第13話 デート前の会話
ゴールデンウィークを数日後に控えた四月二十六日(月)の夜。
僕は、ネットで見つけたサイトを見て、悩んでいた。
ページタイトルは「
レトロなトロッコ列車に乗って、移動できるらしい。
「
見れば車内もかなりいい雰囲気だし。
ただ、かなり人気らしく、事前に席予約がほぼ必須らしい。
というわけで、予約サイトを開いたのだけど、残席残りわずか。
一応、五月三日にどこか行こうということにはなっている。
しかし、通話してOKか聞いてからだと、売り切れるかもしれない。
仕方ない。多少値は張るが、先に二人分買ってしまおう。
プランがおじゃんになったら、二人分のチケット代二千円が無駄になるだけだ。
社会人になってから、お金は貯めているし、これくらい何でもない。
「恵ちゃん、今度の五月三日のデートなんだけど」
少しだけ緊張しながら、電話越しに話を切り出した。
「ひょっとして、どこか行きたいところ、見つかりました?」
「うん。
と言いつつ、ページへのリンクを送る。
「レトロでいいですね。行きましょう!あ、でも、予約必須みたいですよ?」
ああ、当然、そう来るよね。
「今から、大急ぎで予約するから。ちょっと待ってて……」
「あ、はい。予約出来なかったら、無理しなくていいですからね?」
電話口の向こうからは心配そうな声。
悪い意味ではないとはいえ、騙している事に罪悪感がある。
予約操作をするフリをして、しばらく無言でカタカタとキーボードを叩く。
「よし!予約出来たよ!」
「さすが、ITエンジニアですね。凄く早いです!」
少し興奮気味の恵ちゃん。うう。事前に予約しといたとか言い出しづらいな。
「はい。予約票送っとくね」
ネットで発行された予約票の画像を送っておく。
よし、とりあえず、これで、一見落着。と思ったのだけど。
「あの、裕二君。これ、発行日時が二十分くらい前なんですけど」
しまった。予約票にタイムスタンプが書かれていたか。
「裕二君が電話してきたの、十分くらい間ですよね。どういうことです?」
ああ、しまった。余計な小細工を弄したのが裏目に出た。
「ごめん。実はさ……」
と、正直に、先取りして予約しておいた事を伝えた。
「裕二君、案外見栄っ張りなところあったんですね」
電話口の声は楽しそうだ。
「ああ、もう。どうせ、見栄っ張りですよ」
ああ、もう。恥ずかしいやら何やら。
「でも、嬉しいです。そんな小細工してまで、頑張ってくれたんですよね」
「ま、まあね。怒ってないの?」
「怒れるわけないですよ。というか、むしろ申し訳ないくらいです」
「そっか。とにかく、当日は楽しもうね」
「はい。ところで……今度は、期待していい、んですよね?」
少し小声で、何やらぼそぼそとしゃべっている。
期待って……ああ、そういうことだよね。
「うん。デートの後、僕の家に寄ってってよ。その……ちゃんとするから」
僕も一人の男として、彼女とそういうことをしたくないかといったら嘘になる。
だから、今度はちゃんとしたい。
「はい。じゃあ、デートも、その後も、期待してますから」
「あ、そうそう。保津峡からは、結構歩くから、歩き易い服装で来てね」
「ひょっとして、山道ですか?ハイキング用の服がいいでしょうか」
「道路は舗装されてるみたい。動きやすい服で来てくれば大丈夫」
「それなら、スカートでも大丈夫そうですか?」
「マップスの写真見た限りだけど、大丈夫かな」
しかし、何故にスカート?パンツルックの方がいいと思うんだけど。
「良かったです。じゃあ、当日を楽しみにしていますね」
「ああ、僕も楽しみにしてる」
「それじゃ、おやすみなさい。大好きです、裕二君♪」
「あ、ああ。僕も、大好きだよ、恵ちゃん」
電話の後に「大好き」を言うのに、もう照れがないのにふと気がつく。
それもこれも、彼女がガンガンアタックしてくるせいだ。
「さーて、当日のデートプラン練らないと」
トロッコ列車での移動時間は二十分に満たない。
その後は、景色を見ながらの散歩が主だ。
「帰りに、なんか、いい感じの喫茶店でも入れたいな」
などと、寝るまで、デートプランについて考えたのだった。
「しかし、デートよりも、その後だよなあ」
もう彼女とは何度かデートしている。
今更、気まずくなる心配はないだろう。
ただ、その後のあれこれはまた別だ。
(年上として、リードしないと)
そんな事が出来るのかどうか。
それはわからないけど。
予習もたっぷりしておかないと。
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