ジャイ・グル・デヴァ・オム、何ものも僕の世界は変えられない。

博学な数学、物理学、科学的知識が描き出そうとするサイエンス・フィクションの世界だが、物語の本質は作者のヒューマニズムに溢れている。
虐め、病気といった人間の本質的な問題、あるいはその抑圧が、宇宙という世界を夢見るシンイチの前で何を意味するのかを問う。それは他の登場人物にも同時に問われている。当然、我々読者も例外ではない。

「人はどこまで行けるのか?」という命題は、人間の脳と意識と常に表裏一体の関係性にある。作者はその命題をSFや数学という器を巧みに使いこなし、カタルシスに満ちた答えを我々に提示する。その瞬間、読者は確かなる宇宙そのものを目撃する。

シンイチがこだわり続ける「47」という15番目の素数、そして量子空間への干渉技術、恒星間航行、ザ・ビートルズ……。これらの散りばめられた伏線が、最後の一行で集約した瞬間、まさに『アクロス・ザ・ユニバース』が起こる、作者の妙技が光る美しい短編だ。