本物の寮旗!

 全部、俺が何の指示もしなかったのが原因。だから全部、俺の責任。

 とはいえ、旗を探し出して掲げるまでの制限時間は残り10分を切っている。

 寮旗争奪戦、なんてすさまじいんだ。


 っていうか、なんかやれよ、2人とも!

 育ちの良さのせいか、納得しないと動かない。

 何でもいいからやってみるということを知らない。


「とりあえず……」

「……障子を全て開け放っておきました……」

「……何の役に立つかは皆目見当がつきませぬが」


 さすがは野良メイド3人衆。とりあえずで動いてみるところはご立派だ!

 けど、もー少し考えられなかったのかなぁ。障子を開ける意味、あるの?

 そう思いつつも「ありがとう」と声をかける。


 野良メイド3人衆は、尻尾こそ振らないが満更でもない顔つきだ。

 それに引きかえ、双子は不満そうだ。特に千春はひどい。

 元ご主人様として、野良メイドたちが褒められ、忸怩たる思いなのだろう。


 それより、大仕上げの時間だ! 寮旗争奪戦に勝利するときだ!


 母さんの行動習慣からして、大事なものの隠し場所はただ1ヶ所。

 一見すると、茶箪笥の中のように思えるが、それはダミー!

 大事なものの隠し場所、それは、掘りごたつ! 布団が怪しい。


 俺がみんなに指示をしようと思った瞬間、声が上がった。


「何よ! 茶箪笥から旗を取り出せば良いのでしょう。簡単よ」

「千春の言う通りだわ。これなら私にもできるわ」


 と、双子がそれぞれ別の茶箪笥の前に移動している。

 千秋はこの部屋の、千春は右隣の部屋の茶箪笥。

 メイドたちが障子を開け放ち、隣の部屋まで見通しがいいのが仇となった。


 まずい! 茶箪笥を開けたらだめだ。絶対にだめだ!

 止めに入りたいが、2ヶ所同時は絶対にムリ。

 功を焦っている双子は、声をかけたくらいじゃ止められない。


 万事休すか……。


 双子が同時に茶箪笥を開ける。中には折り畳まれた布が入っている。

 かなりの上ものの布だ。応援団旗のように、フレンジがあしらってある。

 双子が、2人同時にそれを取り出し、広げようとする!


「それは絶対に見ちゃだめだーっ!」


 と言ったものの止められるはずはない、止まるはずはない。

 2人は旗を見てしまったようだ。その証拠に灰塵と化していく。

 大体の予想はつくけど、一体、何が書いてある? 今度、山奥に捨てよう。


 さらば、華やかな千秋とエレガントな千春。

 俺は、2人のことを絶対に忘れないからな……。


 これには野良メイド3人衆もびっくりした様子だ。

 千春のモードチェンジの度にビビりまくっていた3人。

 それでも顔色ひとつ変えずに、既のところで持ち堪えていた3人。


 さすがに灰塵と化した2人を目の当たりにしたのでは、ダメージが大きい。


「いっ、一体、何を見たのでしょう……」

「……煮ても焼いても食えないあのお2人が……」

「……ああも簡単に灰塵と化してしまうだなんて! あわわわわーっ」


 いかん! このままでは寮旗を掲げるには至らない。

 一方で千秋たちも放っておけない。俺は、どうすればいい? 考えろ、俺!


 と、言葉が勝手に口をついて出る。不思議にも考えているのとは逆のこと。


「3人とも、双子は大丈夫! 大丈夫だから俺の言う通りにしてくれ!」


 いやいやいや。絶対にあり得ないでしょう。ここは絶対に人命優先だって。

 灰塵と化してるんだぞ! 仲間を助けるのが筋ってもんだろう。

 2人を見捨てる俺の言うことを、野良メイド3人衆が聞くとも思えない。


 が、そうでもなかった。


 2人を止めに叫んだこと、ここへ来るまでの2つの仕掛けを見抜いたこと。

 これらがエビデンスとなって、俺の言葉がメイド3人衆に通じる。

 3人は黙ったまま、こくりと頷いて見せた。よしっ、3人は平常運転だ!


「掘りごたつの天板を外そう。そして掛け布団も!」


 俺が言うと、3人は息ぴったりに作業した。速い、上手い、そして易い!

 けど、付属の座椅子まではたたまなくっていいから。急いでいるから!

 布団をたたむと、こたつ机の上に置いてある白い布が露となる。


 さっきのダミーに比べて粗末な布だ。それも母さんらしい。

 12ヶ所にあるこたつのうち、最初で当たりを引くなんて、ラッキーだ!


「3人とも、その白い布を広げるんだ!」

 りえと範子が手際よく白い布を広げる。ぽろりとメモが書かれた紙が落ちる。

 久美子がそれを拾う間に、俺は気にせずに白い布を確かめる。


 旗というよりは横断幕に近い。

 ん。何やら、文字が書かれている。かなり大きい。

 俺はそれを読んで、絶句してしまう。


「なになに。『これがホンモノの寮旗だよ! 希』だと……」


 絶句は文言にではなく、母さんの字でマジックペンを使って書いてあるから。

 とてもじゃないが、まともな寮旗には見えない。手作り感が半端なさ過ぎる。

 しかもかなりのやっつけ仕事だ。普通はとても本物とは思えない。


 だが、母さんがホンモノと書いたのなら、これが本物で間違いない。


 久美子が拾った紙切れを確認し、りえ、範子の順にまわしていく。

 3人とも驚いた顔をしている。紙切れには一体、何が書いてあるんだ?

________________________

 希さん、紙切れとはまた厄介なものを残したものですね!


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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