利きひざまくら

 ふと……俺は大きな愛に包まれている感覚に意識が戻る。

 何だろう、この、落ち着く感じは……やわらかさのなかにある強い弾力。

 めっちゃ気持ちいい! 母性とでもいうのだろうか。


 エクストリームヴィーナスモードの千秋や千春ではない。

 ふかふかのお布団でもない。じゃあ、一体、何だろうか……。

 この感覚を、俺は昔から知っている。小学生になるよりずっと前から。


 ——ひざまくら——


 そうだ、ひざまくらだ。俺はまだ目を瞑っているうちから、そう確信した。


 ——でも、一体、誰のひざまくら——


 それが問題だ。俺の知っているひざまくらは母さんのだけ。

 他の誰のひざまくらも知らない。未知の体験。なのに懐かしいから不思議。

 今まで知らなかった。ひざまくらは、こんなにもいいものだなんて。


 カノジョができたら絶対、ひざまくらをしてもらおう。そう心に決めた。


 で、今。俺にひざまくらをしているのは誰? 千秋か、それとも千春か。

 あるいは、すばるということもあり得る。野良メイド3人衆の可能性もある。

 ひょっとすると、全くの別人ってこともある、よな。兎に角、不明だ。


 恐る恐る目を開ける。知っている人ならこれで正体が判ると思った。

 だが、全く分からなかった。分かったのは、その人が巨乳だということ。

 だって、俺の視界いっぱいに広がっていたのは、おっぱいだったから。


 しかもそのおっぱいを、俺は下から眺めている。眼福、眼福。

 この角度からのおっぱいは、なかなか拝めるものではない。

 しっかり見ておこうって思う。


 時間を忘れてずっと眺めているうちに、俺はまた眠ってしまうのだった。

 ひざまくらそのものが気持ちいいからというのも理由。


 そして、次に目を覚ましたときは、普通に掘りごたつで寝転んでいた。

 だから結局、ひざまくらの主の正体を俺は知らない。


 謎を謎のままにはしたくないから、みんなに聞いてまわった。

 けど誰も自分だとは言わなかった。そんなはずないのに。

 絶対にこの6人の中にいるはずなんだ! 絶対に探し出してみせる!


「では、こういたしましょう。実際に私たちのひざまくらを体験してください」

 と、最初に言い出したのは、千秋だった。ひざまくらに自信があるらしい。

 たしかに、千秋の方が気持ちいいなら、わざわざ主を探す必要もない。


 それに、口では違うと言っても、本当は千秋が主だということもある。

 いずれにしても『百聞は一見にしかず、百見は一触にしかず』だ。

 こうして、俺による『利ひざまくら大会』がはじまったのだ。




 はじめは、言い出しっぺの千秋。正座する千秋のひざに俺は頭を乗っける。

 うん。とても気持ちがいい。それにこの眺め! よきかな、よきかな。


「どうですか。気持ちいいですか」

「うん、とっても気持ちいいよ」

 ひざまくらにハズレはない! にしても千秋のひざまくらは極楽だ!


「では、私が優勝ということでいいですか」

「それは違うよ。気持ちいいけど、さっきのと同じじゃないって」

 眺めもほんの少しだけど違う。大きさとかはいいけど、形が微妙に違う。


「やはり私も、ダメなのですね……」

「いやいや。違うってだけでダメではないよ。気持ちいいもん」

 千春、すまない。それも本心だけど、まだあと4人もいるんだ。


 はじめる前はひざまくらの違いなんて分からないだろうと思っていた。

 やってみると案外違いというのがあるのが分かった。眺めもね!

 全員のひざまくらを試すことにした。判定はそのあとだ。


「私の公式愛しい君、調子にのってませんか!」

「いやいや。これも全てあのときの再現をするためだから」

 という建前を、俺は前面に押し出している。すばるは納得。バカでよかった。


「ただ楽しんでいるだけのようにもお見受けしますが……」

「……そもそも利きひざまくらだなんて、できるものでしょうか……」

「……楽しみたければ、楽しみたいと言ってくださればそれでいいのですよ」


 なぬ! 野良メイド3人衆の範子、うれしいことを言ってくれる。

 でも、俺は本当にあのときのひざまくらをもう1度体験したいんだ。

 みんなにひざまくらをしてもらって、より強くそう思うようになった。


「あっ、そうだわ。純様、部屋のことなんですけど……」


 と、切り出したのは千秋。ひざまくらの2周目。

 寮旗争奪戦の勝利が認められたはなしのあとのこと。

 部屋といえば、俺と千秋は同伴受験。同じ部屋で暮らすのが義務。


「これだけ広い部屋だし、男女が一緒でも問題はないだろう!」

 まぁ、俺としては、千秋とはルームメイト以上の関係になりたい。

 特にあの、エクストリームヴィーナスモードのときの千秋はサイコーだ。


「寮長はひとり部屋に住むのがならわしだということが判明しました」

 えっ? 雲行きが怪しい。俺が寮長ということは、俺はひとり部屋?

 カノジョと同じ部屋で暮らすことはできないのか……。


「そんな。朝礼台って、ひと部屋がめっちゃ広いよね……」

 そんなところに1人とか、さみしくて死んでしまう。

 誰でもいいから、俺を独りにしないでくれ!


「はい。ひと部屋が約4800平方メートルです」

「最上階が寮長室ということにしますので、あとで移動してくださいね」

「私たちは、その1つ下の階に7人で住みますから」


 7人って? 双子とバカと野良メイド3人衆と、あと1人は誰?


 ま、まさか……真壁、なのか……。

 ちょうどそのとき、真壁がやってきた。

________________________

 純くんは知らないけど、真壁ひかるは女の子です!


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る