ノータイトル3

プールでの授業が終わって、生徒の退出したプールサイドは少し寂しげだ。日を浴びて、水面はキラキラと輝いている。隅に誰かに取り残されたゴーグルが浮いている。持ち主は忘れたことに気付いていないのだろうか。

咲は、やっとの思いで教室に戻るも、浮力の恩恵がなくなって、モロ重力を受ける体と、外気の暑さに気だるさを覚えている。クーラーの弱い教室は、公立高校の財政状況を物語っているよう。咲はブリーチで痛んで、くしゃくしゃと絡まった髪を梳いて、鞄から昼食を取り出す。中学の頃は、髪を梳くのも楽しかったんだけどなぁ。咲は一人でそう思いながら、ところどころ千切れ、痛みきった髪を撫でて、少し悲しむ。

マジ髪質終わってるねぇ~と言ってくる友人を横目に、咲はコンビニのおにぎりを、パッケージをペリペリと剥がし、その口へと運ぶ。海苔の風味が良い。

昼休みでガヤガヤと沸いている教室の隅で、楽しそうに話している友人と、どこか憂鬱そうな咲。

咲の学校では、梅雨が明けると、嫌味なほどすぐに水泳が開始される。咲は水泳が嫌いだった。せっかくセットした髪も水に濡れて崩れてしまうし、少しだけでも、と化粧で肌を綺麗に見せているので、またそれも台無しだった。それに、今日はあいにくの曇りで、着替えの時も、今も。制服やら下着が体にじっとりと張り付いていて気持ちが悪い。

咲は、窓ガラスに反射して映る自分の髪を見て、はぁとため息をつく。ぺしゃりとボリュームのなくなってしまった髪。髪型1つで人の印象は変わるし、自分に対する自分自身の印象も下がってしまう。割とブルーな気分。再度ため息をつく。パーマとかをかければ、きっとこんなことにはならないんだろうけど、高校生の咲にはバイトをするにも所詮高が知れているし、好きな色に染めることだけで精一杯だった。

 咲の周りの人たちは、咲がため息をつく度に、どうしたの、とか大丈夫? などと聞いてくる。毎度毎度、ため息に深い理由はないのに。でも、それでも、誰かが心配してくれるのは嬉しかった。

しかし、幸か不幸か。咲は周りの人間の優しさには恵まれ、ちょっとナイーブな気持ちになることも許されないのだ。放っておいて欲しいような気分の時でも、お構いなしに心配をしてくれて、お節介を言ってくれるのだ。思春期の女子ならば、時々一人になって黄昏てみたくもなるのに。

他愛のない話をしていると、いつの間にかおにぎりはなくなっていた。もう1つ買っておくべきだったか。咲は少し後悔するも、食費を趣味雑多に使い込んだせいで、来月の中旬まではこんな生活を抜け出せない現実を見つめすぐに考えるのを止めた。

咲は三度目のため息をつく。ここまで気分が下がるのは、きっと天気が悪いからだろう。晴れていれば、今よりはマシな気分でいれるだろうに。曇天から射す一条の光。そんなものがあるなら早く射して欲しい。

何を考えているんだか。少し拗らせたような自分の思考に咲は恥ずかしく、また呆れてしまって机に突っ伏した。さっきからどうした~と、少し心配そうな友人は、母に作ってもらったお弁当を食べていた。

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未完の短編詰め合わせ Licca @KR_rikka

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