会社帰りの遊園地2
ザザザ――……。ザザザ――……。
と言う波の音が、心地よく耳に響く。
「お寿司、美味しかったですね~」
「そうだな」
私達は、海がすぐ近くにある歩道を並んで歩いていた。
「風が心地いいですね」
「ああ」
バスに乗って来たから、バス停までの道のりを歩く。
私達は特に何か喋るでもなく、歩いていた。
(こう言う時間、好きだなぁ)
無言でいられる時間が苦に感じない相手とは相性がいい、って何かで聞いた事があるけど、あれって本当かな?
(でもあれって、どっちかが一方的にそう思っていてもダメだよね)
私がそう思っていても、課長がどう思っているかが分からない。だから、私と課長の相性が良い、とは今の段階では言い切れない。
(遊園地も楽しかった)
急に連れて来られた時はちょっと焦ったけど、久し振りに来たもんだから意外とはしゃいでしまった。
(お化け屋敷以外はね……)
お化け屋敷の事を思い出して、頭をブルブル振った。
(楽しい事、思い出そう!)
私は、メリーゴーランドにいたたまれなく乗っていた課長を思い出してクスッと笑った。
(課長、顔真っ赤だったな)
余程恥ずかしかったのか、終始俯いていた。一緒に乗っていた女の子達が不思議そうに課長を見ていたっけ……。
フフフと思い出し笑いをしていると、急に横から腕を引っ張られてよろけた。
「わっ!?」
そのままの勢いで、課長の胸にポスン…と顔を埋める。
「あっぶないなぁ。なんだあの乱暴な運転の車は……」
爆音で走り去って行く一台の車。
課長がブツブツ呟いているので顔を上げた。
「中条も、ボーッと歩いていたら車に轢かれるぞ」
「あ、はい。すみません……」
どうやら、今の車から私を避けてくれたみたいだった。
まったく…と文句を言いながら、私を車道側じゃない方に引っ張ってまた歩き出した。定番ではあるけど、こう言う事をされるとキュンと来てしまう。
へへ…とニヤニヤしながら不意に手に視線を下げると、課長に手を握られたまま。
「……あの、課長?」
「どうした?」
「もう、大丈夫ですよ?」
「え?」
「手」
「手?」
私が指さした手を課長が視線で追う。
「なんだ?嫌か?」
「え……?い、いえ!嫌じゃないです!!」
私は課長の言葉に高速で首を振った。
「そうか。じゃあ問題ないだろう?」
「……はい」
手を繋いだまま、歩き出す。
課長の手は大きくて温かい。
「今日はありがとうございました」
「ん?」
「あの遊園地、私も小さい頃に家族とよく来た思い出の場所なんです。閉園前に来れて良かったです。……デートみたいですごく楽しかったし」
最後の、デートみたいで、はちょっと勇気を出して言ってみた。
課長、どんな反応するかな、って。
「『みたい』じゃなく、俺はデートのつもりだったんだけど?」
「へ……?」
「あ、ホラ、バスがもう
「わっ!」
繋いだ手をそのまま引っ張られ、私達は走り出す。
(え?デートのつもりだった……って、どう言う事!?デートって、恋人同士がするもの、だよね!?)
走りながらパニックになる私の頭の中。
バスの扉が閉まる寸での所で乗車した私達は、息を切らせて一番後ろの席に座る。パニックになっているから、私の息切れはより大変な事になっていて……。
(さっきのどう言う事なんだろう)
聞きたいけど、ノリで言ったんだよ、なんて軽く言われたら立ち直れなさそうな気がして、聞けずにいる。
(でも、ずっと手を握ってくれてるし、ちょっとは期待しても良いの、かな?)
バスの中でもずっと繋がれていた手は、私を期待させるには十分な材料だった。
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