第2話 忘却の日常と友人

引っ越しをしてからあちら側を見る事は減ったが、それでもお盆の時期や秋の奉納祭の時期になると、どうしても人集りや人の移動が増えるため人の行動に左右されるあちら側のものを見ることが多くてそのせいか俺は夏場から秋頃はよくバテていた。


そんな時もあるけれど普段は至って普通の生活を送っている。

時計を見ると朝7時を回っていた

もうこんな時間だ急がないと!と思い階段を駆け降りながら制服の袖に腕を通して

『母さんおはよう!行ってきます』と忙しない朝の挨拶をして家を飛び出した。


『ふぅ』なんとか電車の時刻に間に合ってよかったと思い小さな息を漏らした。

そして死んだ魚の目をした連中が寿司詰め状態になっている電車に乗った。

今日も至って死んだ魚の目でしけた面してる奴等は普通だった。それはあちら側の存在を認識してしまう俺にとってありがたい光景でもあった。


そして学校に着くとそこには去年高校に入ってからできた友人の陽介がいた。

『よっ、おはよ』

『よっ』っと雑な返事をいつも返しているがなんだかんだ陽介とは気が合うようで去年は学校の放課後に近くの沢に釣りに行ったりもした。そんな日常を過ごす中で昔墓地で見たアレの事を俺はしだいに意識しなくなって忘れていった。

俺が窓の外を見てぼっーとしてたら突然

『今年も時期になったらまた釣り行こうぜ。今度の日曜に下見な』

『おっけ、了解』

ってな感じて半ば強引に予定を決められたわけだが俺には他に友人と呼べる相手も居ないし予定も無かったので軽く承諾した。


何事もなく一週間が過ぎ約束の日曜日がやって来た。俺が約束の10分前に集合場所着いた時、既に陽介は集合場所にいたのでこいつも相当暇してたんだなと軽く察した。

『よぉ、早いなまだ10分も前だぞ』

『そうか?下見しに行く川まで結構あるぞ』

『なんだそう言うことか、先に言ってくれたらもっと早く来たのに。』

『まぁお前普段見えて疲れてるだろうと思ってさ俺なりに気遣ったつもりなんだけど。』

そう陽介は俺が見えるって事に理解がある数少ない人間の一人だ。


『ありがとう……』

『今何か言ったか』

『いいや、何でも……』

『なら早速向かうとするか』

『そうだな』

俺は陽介といる時は退屈しなかった。今まで俺が見える事で周囲や友人に気を遣ってきたからその事を気にせず話せる初めての友人だったからなのかもしれない。などと思いながら自転車のペダルを漕いで目的の場所に向かって走った。


そういえば初めて話しかけて来たのも陽介だったかと、一年前を思い出す。

確か俺が高校に入学して1ヶ月くらい昼休みずっとぼっち飯と読者をして時々空を眺めていたら突然声をかけて来たかと思いきや俺から本を取り上げてその本を読み出す様な変わった奴だ。そして思わず俺は吹き出した。


『おいっそれ逆さまだぞ』

と指摘したら陽介は赤面して正しい向きでまた本を読み始めた。


『なぁ吉野この本面白いな!これ読み終わってから貸してくれないか!』

『あぁ、構わない』

あれ、どこまで読んでたっけ、あー、面倒くせと内心思いながら適当に当たり障りのない返事をした。まぁでも本が好きな奴なら悪いやつじゃないかもなと気を取り直してまた本を読み始めた。


『なるべく早めに読み切る』

『おっ!サンキュー!』

俺がそう言う事を予想してなかったのか一瞬戸惑いを見せた陽介だったがすぐに礼の言葉を言ってくれた。


『なんだ、いい奴じゃん』

と小声で本音を漏らしたのもほんの一年前だ。その頃には、こうして友人と一緒に釣りに行く事など、俺は思いもしなかった。

昔の事を思い出してるうちに目的の場所に辿り着いた。


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黒い人影 蛇の〆 @janon

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