リアナは自分の優しさが嫌に思ってしまう

第21話

 (まったく、まったく私自身が嫌になる……)


 リアナは嫌そうな顔を浮かべながらも、上着を脱がせたアレクの体を拭き、タオルを何枚も敷いたベッドの上に白いパンツ一枚のまま寝かせた。


 その後、窓枠に両腕を置いたリアナは、閉まった窓の向こうに広がる昼前の大雨を眺め始める。


 「…………」


 リアナは今、何も考えていない。

 ただ徐々に酷くなる雨のザーッという音を聞くだけ。

 視線を下に落とせば道、しかし大雨は人の行き来を奪った模様。

 今は誰も、道を歩いていない。


 次にリアナの目線は、アレクの方へ向いた。


 成長途中ながら程よく引き締まった白く綺麗な体、将来良い男になりそうな整った顔立ち。

 手足の毛は薄く、綺麗な肌を見るに何処か清潔感も感じてしまう。

 そんな容姿だからこそ、リアナは可哀想な人を見る目でアレクを眺めている。


 (性格さえアレじゃなければ、完璧だろうに……。 勿体ない奴……)


 そう思ってしまったから……。


 「ん……」


 そうしている間にアレクは目覚め、少しの間ボーッと天井を眺めた後、バッと体を起き上がらせる。


 「なっなっなっなっなっ!?」


 そして、自身がパンツ一枚である事を理解したアレクの顔は一気に赤面し、自身の胸板をパッと隠すと、リアナを恥ずかしそうに見つめながらこう言った。


 「あの……。 もしや、リアナさんとやってしまったでありますか……?」

 「何をだ?」

 「その……体を……でありますな……」

 「ん? 何だ?」

 「いわゆる、その……」

 「聞こえないぞ?」


 アレクの声は徐々にボソボソと聞き取りにくいモノになっていった為、リアナは途中からアレクの話を聞き取れなかった。


 「はぁ……。 はっきり言え、貴様……」


 そして、腕を組んだリアナがため息混じりでそう言った時。


 「じ、自分はリアナさんと体の関係を持ってしまったでありますか!?」


 まるで感情を爆発させる様に、困惑気味な大声をあげたのである。


 「お前は何を言っているんだ?」


 そんなアレクにリアナは冷静だった。

 アレクの横に立つリアナは腕を組み、「何を言いたいんだ?」と言わんばかりの表情を浮かべて見下ろしている。


 だが、そんな言葉はアレクがそう思った理由を具体的に述べるには十分だったのかもしれない。


 「だ、だって自分、パンツ一枚でありますし、自分のパンツが濡れているでありますし、リアナさんが自分の前で着替えていたでありますし……!? きっとネルブさんが言っていた大人の火遊びであります、間違いないであります!?」

 「……お前、ホントに大丈夫か?」


 両手を振りながら必死に語るアレクに対し、リアナは呆れ顔を浮かべている。

 そして、リアナは事情を話して落ち着かせようとしたのだが。


 (あ、もう、めんどくさい……)


 その瞬間、やる気ゲージがなくなってしまった為、リアナはアレクがいるにも関わらず、ベッドの上に倒れ込む。

 まるで二人でXを描くかの様に……。


 「あの、リアナさん、リアナさん!? 何でいきなり自分の上に倒れてきたのでありますか!? あの、リアナさん、もしや、また……!?」


 そして、顔を赤くし早口でリアナに訴えかけたアレクであるが、やる気を失ったリアナは声を出す気すらしない、動く気もしない。

 だから、アレクがいくら抵抗する様な声を出そうが、反応すらないのである。


 …………。


 「あわわわわわ……。 り、リアナがアレク君を襲ったみたいですよ……」

 「も、もしかしてリアナさんってアレクの様な人間がタイプだったのか!?」


 そんな壁の向こうでは、エドガーとミーナがその会話を盗み聞きしようと、互いの顔を見合わせながら壁に耳を立てている。


 二人が壁に耳を当てて聞き始めたのは、アレクが「リアナさんと体の関係を持ってしまったでありますか!?」っという大声が、隣から聞こえてきたからである。


 初めは何かの聞き間違いと思ったが、雨音に邪魔されながらも聞こえてきた「パンツ一枚でありますし、自分のパンツが濡れているでありますし」っと言う言葉を聞いた時、二人揃って。


 ((まさか、やったのか……!?))


 っと思ってしまい、二人はアレクとリアナの様子が気になってしまい、現在に至る。


 「え、エドガー君……」

 「な、何ですか、ミーナさん……」


 さて、壁から耳を離したミーナは、軽く赤面しながら、同じく軽い赤面するエドガーに話しかける。


 「あの、リアナの事、応援してあげるべきでしょうか?」


 しかしその内容はミーナがリアナの事を思っての事ではあるが、どうするのが正しいか出なかった為に出た質問である。


 「さ、さぁ……」


 だが、エドガーはそれに対してはっきりとした答えを出す事が出来なかった。

 それは、リアナが行った行為に(実際は行ってすらいないが)答えを見出せなかった為である。

 その為、エドガーは今。


 (こ、この場合、どうするのが正しいんだ……)


 と悩ましいと言わんばかりの顔を浮かべていた。


 エドガーにとって、リアナは知恵を貸してもらった事がある、アレクは自分の弟という存在である。

 そんな二人がそんな関係になった、エドガーがそう悩むのは仕方のない事だろう。


 だが、エドガーのその表情はすぐに良いアイディアが浮かんだ表情へと変わった。


 「そうだ、ネルブさんに相談するのはどうかな、ミーナさん!?」

 「確かに! それは良いアイディアですよ、エドガー君!」

 「えぇ早速行こう、ミーナさん!」

 「はい、すぐに行きましょう!」


 二人は互いに相手を指差し、笑顔を浮かべると、階段を降りて扉を開け、ネルブの店へ。


 「いらっしゃい! ってアンタ達、夫婦揃って来てくれたのかい!」


 そして、さわやかな笑顔で出迎えてくれたネルブに対して、二人は慌てた様子でこう訴えるのであった。


 「「アレク(リアナさん)とリアナ(アレク君)が身体の関係を持ったみたいなんです!?」」

 「はぁ!?」


 その瞬間、ネルブは驚きを短く言葉にし。


 「ホントですって、聞いたんですよ私達!」

 「隣の部屋から聞こえてきたんですよ!」

 「ほ、ホントなのかい!?」


 二人の返答に、更なる驚きを言葉にするのであった。


 …………。


 店の前には臨時休業の札がかけられている。

 そして店の中にあるテーブルに座った三人は早速その話題を話し始めるのだが。


 「ま、まさかリアナがそんな趣味があったとはねぇ……」


 一通りの話を二人から聞いたネルブは、落ち着きを取り戻しながらも改めて衝撃を受け。


 (リアナって年下好きなんだねぇ……)


 と困惑気味に心の中で驚いた。

 しかし、落ち着きを取り戻したネルブと違い、エドガーとミーナの興奮は収まらない。


 「あの、リアナとアレク君はこのまま結婚するのでしょうか!?」

 「そうなれば嬉しいですが、そんな関係から始まる結婚は良いのか分からなくて……」

 「やっぱり、清い関係からのスタートの方がいいと思うんです、私は!」

 「そうですよね、ミーナさんの言う通りですよね!」


 だから二人は席を立ち、両手をテーブルに乗せると、前のめり気味に交互に訴える。

 まるでネルブの顔に迫らんとする勢いで……。

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