第二章

プロローグ

プロローグ 2

 早朝にも関わらず鳴り響くザーッと言う音は、外が大雨である事を知らせている。

 そんな中、宿屋生活中のリアナは布団を頭から被り、まるで外の世界の情報を遮断するかの様。

 と言うのも。


 「あぁぁぁぁ、兄上ぇぇぇぇ……。 もっとなでなでして欲しい……やっぱり焦らして欲しいであります〜」

 「…………」


 リアナが泊まっている部屋向かいの変態……もといアレクが、より変態になって帰ってきたからだ。

 だから今、リアナは我慢するか、家に戻るか?を天秤にかけているのだが。


 「あぁぁぁぁ兄上ぇぇぇぇ! うへっうへっうへっ……」

 「も、もう無理だ! 我慢の限界だ!」


 流石にパワーアップした変態の存在は我慢できず、リアナに宿を出る決心をつけさせた。


 受付に事情を話し、扉を開けるとそこは大雨。

 いつもは大勢の人々が行き交う街並みは、雨を避けながら小走りで走る商人や、傘をさして楽しそうに話す親子、時折通る馬車が水溜りの水に波を起こすのが目につくくらい。

 明らかに人が少ないと理解できる。


 (雨か……)


 そんな中をリアナは歩いて行く。

 傘などない、だから雨は彼女を濡らしていくわけだが、リアナは一切気にせず雨の中へと向かって行く。


 (シャワー代わりに悪くないな……)


 そんな事を考えながら……。


 「出ていってくれ!」

 「な、何をするでありますか!?」

 「君が気味悪い事を呟くからって客が出ていってるんだよ!」

 「あの、それは……」

 「金はいらないから出て行け!」


 そんな時、リアナの横を蹴飛ばされたアレクが小さく宙を舞い、そして地面に顔から倒れ込んだ。


 「うぅ、どうしてこんな事に……」


 そして上半身を起こし、膝を曲げて座った姿でアレクは泣き始める。

 そんな背中を見ていたリアナは、嫌そうな表情でアレクを眺めながらもこう思うのである。


 (わ、私は嫌だぞ……。 こ、こんな変態に気を使う気などないからな……。 い、いくら泣こうが……)


 …………。


 「本当にありがとうであります、リアナさん!」

 「貴様に同情をかけるだなんて……」

 「あはは、でも嬉しいでありますよ、リアナさん!」

 「う、うるさい……」


 結局、自身の良心には勝てなかったリアナは不満げな顔を浮かべつつ、雨に濡れた体を自宅へと向かわせている。

 その後ろを嬉しげについてくるアレクは。


 「優しいであります、リアナさん!」

 「ぬぐぐぐぐぐ……」


 そう褒める訳だが、自分の甘さを腹立たしく思うリアナは、その言葉が不愉快にしか感じられなかった。


 「……着いたぞ」

 「おぉ、ここでありますか……」(兄上の自宅のお隣たったとは……。 ラッキーでありますな!)

 「来い、体をタオルで拭くぞ……」


 さて、不快そうなリアナと嬉しそうなアレクはびしょ濡れになりながらも自宅へと到着する。


 (治ってるな……)


 どうやら、扉は元通り治っている模様。

 だが、それに関してミーナはそれ以上は特に何も思わなかった。

 そして二人はそのまま浴槽前の洗面台へ向かい、タオルで体を拭く事にしたのである。


 浴槽前の洗面所は、一人の為に作られた狭い空間であるが、その中に一通りの設備は揃っている。

 鏡がついた蛇口付きの洗面台、いくつものタオルと下着がが雑に置かれた棚。


 そんな狭い空間に、二人は一緒に入る訳なのだが。


 「えっ、えっ!?」

 「何だ?」

 「あ、あのっ!? 目の前で迷わず着替えないで欲しいでありますが……」

 「何だ? 照れてるのか?」

 「あ、当たり前であります! は、早く服を着て欲しいであります!」

 「服を着てって、下着を付けてるから大丈夫だろう?」

 「下着姿はダメであります! 目に毒であります!」


 早速リアナはアレクの事など気にせず、上着を脱ぎ、ズボンを踏む様に脱ぎ始め、あっという間に白のブラに赤のパンツだけを纏う姿に。

 だが思春期のアレクには、それは大変強烈であり、両手で赤面した顔を隠してしまうのは仕方ない事かもしれない。


 (はぁ……)


 本当であれば、体を軽くタオルで拭き、濡れた下着のままベッドに倒れ込んでしまいたい所だが、このままでは思春期の反応を示すアレクが騒がしくなるかもしれない。

 その為、リアナは「面倒だな……」と口にしながらも、ズボンを手に取り履き始めた。


 「り、リアナさん、リアナさん!?」

 「何だ?」

 「その、胸が当たっているであります!」


 しかし、狭い空間の中に二人もいる状況で着替えるのだから、相手に胸が当たってしまう事があるのは仕方のない事ではないだろうか?


 前屈み気味の体勢で足を入れ始めたリアナの胸は、アレクの顔を覆った。


 その結果、アレクの赤面は頂点に達し、興奮のあまり鼻血を垂らし、力が抜ける様にヘナヘナと倒れ込んでいく。


 「おっと……」


 そんな倒れ行くアレクを抱きしめて受け止めたミーナは静かに、短くこう思った。


 (まったく……)

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