な動物が大人しく暮らしている。

「一体何の為に......」

助手はそう呟き、辺りをふらつく。すると、とある装置がある事に気付いた。なんの気もなしに、その装置を少し観察してみる。少し埃がかっていたので、ぱっと払ってやると、青い光が付く。助手は驚きすぐ離れたが、もう装置は作動している様だった。博士は助手を睨み付ける。しかしここで叱る程悠長にはしておられず、すぐ目線を逸らし柵の中を見る。地中から2人の生物が培養槽の中に佇みながら出てきた。その2人の生物はひどく人間に似ていて、またそこから男女である事も分かった。柵がガコンと音を立て横にずれていく。そして完全に目の前の柵は無くなっていった頃、動物やその裸の男女は一斉に外に飛び出していく。咄嗟に防御体制を取った博士には見向きもせず、たった一つだけ開かれたその扉目掛けて走って行くのだった......。


 その後、施設の捜索を進めていく内に分かった事があった。この施設の名は『楽園』......。装置の名は『悪魔の実』...。そして残されたPCの文書にはこう書かれていた。


———我々はもうすぐ滅亡--する。 しかし最後に我々は最___人間を-----し、地下に残してお;;;た。も 外が完璧//I美しい世***だった時、あの装置を地動して ….__くれ。我が星にもう一度輝きを --- んだぞ 、- アダム、イ、ヴ----——


 博士たちはしばらくその崩れた文章を眺め続け、そして懐のアラームを押し、船を呼び出した。


 甲高くどこまでも響くその音は、今だけ少し、悲しい音のようにも聞こえた。

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