会社帰りの遊園地1

『…5!…4!…3!…2!…1!…0!!』


の掛け声と同時に、辺りがライトアップされる。


その瞬間、周りのお客さん達から『わぁっ!』と歓声が上がった。


「わぁ~~~っ!綺麗ですね!!」


「ホントだな。今日までだったから絶対に見たかったんだ」


横にいる課長も、惚れ惚れしながらそれを見ていた。

会社帰りに、課長に突然「遊園地に行かないか?」って言われた時はビックリした。


どうやら私に拒否権はなかったみたいで、有無を言わさず連れて来られた。

来てすぐ位の時はライトアップにはまだちょっと時間が早かったみたいで、ジェットコースターに乗ったりコーヒーカップに乗ったりして時間を潰した。


嫌がる私の意見を無視してお化け屋敷に連れて行かれたから、仕返しに嫌がる課長を無視してメリーゴーランドに引っ張り込んで一緒に乗ってやった。


ライトアップが始まる頃には双方のライフポイントがすり減っていたけど、これを見たらあっと言う間に回復した。


「この遊園地、小さい頃によく家族で来てましたけど、こんなライトアップなかったです」


当時、こんな洒落たショーアップはなかった。しかも冬じゃなく初夏のライトアップなんて珍しい。そもそもここは、某世界的に有名な遊園地の様に大きくはないし、アトラクションだって少なく子供向け。せいぜい小学生くらいまでが楽しめる様な、そんなこじんまりとした遊園地だった。(でもお化け屋敷は怖かった)


「俺もよく小さい頃に家族と来たな。……ここ、もうじき閉園するんだ」


「え……」


閉園、と言う言葉に驚き、言葉に詰まる。


「そんな……」


「惜しいよな。とても良い所なのに」


さっきまで楽しかったのに、一瞬で切なくなってしまった。それは課長も同じなのか、表情は曇っている。


「閉園前の一週間限定でライトアップされるって前から知ってはいたんだけど、何かと忙しくて結局最終日になってしまって。でも、来れただけ良かった」


「そうだったんですね……」


課長の話を聞いて、ここで出来た思い出が頭の中を駆け巡る。


風船が欲しくて泣いた事や、足が疲れてお父さんに肩車をしてもらった事。誕生日には大きなマスコットキャラクターのぬいぐるみを買ってもらって、ケーキを食べた事。


色んな事がいっぱいあった。


しんみり一人、思い出に浸っていると、またわぁっ!と歓声が上がって顔を上げた。

そこには観覧車をスクリーンに、花火の映像が映し出されていた。プロジェクションマッピング、と言うやつだ。色とりどりの花火が打ち上げられ、パラパラと落ちて行く火の粉一粒一粒までもが綺麗に再現されている。


「キレイ……」


「ホントだな」


最後の花火の映像が流れ終わると、どこからともなく拍手が起こった。私達もそれに習って拍手を贈る。


「さて、帰ろうか」


「はい」


「もう時間も遅いし、なにか食べて帰ろう」


「はい!なにが良いですかね」


「そうだな。ここだとお寿司が美味しいお店が近くにあったハズ」


「お寿司!食べたいです!!」


「じゃあそこにしよう」


「はい!楽しみだなぁ。……あ、課長」


「どうした?」


「最後に、園内一周しませんか?そんなに広くないから時間もかからないし」


なんだかこのまま帰るのが名残惜しくなって、私は課長に言った。

突然の提案に、課長は嫌な顔ひとつせず、二つ返事でオーケーしてくれる。


「良いよ」


「ありがとうございます」


「あ、お化け屋敷にでももう一回入るか?」


課長がニヤニヤしながら私の脇腹を突いた。


「……メリーゴーランドにもう一回乗りますよ?」


「ごめんなさい。すみませんでした。勘弁して下さい」


「よろしい」


私たちは他愛もない話をしながら園内を一周し、お化け屋敷に入る事も、メリーゴーランドに乗る事もしないで遊園地にお別れを告げた。


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