ビンゴだっ!

 さらに下の階、ここも違う。ふかふかだ。先へと進む。

 それをもう、何回繰り返したか分からない。

 すっかり大人しくなっていた双子も騒ぎはじめた。


「本当に大丈夫ですの?」

「そうですわ。不安ですわ」

 そう言うなよ。俺だって不安になってくる。


「大丈夫です。あと15分あります……」

「……旗を見つけたあと、掲げられるかどうかは微妙ですが……」

「……今は、旗を見つけることそのものが先決事項と判断します」


 と、野良メイド3人衆が冷静に言い、真壁と目を合わせる。

 真壁の目は3人に『よくできました』と言っているようだ。

 それを見た3人の顔にくすりと笑みがこぼれる。


 何だこの感じ。むかむかする。イライラする。

 野良メイドはもうすっかり真壁に飼い慣らされている。

 飼いメイドかよって突っ込みたくなる!


 そんなのを見せつけられたら堪らない!


 だが俺は、先へと進まなければならない!

 きっとどこかに和室があり、あれがある!

 相手が母さんなら、絶対にある。絶対だ!


 次こそは絶対に和室だ! そう信じて先へと進む。

 だが、またしても……。


「これでもう、13ふかふか目だよ、俺の公式ライバル・純」

 よく数えていたな! それだけは褒めてやる。

 だけど、まだ先があることも分かってるんだ。


「どうだろう、秋山。次でないなら、手分けして探すことにしないか」

 真壁の提案に6人が頷く。飼い慣らされているのはメイドたちだけじゃない。

 双子の千秋と千春も、俺を公式ライバルと呼ぶすばるもだった。


 さすがは俺の大親友の真壁ひかるだ。決して侮れない。

 いつの間にか6人からなるハーレムを建設している。

 俺はそれを見ているだけしかできない。やっかむことしかできない。


 しかも、誰1人をとっても超絶美少女ばかり。


「真壁が言うんじゃ、しかたない。けど、まだこれからだ!」

 って、何で俺まで真壁に飼い慣らされているんだ。

 これでは全員が真壁の言いなりじゃないか。俺は飼い大親友か!


 文句の1つ2つは言ってやりたい俺だけど、押し黙って下へと降りた。




 その下のフロアー。すばるのカウントが正しければ14階目。

 さらに下へと進む階段はあるが、俺たちはそこで足を止めた。

 内装がこれまでとは全く違う。ここだ! 俺があると信じた部屋だ!


「お、おい。畳だ、畳だっ! ビンゴだっ!」

 大事だから2回言った。下駄箱もある。ここは土足禁止の和の空間だ。

 どやっ、真壁! 俺の言った通りだろう! 俺はどや顔を真壁に向ける。


 俺がこんなに対抗意識を燃やしているのに、真壁は涼しい顔だ。


「驚いたよ。秋山は最初から和室があるのを知っていたのかい?」

 真壁がにこやかに言う。何と爽やかなイケメンだろう。

 そういえばみんなには和室狙いだとは伝えていなかった。


 俺は何だか恥ずかしくなって、どや顔をそっと真顔に戻すと、

「そ、そうなんだよ、実は……」と、急に歯切れが悪くなってしまう。

 そんな俺に対して真壁は「うんうん」と言い、頭をなでなでしてくれる。


 もし俺に尻尾が生えていたら、全力で振っていたことだろう。

 それくらい幸せな気分になった。報われた気持ちになった。


 そんな俺に向けられたのは、12の冷ややかな目だった。

 嫉妬の目であり、疑惑の目でもあった。


「な、何だよ。本当に最初から和室狙いだったんだって!」

 と、言えば言うほど言い訳がましくなるのは分かっている。

 けど本当のことだから、そう言うしかない。


「本当、ですの」

「どうせウソですわ」

「偶然に救われたね、俺の公式ライバル・純」


「……」 「……」 「……」

 って、なんか言えよ。言ってくれよ、野良メイド3人衆!

 千秋たちのようにはっきり言ってくれた方が浮かばれるって。


「まぁまぁ。みんな、そういう決めつけはよくないよ」

 と、真壁が俺を庇う。今日だけで何回あったろう。

 真壁が大親友で俺、よかった。全力尻尾だ!


「真壁様がそうおっしゃるなら……」

「……私たちはそれ以上は何も申しません……」

「……それより、早く旗を見つけ出しませんと!」


 野良メイド3人衆が言う通りだ。

 旗を見つけて、掲揚するまでが寮旗争奪戦だ。

 制限時間は残り14分。急がないとって思うと、ちょっと慌ててしまう。


 こんなときは、先ずは落ち着いてフロアーをよく観察することだ。

 これまでのフロアーとは決定的に違うところがあるのが直ぐに目に付く。

 土足禁止で畳敷きなのもそうだけど、もっと決定的な違いがある。


 それは障子の存在だ。このフロアーは障子で仕切られている。

 柱の周りを1周して、全部で12部屋あるのが分かる。


 しかもこの12部屋、家具の配置は全く同じだ。

 真ん中にはおそらく掘りごたつ。向かって右には大きな茶箪笥。

 思った通りだ。隠し場所はあそこで間違いないだろう!


 俺がそこへと足を向けると、横からすばるが飛び出して行った。

 そして、茶箪笥の前で大笑いしながら言った。


「わーっはっはっはー。ありがとう、俺の公式ライバル・純よ!」

 なっ、なにぃ! どういうことだ?

________________________

 すばる、突然の奇行! どういうことでしょう……


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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