とある惚れ薬

 博士は今、惚れ薬の実験をしていた。二頭の猿を使った実験で、確かに一方が求愛行動をとっていることからその効果は確認できた。しかし博士は渋い顔をし、顔を傾けるだけだった。ため息をつき博士は猿を檻にしまい、惚れ薬を棚におき、次の研究に手をつけようとしたその時だった。覆面を被り、刃物を持った男が博士の研究所に押しかけてきた。

「俺は強盗だ!手をあげろ!」

博士は素直に手をあげた。白昼堂々こんな事が出来たのは、博士の研究所が山奥にあるからである。

「今お前が猿に使った薬はなんだ」

博士は渋々と口を開いた。

「あれは惚れ薬だ。効果は確かにあるが、人では実験していないから何があるか分からないぞ」

博士は強盗を多少脅すように言ったが、強盗は気にも止めずその惚れ薬を探した。強盗は惚れ薬と聞き、金目当てから女目当てに変えたのである。結局の所、強盗は欲が満たされればそれで良かったのだ。

「おい、どこにその惚れ薬はあるんだ」

博士はそこの棚の二段目に入っていると言った。強盗は早速それを取りだし、霧吹き状に吹き出される惚れ薬を身体中に浴びた。甘い香水のような匂いが部屋に充満した。博士は後ろを向き、顔も見たくないと言うことを暗に伝えた。しかし強盗はもう博士に興味はなく、

「へへ、じゃあな。もし警察にでも言ったらどうなるか分かってるよな?」

と言い捨て男は覆面を外し、街に出た。人通りの多い都会の中心地へ向かっていく様子を博士は見守り、強盗の姿が見えなくなると、博士は躊躇いなく警察に通報した。電話を切り、博士は椅子に腰掛け、こう言った。

「さて、惚れ薬の研究を進めるとしよう。あんな失敗作は、強盗に持たせておいた方がましだ。きっと今頃、警察に愛の告白でもしている頃だろう」

博士の作った惚れ薬は『自分が惚れられるようになる薬』ではなく『自分が何にでも惚れてしまう薬』なのだった。

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