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 これはもしかしたら本当に、と確信に変わりつつあった。

 たまたまそこを通りかかった通行人は物珍しいそうな目でその列を見ている。今日行われるライブの開場時間が10分前に迫っていた。通行人の邪魔にならないように道の端に並ぶように促すスタッフ。この日のライブのチケットはソールドアウトのためそれなりの行列が既に出来上がっていた。収容人数500人ほどが入るライブハウス、決して大きい部類に入る会場ではないがその数の人でも一箇所に集まるだけで周辺はある種の異様な雰囲気に包まれる。


『今から会場に向かいま〜す、今日のライブ楽しみだな〜!』


 1時間前に志保がフォローしているアカウント、リョウがこんなツイートをした。志保がフォローしている中で数少ない男性、このリョウと志保は足を運ぶライブがよく被る。志保は徐々にこのリョウの存在が気になり始めていた。普段は先に仲良くなったフォロワーと絡むことが多いため、なかなか実際に会う機会が作れない、というのは建前で本当は少しネット上で知り合った男性と会うのが億劫になっているだけであった。


 〇〇のファンと名乗り会うも本音は出会い目的でいきなり携帯番号、LINEの交換を迫られたなど不快な気持ちになったという声はよく聞かれる。だがこのリョウは普段のツイートを見ても純粋な音楽ファンであることがうかがえる。愛のこもったライブ、新曲の感想、本当に好きでなければこんな事は書けない、そんなツイートばかりであった。

 このリョウであれば会ってみてもいいかもしれない、そんなことを思いながら列に並んでいる時に見覚えのある人がやって来た。


 あの人は——志保の本命であるバンドのライブでよく見る男性。よく見るというか必ずと言っていいほど現れる。


 その男性は一言でいえばイケメンであった。髪型はショートで右目がやや隠れるくらいの前髪の長さ、モデルのように細い足、しっかりとバンドの世界観を意識した服装、むしろあなたもバンドマンですか? と質問してみたいくらいだった。

 たまにスタンディングライブで近くにいるとその男性のいじっている携帯画面を思わず覗いてしまい、ツイッターの画面であればアカウントを特定できないかと思っていたものである。

 そんな人と別のライブでもバッタリ会った。これはまさか。男性はライブハウスの外観をスマホのカメラで縦、横向きと2枚撮り後ろの列へと消えていった。


『今日の会場、初めて来るライブハウスですね』


 リョウが新しくライブハウスの写真付きでそうツイートした。志保は後ろを振り向く。ライブハウスの出入り口からスタッフが出て来て今から開場することを告げた。整理番号1番から呼び出しが始まる。


『前から気になっていたバンドのライブにようやく行けた。やっぱりこの音は自分の肌に合っているな〜最高でした!』


 ライブ終演後、直ぐにリョウが感想をツイートした。それを見た志保はリョウに初めてリプを送ってみた。


『良いライブでしたね、私は前から好きなのですがリョウさんも気に入ったようで嬉しいです!』


 この後、何度かメッセージのやり取りをした。少し親しくなれたような気はしたが、志保が密かに期待していた流れにはならなかった。今度のライブでお会いしませんか? という一言を待っていたのだ。

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