イケメンに大親友を代入


 幼馴染でもあり大親友でもある真壁に甘えた。

 こちらの事情をよく理解してくれてるから本当に助かる。


「どうしたもこうしたも、かくかくしかじか……」

 今日の出来事を涙目で訴える。


 真壁は、うんうんと頷きながら聴いてくれた。

 さすがはイケメン! 行動がイケメンだ。


 少しは見習いたいと思うんだけど、なかなかできない。

 心に余裕がないから。


 真壁は、

「とりあえず、一緒に体育館裏に行こう」

 と、必殺優しい目。見た目通りのイケメンっぷり。


 イチコロだった。さすがはランキング第1位!


 体育館裏といえば屋上と並ぶ青春の舞台だ。

 今日の出来事を上書きするために誘ってくれたんだろう。

 こくりと頷くと、また優しい目でにっこりと微笑みかける。


 真壁は本当に甘え甲斐のあるヤツだ!

 イケメンだけど身長は低く155センチくらい。

 並んで歩くと真壁の頭は下に見える。その眺めに何故か落ち着く。


 2人で体育館裏へと向かった。

 その途中、聞こえてきたのは1年女子ダンス部員の声。

 サボってんのか、体育館の入り口にたむろしている。


「ねぇ、あの2人、ランキング1位の!」

「うん、間違いない! 3年の……」


 真壁は知らない人に騒がれるのが大の苦手。

 ダンス部員たちの声に困惑の表情を見せる。

 だから真壁の手を握り、足速にその場から離れた。


 すると今度は男子バスケ部員に出会す。モップがけの真っ最中。


「おいおい。すごい2ショじゃねー?」

「本当、マジスゲー。1位と1位じゃん!」


 見た目にころっと騙されやがって。こっちは美少女じゃないっての!

 真壁は身も心もイケメンだけど……。その真壁が手を強く握ってくる。

 それを握り返して斜め下に目線を動かす。


 にっこり笑う真壁がそこにいた。2人して走った。




 やっと辿り着いた体育館裏。空気が冷たい。

 その冷たさが、心を落ち着かせてくれる。


 ようやくひと段落できると思った矢先。

 真壁は真っ直ぐにこっちを見て、とんでもないことを言った。

 それは、予想外の一言だった。


「ねぇ、秋山。僕たち、付き合わない?」

 えっ? 告られた。よりによって、大親友の真壁から。

 真壁はこちらの事情を全て知っているというのに……。


 その瞬間に込み上げてきた感情は驚きよりも怒りが勝った。


 真壁はこっちがカノジョ作りたいって知っている。

 男には全く興味ないって知っている。

 真壁とは付き合えないって知っているというのに……。


 なのにどうして告ったりする?


 2人で並んで歩くと、たしかに周囲にはいる。たくさんいる。

 イケメンと美少女の似合いのカップルだと決めつける輩が。

 こっちは決して美少女ではないというのに。


 真壁を直視できない。怒りに任せて何するか、自分でも予想できない。

 真壁を傷付けないようそっぽを向き、なるべくそっと応える。


「ごめん。その気はないから!」

 真壁、頼む。これで引いてくれ……。


「そっ、そんなぁ。もう僕、秋山なしには生きられないのに」

 と、追いすがる真壁。


 これは裏切り。真壁の裏切り! イケメンらしからぬ行動!

 信頼している大親友の裏切りに、頭に血がのぼる。

 我を忘れて言ってしまう。


「じゃあ死ね! 今直ぐに腹を切れ。告ったことを詫びて死ね!」

「ひっ、ひどーいっ!」


「ひどいもんか。全部、そっちが悪い。男が告んな。死ねっ!」

 そう言い残し、その場から走り去った。


 一緒にいると、本当に刺してしまいそう。3枚に下ろしてしまいそう。




 すれ違う男子がみんな立ち止まる。うっとりと人の顔を見てくる。

 サル同然の薄汚い目で人を見るんじゃない!

 みんな見た目にコロッと騙されて、もううんざりだ!




 帰宅するには玄関先を通らなくてはならない。校内で最も嫌いな場所。

 ガラスの壁は鏡のようで、容赦なく覗く者の姿を映し出す。


 丸みのある頬。黒々とした大きな瞳。それを際立たせる長いまつ毛。

 大して手入れしてないのに、長くて真っ直ぐな艶のある黒髪。

 広過ぎないおでこ。薄くて潤いのある天然色のくちびる。


 泡立てたホイップクリームのようにツンと飛び出る鼻。

 新聞部発表の美少女ランキングで3年連続ぶっちぎりの第1位。

 どっからどう見ても超絶美少女。それが、俺の姿……。


 男である俺の姿……。


 こんな姿では、俺は一生カノジョが作れないのかもしれない。

 男を前のめりにさせて、がむしゃらに告白させてしまう……。

 女には気後れさせて、横に立つことさえ拒ませてしまう……。




 チッキショー! 内申が1ばっかだ。ろくな学校に進学できない。

 期末頑張ったのに、五里のやつの仕業だな! 許せん!


 人気のない男子校なんかに入学したら、男どもの欲望の餌食。

 挙句にカノジョがいない人生なんて……。俺は、どうしたらいい?

 そんなとき、俺の運命を変える広告がSNSに流れてきた。


 『祝・共学化! 内申不問。君も片久里学園高等部で青春しよう』


 俺は、最高の高校と出会った。ここなら、俺にもカノジョが作れる!

________________________

 見た目が超絶美少女な男、秋山純の野望のはじまりです。

 片久里学園に入学してカノジョをゲットすることができるのでしょうか。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る