第4話 反撃の狼煙

1991年8月19日07時頃 樺太国境線東岸沖


 第6駆逐隊(6駆)、朝霧型駆逐艦の狭霧、高霧、黒霧、白霧の4隻は、単縦陣で樺太東岸と得撫島西岸の間のオホーツク海を北西に進み、日が昇り、朝になった頃には、樺太国境線東岸沖合いに迫っていた。


 第6駆逐隊旗艦狭霧のCICで、隊司令の濱田中佐と、艦長の志儀少佐は、艦首側にある大型のディスプレイを見ていた。


 「哨戒ヘリから報告、ソ連ミサイル艇隊を発見 タランタル型 数4 速力40ノットで南下中 6駆との方位、距離 350° 40海里」

 哨戒ヘリから、敵ソ連海軍のミサイル艇隊の艦種と、数、速力、針路と、第6駆逐隊から見たときの方位、距離が知らされる。


 哨戒ヘリは、「影雲けいうん」という国産の汎用ヘリコプターをベースに開発された哨戒ヘリ型で、米国のSH-60に相当する性能を有し、朝霧型駆逐艦に各1機搭載されており、2機ずつで第6駆逐隊の前方哨戒を実施し、低空飛行で敵ミサイル艇隊の動きを探っていた。


 濱田隊司令はいよいよ時が来たと言わんばかりに目を光らせた。

 「志儀艦長、敵はクーデター派の一派で間違いないだろう。陸軍は第一次防衛線で侵攻部隊を撃退した。我が海軍が遅れをとる訳にはいかない。全艦、対水上戦闘用意!」

 「もちろんです! 対水上戦闘用意!」

 濱田隊司令が対水上戦闘用意を6駆の全艦に命じ、志儀艦長はそれに答えて、狭霧に対水上戦闘用意を命じた。


 なお、朝霧型駆逐艦は、全長150m、全幅17.5m、速力35kt強、兵装は65口径127㎜単装速射砲1基、25㎜連装多砲身機関砲4基、短距離対空 飛翔弾ミサイル8連装発射機1基、対艦飛翔弾4連装発射筒2基、対潜飛翔弾8連装発射機1基、324㎜3連装短魚雷発射菅2基を装備する汎用駆逐艦(甲型駆逐艦・DD)で、哨戒ヘリを1機搭載する事が可能であり、旗風はたかぜ型駆逐艦(防空駆逐艦・乙型駆逐艦・DDG)と共に、日本海軍の艦隊を支える貴重な戦力である。


 ちなみに、旗風型駆逐艦のスペックは、全長150m、全幅17.5m、速力35kt強で、船体は朝霧型と共通化している。兵装は65口径127㎜連装速射砲2基、25㎜連装多砲身機関砲4基、多用途 飛翔弾ミサイル連装発射機2基(対艦、対空、対潜ミサイル対応)、324㎜3連装短魚雷発射菅2基、哨戒ヘリ1機を搭載可能であった。


 その、日本海軍の主力駆逐艦である朝霧型駆逐艦の狭霧以下4隻は、艦内では対水上戦闘の用意を終え、主砲には榴弾を装填し、対艦ミサイルにはソ連ミサイル艇隊の諸元の入力していた。

 第6駆逐隊とソ連ミサイル艇隊は、共にレーダーを停止したまま接近しており、6駆にとっては、哨戒ヘリが敵ミサイル艇を捕捉している為、先制攻撃が可能な状態であった。

 「隊司令、各艦対水上戦闘用意完了! いつでもヤれます!」

 志儀少佐は、船務長からの届いた本艦と他艦の連絡を、濱田隊司令に伝えた。その語気には、強い意志が込められている。

 これには志儀艦長の個人的な理由があった…


 樺太の国境線で戦端が開かれてからおおよそ30分後、軍部府と海軍軍令部から、"ソ連でクーデター派手の可能性大"との情報が届き、それと同時に、"北樺太油田株式会社との連絡が途絶えた"、との情報がもたらされた。

 この、北樺太油田株式会社との連絡が途絶えたと云う連絡が、志儀にとって、個人的にも悪い情報であったのだ。

 「北樺太油田株式会社」というのは、1918年から1922年にかけて行われた、シベリア出兵の遺産であった。

 シベリア、北樺太からの撤兵の条件として、日本は秘密裏にソ連と交渉し、北樺太の油田の利権を要求し、ソ連はこれを承諾、1925年に正式に日ソ基本条約として形になるが、日本はこの時から、北樺太油田を確保し、この油田の開発は、軍部、特に海軍が中心となり、国策企業の北樺太油田株式会社が行っていた。


 クーデター派とはいえ、ソ連がこの北樺太油田株式会社を放置する訳がなかった。

 ソ連軍は、南樺太侵攻とほぼ同時に、オハ(奥端)にある北樺太油田株式会社の施設を全て占拠し、現状では、ここに勤めていた日本人職員の全てと、連絡がとれない状態に陥っていた。

 その職員の中には、志儀艦長の息子もいた、豊原にある樺太州立樺太大学を出て、今年就職したばかりであった。

 この為、志儀艦長はソ連のクーデター派と思しき勢力に対し、ただならぬ怒りを覚えていた。

 だが、海軍軍令部からの情報には、悪い情報と共に、いい情報もあった。


 「志儀艦長、上の連中は、少なくともこういう事態が起こることを想定していたらしいな。特別陸戦隊や、部隊の配置状況が実によく出来ている。」

 濱田隊司令は、志儀艦長に静かに話しか、志儀は皮肉混じりに答える。

 「まったく、情報を握る一握りの将校と政治屋、官僚には畏れ入りますよ。」


 2人の会話の様に、日本軍上層部は情報を握っていると思われる節が多々あった、それがオホーツク海の海軍の戦力配置だ。


 日本海軍は、主だったオホーツク海域での戦力配置として、オホーツク海中央部に第6駆逐隊が展開し、樺太東岸の栄浜沖付近には、揚陸作戦演習を行う予定でいた為に、第一陸戦戦隊と第三陸戦戦隊、その各艦に第一陸戦旅団の各部隊が乗艦し展開。また、樺太西岸の小能登呂沖には、第一戦隊と第一巡洋戦隊が展開。オホーツク海北部には、第一戦略潜水艦隊の2隻が展開し、内1隻には、特殊部隊である特別陸戦隊の一部部隊が乗艦していると言うのだ。


 濱田隊司令は、他の駆逐隊の者含めて周知の事である、第一戦隊の戦艦と、第一陸戦戦隊の戦艦が、樺太近海に存在している事を知っていた為に、先に戦艦による対地艦砲射撃を具申したが、戦略潜水艦隊の潜水艦がいたことは、クーデターの可能性との情報と共に、初めて知らされた。


 この戦略潜水艦隊の1隻の存在が、"いい情報"の一つであった。


 海軍軍令部と海軍総軍は、戦略潜水艦隊の計12隻の内の2隻をオホーツク海北部に展開させていたが、この、戦略潜水艦隊と云うのは、通常動力ではあるが、SLBMを発射可能な潜水艦によって編成された潜水艦の艦隊で、その上SLBMの発射管には、簡単な改装で小型潜航艇が取付けられるように成っており、甲標的の系譜を継いだ、特殊潜航艇が搭載出来た。

 この小型潜航艇(特殊潜航艇)は、特殊部隊である特別陸戦隊の部隊(一個小隊)を乗せて、秘密裏に敵地に上陸させる搭載力と性能を有していた。

 また、海軍の有する特殊部隊である特別陸戦隊は、基本的には一個小隊20名(小隊長+小隊先任下士官+3個班編成、1個班6名)で編成され、任務は基本的に一個小隊で実施されるが、オホーツク海に展開する1隻には、二個小隊が乗艦していた。

 その二個小隊に与えられた任務は、オハにある北樺太油田株式会社の施設の奪還であり、連絡の取れない日本人職員の救出であった。


 もう一つのいい情報は、国境線の敵陣地と侵攻部隊への艦砲射撃は、陸軍の防衛戦が成功し、ソ連侵攻部隊を撃退した為に間に合わなかったが、第一戦隊と第一陸戦戦隊の戦艦4隻が、北樺太のソ連軍クーデター派に対し、艦砲射撃を実施する為に航行中との情報である。

 第一戦隊は樺太西岸を北進し、第一陸戦戦隊は、陸戦旅団を引き連れて、樺太東岸を北進している。

 これは、陸軍の北樺太への侵攻を支援する為の動きであり、上手く行けば、短期間で北樺太の制圧すらも期待できた。


 「まったく、前線勤めの中佐と少佐では、流石に知れる事などたかが知れてるな…」

 濱田隊司令がぼやくように志儀艦長に向かっていうと、志儀少佐は苦笑した。

 軍隊という組織は、巨大な組織だ。一介の佐官が知ることが出来る事など、微々たるものだ。


 駆逐艦狭霧のCICでは、日ソ両軍の艦艇の動きがモニターに写し出され、彼我の距離は30海里まで近づいていた。

 ここで濱田隊司令は、攻撃命令を下した。

 「対艦飛翔弾攻撃始め!」

 この命令を受けた第6駆逐隊からは、各艦が2発ずつ50式艦対艦ミサイルを発射し、4隻のタランタル型に対し、各2発の対艦ミサイルが向かっていった。


 対艦ミサイル発射筒から、カバーを突き破り、ブースターから火を噴き上げて発射された対艦ミサイルは、海面スレスレを直進し、入力された座標へと飛翔していく。

 対艦ミサイルがソ連ミサイル艇隊に近づくと、アクティブ・レーダーを始動させ、敵を捕捉する、敵を把握した後は、トップアタックするために上昇を開始した。


 ソ連ミサイル艇隊は、逆探により対艦ミサイルからのアクティブ・レーダーの電波を探知し、ミサイルの接近を察知、水上捜索レーダーと射撃管制レーダーを稼働させる。

 単縦陣をやめ、4隻のミサイル艇はバラバラに回避行動をとり、チャフとフレアを放出し、海上に煙幕の雲を作り出した。

 4隻のタランタル型はバラバラに回避しながらも、南下を続け、76㎜単装両用砲による迎撃も開始し、対艦ミサイルの初弾を迎撃するか、回避した。


 この時には、第6駆逐隊から第2次攻撃の対艦ミサイルが発射されており、互いの距離は更に近づき、20海里になろうかという所であった。


 この20海里の距離で、ソ連ミサイル艇隊も日本の艦隊を探知し、対艦ミサイルを全弾発射した。


 タランタル型4隻から発射された、16発の対艦ミサイルは、第6駆逐隊を目指して一直線に進み、ソ連ミサイル艇隊も、76㎜砲の射程圏内まで、ジグザグに移動しながら接近を続けた。


 「演習では百発百中を誇るミサイルも、なかなか実戦では、当たらんもんだな」

 「隊司令、敵からも対艦ミサイルが発射されました。電子戦を開始します。」

 「よし! 志儀艦長、任せたよ。」

 志儀は頷き、船務長に命じた。

 「電子戦始め!」

 「EA攻撃始め!」

 船務長は艦長の命令を受けて、電測員長に電波妨害を開始させ、レーダーも稼働させた。


 電波妨害を受け、ソ連ミサイル艇隊の水上捜索レーダーに偽像が映り、射撃管制レーダーは、目標を捉えたり捉えなかったりと、不安定なものとなった。

 対抗策をソ連ミサイル艇隊は講じるため、電子戦を行うが、効果は低かった。

 そうこうしている間に、日本の艦隊から放たれた第2波のミサイルが襲来し、両用砲の迎撃も、チャフ、フレアの放出による妨害もかわして、放たれた全弾が、ソ連ミサイル艇隊のタランタル型4隻に命中し、瞬く間にオホーツク海の藻屑として轟沈させていた。


 一方で、第6駆逐隊に向かっていた対艦ミサイルは、短距離対空ミサイルと近接防御機関砲、チャフ、フレアと妨害電波によって阻まれ、6駆の4隻に損害を与える事なく、海戦は終わった。


 「海軍総軍と大泊鎮守府に報告。敵ソ連ミサイル艇隊を殲滅、これより敵兵の救助活動に移る。」

 濱田隊司令の命令により、この海戦の後、第6駆逐隊は哨戒ヘリも活用し、ソ連ミサイル艇隊の4隻が沈没した地点で、捜索、救助活動を実施し、オホーツク海の黒い海を漂っていたソ連海軍水兵2名を救助、捕虜とした。




同日同刻頃 幌筵島


 カムチャッカ半島からの砲撃は、幌筵島も占守島も開戦から定期的に続いていた。

 最初の砲撃は、00時過ぎから1時間程続き、その後は1時間毎に10分の間隔で砲撃が行われていたが、スカッドミサイルに至っては、3時間に1、2発が飛んでくる程度であった。


 この砲撃に対し、日本陸軍はいよいよ反撃を開始しようとしていた。

 幌筵島に駐屯している、北部方面軍直轄の第4地対艦 飛翔弾ミサイル連隊の第8中隊では、反撃の準備を行っている。

 48式地対艦飛翔弾発射機とその関連機材を搭載したトラックが、掩体壕から次々と出てくるや、即座に発射態勢に移行した。

 「偵察機が既に、敵野砲陣地を捕捉している! 偵察機からの諸元入力を急げ! 全弾発射だ!」

 第8中隊には6機のミサイル発射機があり、1機あたり6連装であるから、36発のミサイルが発射される事になる。

 カムチャッカ半島南端の、敵砲兵陣地を偵察機が確認してから、ミサイルが発射態勢に移るのに5分経過したが、敵砲兵は、まだ砲撃準備をしている最中であった。


 「各隊 諸元入力完了!」

 「よし! 全弾発射、撃て!!」

 中隊長の命令を受けると、48式地対艦ミサイルは、各発射機さら全弾発射された。

 

 発射後にミサイルは低空飛行を開始し、プログラムされた航路を飛翔し、幌筵島の海上に出て、占守島の陸岸を這うように進み、カムチャッカ半島南端へと迫った。


 ソ連軍砲兵陣地ではこの時、砲撃準備を終えたソ連軍砲兵師団の各野戦砲兵部隊が、占守島と幌筵島を再度砲撃しようとする命令を待つばかりであった。

 そこへ、高速で何かが飛んでくる音が聞こえ、空を見上げた時には、無数の紐が付いた重りの様なモノが、落下してくる最中であった。

 それが"何か"に気付き、慌てて逃げ出した兵もいたが、時既に遅く、地上は無数の爆炎に包まれ、幾つもの小規模な爆風が辺りを襲い、砲兵も榴弾砲も、集積した弾薬と、砲を牽引したトラックも、総てが破壊されていった。

 48式地対艦ミサイルの弾頭は、対地目標用の"クラスター弾頭"が準備されており、これにより、カムチャッカ半島南端の、ソ連陸軍砲兵部隊は壊滅した。


 また、この攻撃とは別に、カムチャッカ半島のソ連軍に対し、オホーツク海の海の底から、別の攻撃が行われようとしていた。




同日同刻頃 オホーツク海北部


 「潜望鏡深度です、艦長。」

 柳瀬艦長は副艦長に対し目で答えると、潜望鏡を海上へと上げ、周囲を一瞬で確認すると、再び潜望鏡を格納した。

 「周囲に艦影なし。 深度50に潜航。 副長、軍部府と国家情報局の情報は確かなのだといいがね。」

 「信じる他ありません。クーデター派の砲兵師団の師団長の所在を突き止めたなら、この攻撃にはかなりの意味があります。」

 「カムチャッカ半島のソ連反乱軍を沈黙させるには十二分過ぎる打撃だがね。」


 彼らが乗る艦は、オホーツク海北部の海中にある。


 「扶桑型戦略潜水艦」、通常動力の潜水艦ながら、全長150m、速力水中25kt、6門の533㎜魚雷発射管と、20基のSLBM発射管を備えた、戦略潜水艦であった。外見は、ソ連のデルタ型原潜と似ているが、機関は通常のディーゼルエンジンと、実用化されたヴァルターエンジンを装備している。

 オホーツク海に配備されているのは、扶桑型戦略潜水艦の3番艦「朝日」、4番艦「日進」であり、特殊部隊である特別陸戦隊を乗艦させているのは朝日、柳瀬艦長が指揮を執るのは、日進であった。


 「この型の回天が実戦で使われるのは初めてだ! クーデターに加わっていない、ソ連軍も気付けば驚くだろう。」

 「はい艦長。湾岸戦争では現行の桜花を初めて使用しましたが、回天を使うのは、この紛争において、ソ連反乱軍とソ連に与えるインパクトは大きいでしょう。」


 彼らが話している"回天"とは、SLBMの事で、"桜花"とは、巡航ミサイルに付けられた名前である。

 そして、「回天」、「桜花」という名前は、日本軍にとって、曰く付きの名称でもあった。

 時は遡り、第二次大戦中、日米戦が始まって直ぐに、若手の技術将校が数名で、"体当り兵器(肉弾兵器)"なるものを、海軍省、海軍軍令部に提案に来た。

 回天、桜花、震洋、伏龍なるこれ等の体当り兵器は、人間を誘導装置とし、生還を前提としない肉弾兵器であった。

 海軍省、軍令部は、この提案を揃って却下した、曰く、「生還を前提としない兵器とは何事か! 技術者の怠慢ではないか!」と、云うものであった。

 後に、この提案をした技術将校達は、陸軍やドイツに派遣され、海軍内でも、「対空自動追尾噴進弾」の開発部門に回された。

 彼等は陸軍では、「イ号爆弾」、「ケ号爆弾」の開発に協力し、これ等の兵器を陸軍の技術者達と共に完成させ、海軍では奮龍という対空 飛翔弾ミサイルを開発した。なお、飛翔弾ひしょうだん=ミサイルという名称も、この奮龍と共に誕生する。また、ドイツでは誘導装置とV-1、V-2の技術開発のデータ等を、日独同盟解消の前迄に入手し、日本へと持ち帰っていた。

 日米戦に、V-1、V-2の様な兵器は間に合わなかったが、戦後に、日本版V-1は桜花、V-2は回天と名付けられ、誕生することになる。

 その系譜が、巡航ミサイル「桜花」と、弾道ミサイル「回天」であった。更に、「震洋」は対艦ミサイル、「伏龍」は対潜ミサイルにその名を受け継ぎ、体当り兵器(肉弾兵器)としてそれらの名が使われる事は遂に無かった。


 「艦長。深度50に着きました。」

 当直士官からの報告を受け、柳瀬艦長はご苦労と応え、副長と共に、弾道ミサイルの発射手順に移った。

 二人は、首から下げていたキーを手に持ち、海軍総軍から来た発射コードを確認し、コードを端末に入力する。

 モニターに攻撃目標の座標が表示され、使用弾頭も指定される。

 それをもとに、諸元を一発の潜水艦発射型弾道ミサイルに入力し、そのデータが間違いないか、艦長と副長が確認し、発射準備が整えられていく。


 「アメリカの映画なら、神の御加護を! とでも言うのかね。」

 柳瀬大佐は、薄笑いしながら、皮肉混じりに副長に話しかけた。

 「日本風に言えば、神仏照覧ですかね。」

 副長も以前に見たアメリカ映画を思い出しながら言うと、2人とも同時に、発射管制装置にキーを差した。

 「では、副長、3つ数える。その後キーを回せ。」

 「3、2、1!」

 2つのキーが回され、発射可能に成ると、続け様に柳瀬艦長は、発射スイッチを押した。

 「SLBM発射!」


 発射スイッチが押されると、発射態勢と成っていた一つの弾道ミサイル発射管から、SLBMの入ったケースが勢いよく放出され、海中に泡を作りながら突き進み、海上へと向かい飛び出し、海面に出る瞬間にケースが分離し、弾道ミサイルがブースターを点火して一気に空へと上昇し続けた。


 カムチャッカ半島の南部の山岳地帯のソ連軍拠点。クーデターに加担し、日本の北千島の砲撃を指示していた砲兵師団長は、この場所に居た。

 カムチャッカ半島南端の砲兵部隊が壊滅したとの情報が入り、彼は苛立っていた。

 オフィスに座って、右手の親指の爪を噛み、足を揺すっている。

 この拠点は、完全に彼の管理下にあり、他のソ連軍も近づけないように、彼の指揮下の部隊に警備させ、籠城状態であった。

 そこに、一発の飛翔体が宇宙空間から近づき、上空で複数の個体に別れ、地上へと落下していき、地表近くで炸裂した。

 SLBM"回天"によって運ばれた、燃料気化爆弾が複数個爆発したのだ。

 爆風で周囲の森林を薙ぎ倒し、巨大な火球と熱風で、ソ連軍拠点に居たクーデター派の将兵は、蒸し焼きにされ、又は衝撃波で圧死した。砲兵師団長も例外ではなかった、何が起こったかも解らぬまま、彼はこの世を去った。


 この攻撃により、カムチャッカ半島のソ連反乱軍は壊滅状態に陥り、千島列島への攻撃は止んだ。

 回天の攻撃跡は、ツングースカ大爆発の爆心地の様な有り様であった。


 この時までの戦闘で、日本は千島列島を、特に北千島を脅かした敵を排除し、オホーツク海の制海権、制空権を維持したまま、樺太では反攻作戦の準備が進められていた。

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