呪文のような言葉!

 階段周辺にはスイッチもレバーもない。音声入力と考えるのは自然。

 それをほんの一瞬で見抜いた上で即座に行動に移る。

 真壁、お前はさすがだよ。それでこそ俺の大親友だ。


 俺は肺の中にある空気を全て吐き出すようにして言った。


「裏飯屋、表は蕎麦屋、うち花屋。右はお肉屋、左魚屋!」

 どやっ5・7・5・7・7にきれいにまとまってるだろ。

 これこそが、母さんの十八番。渾身のつまらないギャグだ!


 で、反応はというと……。


 7人のくりくりしたお目目がジトーッとなって、俺を見ている。

 冷ややかなものだ。俺が滑ったみたいになってっけど、違うから。

 悪いのは全部、母さんだから! 母さんのつまらないギャグだから。


 ではなく、階段の反応。こちらは思惑通りだった。

 俺の声に応えるように変形。登り階段は降り階段になった。

 照明がたかれていて、足元は明るい。奥にあるのは間違いなく朝礼台だ。


 その奥からは、ごごごごごーっという轟音が鳴り響いてくる。

 一体、何が起こっているんだろう。分からないが、選択肢は1つ。


 こうなったら、ここまできたら、俺たちは突き進むしかない!

 待ってろ、母さん。俺は必ず寮旗を見つけ出し、掲げてみせる!


 と、その前に、周囲の反応には続きがあった。


「……全く、不思議なものだな。秋山家の人々にはいつも驚かされる……」

 真壁が唇をかみしめてそう言った。真壁家を代表して恨めしそうだ。

 でもそれは仕方がない。母さんは真壁家の人には初句しか言わないから。


「……ま、そう恨まないでくれ。母さん、真壁たちをよろこばそうと……」

「……だよな。君の母さんが言うと、あんなに面白いもの……」

 へっ? 今、何て? 面白いってどういうこと?


「……息子の君が言ったんじゃ、あんなにも寒いだなんて……」

 真壁、お前まさか母さんのギャグ、面白がっていたのか?

 何故だ? 何故、あんなにもつまらないギャグを面白いって……。


「やっぱり、君ん家の母さんには敵わないな!」

 何だよーっ。母さんを美化して、俺を蔑むのはやめろーっ!

 爽やかに笑みを浮かべるのは、やめろーっ、このイケメン男子めーっ!




 兎に角、俺たちは先へ進んだ。当然だ。まだ謎が解けたわけじゃない。


 俺たちがしなくてはならないこと。それは、旗を探し出してかざすこと。

 寮旗争奪戦に勝利し、寮長となること。それに尽きる!

 あっ、あとそれから、あわよくばカノジョを作ることだ!


 さもないと、惨めなノマド生活が待っている。

 それだけは避けたい。死んでもイヤだ。絶対にイヤ!

 だから静かに進んだわけだが、300メートルほどで一際明るくなった。


 そこには部屋がある。地下とは思えないとても明るい正十二角形の部屋だ。

 そこが朝礼台の真下だということは容易に想像できた。

 建物としては一体をなすものかもしれない。


 恐る恐る、部屋へと入る。外から見た通り、とても明るい。

 天井の照明はもちろん、他にもこの部屋を明るくしている光源がある。

 正確にはこの部屋の外に光源があり、部屋自体はガラス張りになっている。


 その構造は、地上で見た朝礼台の1階や2階と同じ。


「あとは、ここからどうやって上がっていくかだね」

 と、俺が考えていたことを真壁が言ってくれた。俺はこくりと頷くだけ。

 だけど階段がないんじゃ、上へは行けない。どうしたものだろう……。

 そのとき、りえが言った。


「純様、私たちは大きな誤解をしているのではないでしょうか」

 そして、この部屋のさらに下にも部屋がある可能性を示唆した。


「要するに、上へは上がれないということか……」

 上がれないなら、何をしてもムダ。でも本当はあるのかもしれない。

 結局、どっちか分からないってことが最大の問題なんだ。


「あのぉ。降りる手段なら、心当たりがあります……」

 力なくそう言ったのは、メイドの範子。

 初めて聞くその声は、久美子よりもさらに小さく、かよわい。


 範子は部屋の真ん中にある柱が怪しいという。

 外から見ただけだから不確かだと前置きした上で……。


「柱の北側下部だけ、光が強かった気がします」

「光が強いって?」

 どういうことだ? 範子の言うことは感覚的なもので、理解できない。


 だけど、北側下部の光が強いというのは自然の摂理に反している。

 外光を乱反射するにしても、南側上部の方が光の量そのものが多い。

 より南側でより上部だと明るく、北側で下部は暗く見えるのが普通だ。


 だからすごーく気になる。真壁も同じだったようで、即、行動に出る。

 すたすたと柱に歩み寄り、ぐるりと回る。俺たちもそれに続く。


 その刹那。俺たちが通ってきた通路が、ガラスの扉で塞がれてしまう。

 そして、その向こう側が壁になり、その壁が強い光を放ちはじめる。

 完全に閉じ込められたようだ。それって、拙くないか⁉︎

________________________

 密室となった朝礼台。純くんたちは生還できるのでしょうか⁉︎


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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