怪物

 博士は街の隅で、小さな精神病院を営んでいた。勿論医師免許は取っているが、経営については何の知識も持っていないので、病院としてやっていけてはなかった。


 博士が研究傍らに来客を待っていると、一人の女性が入ってきた。博士は女性を奥の部屋に移動させ、話を聞く事とした。

「最近、化け物のような異形の生物の幻覚を見るんです」

「どのような物でしたか」

「頭が異様に大きくて、それなのに手はとても小さいんです。足をふらつかせて走っていて、よく曲がり角で見ます。けど曲がり角を見ると必ず居なくなっているんです。それが怖くって…」

女性は苛立ちを隠すようにそう話した。

「週にどれ程の回数ありますか」

「二、三回程度です。ほとんど同じ場所かその付近で見かけます」

博士は何やら考える素振りを見せ、こう言った。

「日々の疲れか、ストレスによるもの。としか今のところは言いようがありませんね。しっかりと睡眠を取り、健康的な生活を送って下さい。それでも治らなかった場合、私が処方薬を出しますので、また一週間ほど後にもう一度伺って貰えると幸いです」

女性は不服そうにしながらも帰っていった。一週間後、言われ通り女は病院に行き、前回同様奥の部屋で話を聞かされた。結果としては改善しなかったそうで、女は憤りを露にした。博士は仕方なく薬を処方した。女は疑いながらもその薬を受け取り帰った。


 そのまた数週間後、女は嬉しそうに博士の元を訪ねた。あの薬を飲んで以来、一切あの怪物は出なかったと言うのだ。女は喜び、礼を言ってから帰っていった。そこから間も無くしてまた別の女性が、布にくるまれた子を抱いて博士の元を訪ねた。博士は彼女を見るやいなや下に繋がる階段にその女性を連れていき、話をした。

「どうです。上手くばれませんでしたか?」

博士はこそこそと女性に進捗を伝えた。女もそれに合わせて話す。

「ええ、この子ったら私の後ばっかりついていくものですから、単純作業で楽でしたよ」

「それは良かった。…これ、今月のです」

博士がその女に現金を渡す。女はそれを見てにたりと不適な笑みを浮かべた。女が堪えきれず震えて笑っていると、子の布が取れ、落ちた。子の姿は醜く、異様な形をしていた。女は笑いが止まらない様だった。

「本当、最初こんな子を産んでしまってどうしようかと思っていましたが、まさかこんな良い商売になるとは思っても見なかったです。ありがとうございます」

女の子供は、声になっていない泣き声をあげていた。

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