ぶっ倒れた!

 両手がGカップで塞がっている俺。これは手離せない。スイッチが押せない。

 だけど頭を使えば簡単。それを教えてくれたのは、大親友の真壁。ナイスだ!

 力を込めたまま、俺はスイッチに思いっきり頭突きをかました。


 これで俺はGカップを手離すことなく、寮旗争奪戦に勝利できる!

 何の躊躇いもない。むしろ勝利を確信し、清々しい気持ちになれた。

 ゴツッという鈍い音に、スイッチが押せたという手応えは充分!


 やったぞ! これでノマドは回避できる。屋根のある学園生活を確保できる。

 ゆっくりと腰を据えてカノジョ探しができる。よろこびも一入だ!

 が、それを噛み締める暇もなく、ごごごごごーっという轟音に建物が揺れた。


 同時に俺は気を失う。薄れゆく意識のなか、みんなが口々に俺を呼んでいた。

 だけど、俺にはそれに応えてあげることができなかった。

 朝礼台がどうなったのかを確かめることもできなかった。


 肉体も精神も、もう、ボロボロだった。もう、疲れた。

 思えば、ここまでが本当に長かった。



 俺は美少女なんかじゃない。男だ! 男である以上、美少女ではない。

 なのに新聞部発表の学内美少女ランキングでは3年連続第1位。

 男を前のめりにさせて、がむしゃらに告白させてしまう。


 キツイのは先生の告白だ。特に体育の五里先生は堪らない。

 パワハラまがいの告白ははじめてだった。当然、断った。

 その代償として、通知表はオール1にされてしまった。


 他にも、見た目にだまされて俺に告白してくる男たちはたくさんいる。

 俺は、その全部を断ってきた。だって、欲しいのはカノジョだから!



 代わりに俺だって美少女に何度も愛の告白をした。

 けど、フラれて翌日に他の美少女なんてのは野暮だろ。

 だから告白は、毎学期の最終日と決めていた。


 中3の2学期。相手は美少女ランキング第2位の百合野あきら。

 青春の舞台・屋上で俺は告った。成長著しいあきらなら、大丈夫!

 そう思ったけど、やっぱりフラれた。その理由はみんなと同じ。


 どうやら俺は、女を気後れさせて横に立つことさえ拒ませてしまうらしい。

 こんなことで、俺にはカノジョができるのだろうか。



 この日は、もっと大きな出来事があった。真壁が俺に告ったのだ。

 いつも俺のそばにいてくれる、イケメンの大親友だ。

 俺が欲しいのはカノジョだってことを1番よく知っている。


 そんな真壁さえ、見た目に心を奪われて俺に告白するなんて……。

 俺は迷うことなく断った。真壁が女だったら、俺はどんなに幸せだろう。


 失恋のかなしさのうちに決意した、片久里学園高等部の受験。

 何の予備知識もないまま会場に向かう途中、真壁とばったり会った。

 ギスギスしていてもはじまらない。俺は意を決して仲直りした。


 真壁も片高を受験すると分かったときは、正直にうれしかった。



 だが、この片高というのが、とんでもない高校だった。



 試験会場の入口では、噂のお嬢様を見かけた。宮小路院千春だ。

 3人のメイドを引き連れて、颯爽と歩く姿はエレガントで心に残った。

 千春のゴシップネタをはなすときの真壁は、とても楽しげだったな。


 そして受付のゲート前は、運命的ともいえる出会いがあった。

 宮小路院千秋。千春の双子の姉で、俺の同伴受験者。

 そういえば、真壁は俺と千秋が同部屋になるのに嫉妬していた。


 この双子は、すごい。究極にして至高の存在だ。


 均整の取れた顔立ちや長くて真っ直ぐな漆黒の髪なんて、単なる飾り。

 本質はエクストリームヴィーナスモードにあるといってもいい。

 2人の究極至高のおっぱいからは、俺はもう手を離せなかった。


 そんな俺が、スイッチを押すことができたのも、真壁のおかげ。

 真壁が「頭使って……」と叫ばなかったら、俺たちはノマドだった。



 面接の待合室では、俺を公式ライバルと呼ぶ者と出会った。春川すばる。

 学園の先輩でバカで巨乳の女子なのに、出会ったときは男装していた。

 俺の妹が関わっているから、すばるも被害者なのだろう。妹は侮れない。


 すばるは、1度は俺たちを裏切ろうとしたが、真壁の機転でそれを回避。

 以来、すばるは俺を公式愛しい君と呼ぶ。バカでなければ即、カノジョ!

 だと思ったけど、真壁と同部屋になる約束をしたらしい。ちょっと惜しい。



 すばるの一件を真壁に託した俺は、掘りごたつでまったり休憩した。

 そのときにお茶をいれてくれたのが、りえを筆頭にした野良メイド3人衆。

 久美子と範子ともども、真壁とは何故かいい感じになっている。


 元々は千春に仕えていたが、片高入学を機に新しい主人を探すらしい。

 あれ? それって、真壁なんじゃね? って思うが、3人は違うという。

 3人が新しい主人に求めるのは、男の中の男だけだってことだ。


 だったら俺が新しい主人になってやるぜ! と、俺は筋トレでアピった。

 スクワットもしたし、腕立てもした。けど3人がなびくことはなかった。

 それどころか、真壁とはどんどんいい感じになっていく。


 結局、誰も彼も俺なんかより、真壁と付き合いたいんだろう。

 俺は、半ば自暴自棄になって、寮旗争奪戦に挑んだ!



 それがこの有り様。勝ったか負けたかも分からずにノックダウンしている。



 ここまでが、本当に長かった……。

________________________

 走馬灯? 総集編? ぶっ倒れた純くん、何を想う!


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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