策略、崩壊3

嵐が去ったオフィスに訪れる静寂。


「……ふ~。一時はどうなる事かと思ったけど、何事もなくて良かったわ」


そう言ってニコッと笑う千歳を見たら、急に足から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。


「紗月!大丈夫!?」


「中条!!」


千歳と課長。左右、両脇を抱えられて、なんとか倒れ込むのは阻止出来た。


「だ、大丈夫……安心したら、一気に力が抜けて……」


課長と千歳が抱えてくれて、なんとか近くにあったソファーに座る。


「ごめんね。アタシがもうちょっと早く助けてあげられれば……携帯をロッカーに置き忘れちゃって、それに気付いて急いで取りに行ってたらあのクズが調子乗っちゃってて……」


ギュッと私の手を握ってくれる。その手の温かさがじんわり心にも沁みて、千歳の優しさが全身に広がって行く。


「でも、なんで千歳があの音声を……?」


「ああ、よく行くカフェでたまたまあの二人を見かけてね。なんだかコソコソ話をしだしたから、念の為に、ね」


不敵な笑みを浮かべる千歳。

その不気味な笑顔を見て、今回は助かったけど頭の切れる人を敵に回したくはないな、と思った。


「あの、中条さん……」


さっきまで疑いの目を私に向けていたギャラリーのみんなが、申し訳なさそうな顔で私の前に立ってる。


「ごめんなさいっ!!」


全員一斉に私に向かって頭を下げた。


「中条さんの話もよく聞かずに疑ってしまって……」


「だから私はおかしい、って言ってたじゃん!」


「うんうん!中条さんはそんな事しないってあたしも言った!!」


「ちょっと!後からそんな事言うのズルくない!?」


「そうだよ!」


「だってあの時はみんな中条さんを疑っていたじゃん!」


「それにしたってさぁ!」


ギャアギャア騒いでいるみんなの剣幕が凄くて私がポカーンとしていると、間に千歳が入って「ストーップ!!」と両手を広げてみんなを制した。

千歳の声に、みんなが黙る。


「アタシが言うのもなんだけど、この話はもう終わり!あの音声を聞いた通り、みんなも紗月がそんな事する様な人間じゃない、ってちゃんと分ったでしょう?だったらそれでもう良しっ!ね、紗月?」


千歳がそう問いかけて来たので、私は咄嗟にうんうんと頷いた。


「あの状況じゃ誰だって私を疑うよ。私だって私じゃない誰かがああなっていたら疑ってた。だからみんなも気にしないで」


私はシュン…としているみんなにそう言った。

……本当は疑われた事はショックだったしみんなのあの視線が頭にこびり付いているけど、仕方ない事だと思う事にした。

私の言葉で肩の荷が下りたのか、みんながホッとする表情を見せる。


「それにしても、あの高橋って男と新井麗子、最低じゃない!?」


「ホントホント!結局、慰謝料目当てだったんでしょう?」


「うーわっ、マジ最悪じゃん!」


「オレたちの麗子ちゃんがそんな事を……」


「男ってホント、バカだよね!新井麗子なんて一番信用出来ないっつーの!」


「麗子ちゃんを悪く言うなっ!」


「はあっ!?アンタ達、あんな事して来た新井麗子をまだ擁護するワケ!?しんっじらんない!!」


と、私達そっちのけで「女性社員VS男性社員」で火花を散らせ始めた。


「……まあ、あれはほっとこう」


「……うん、そうだね」


全てが解決し、落ち着きを取り戻した私達は、少し呆れ気味に帰りの支度を始めた。


「あの」


「はい?」


呼び止められる声がして、私と千歳が振り向いた。


「あ……」


そこには、何が何だか分からない、と言う顔をした課長が立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る