第4章 2人の想い~成人式後~

 成人式の日以来、私のドキドキは止まらなくなってしまった。今までSNSのメッセージでやり取りしていたのが、メッセージ専用アプリに変わった。

 ますます前より頻繁にやり取りをするようになり、彼から連絡が来ていないか、気になって仕方がない。授業中も携帯を見てしまう始末だ。

『京香といつかここ行きたい!』

 気付いたら、下の名前で呼ばれるようになった。彼から送られてきたものを見ると、キレイな夜景が見えるレストランだった。

(え、これって……)

 カップルや家族が記念日の祝いなどで、行きそうな場所だ。もはや、私のことが好きだと言っているようなものではないだろうか。

(そう、捉えていいのかな?)

 心の中はプチパニック。

 彼のメッセージの節々から「好き」というオーラが漂う。成人式以来、彼とは会っていない。メッセージのやり取りだけだった。

(すごいピンクのオーラが出てる!?)

 と毎度毎度思う。

『京香、今日はSNSにアップしてた服、可愛いね! 似合う!!』

『え、ほんと? 結構気に入って買った服なんだ』

『うん! 京香も可愛いよ』

 文字だけなのに顔が赤くなる。口元がゆるみっぱなしだ。彼は付き合ってもいないのに、毎日のように「可愛い」と言ってくれるのだ。口元が終始、緩んでしまう。

『今度、水族館に行かない?』

『え、行きたい! イルカショー見たい!!』

『俺、次の休みが土曜なんだけど、どうかな?』

 急いでカレンダーを確認すると、丁度空いている日だった。授業そっちのけで、彼に返信をする。

『空いてる!!』

『お、じゃあ午後に待ち合わせて行こうか!』

 こうして、週末に彼と水族館デートすることが決まった。



 初めての彼とのデートは、ずっとドキドキしていた。デート中も段差などがあると、「気をつけて」と紳士的な振る舞いをしてくれる。本当に尽くしてくれて、いい人だという印象がより強まった。

 水族館でたくさん魚を見た後なのに、夜ご飯にお寿司を選んだのには笑ってしまった。

 いつの間にか、一緒にいない時も彼のことを考えている自分がいる。今まで、顔がよくて好きになったりすることが多かった。だが、彼は高校の頃から顔は正直タイプではなかった。なのに、今は彼がカッコ良く見えてしまう。恋の魔法は、すごい。

(好きだから、カッコ良く見える定義だわ)

 彼の写真を眺めながら、しみじみと思う。

 それから水族館デートをきっかけに、何回かデートを重ねた。

 そんなある日、彼から突然「会いたい」と連絡があった。

『京香、今日、学校終わりに会える?』

『うん、大丈夫だよ?』

『学校まで迎えに行くね』

『ありがとう』

 私は、不思議に思った。彼は、今まで急に会いたいと言ってきたことがない。いつも前もって予定を決めるタイプだ。

(何かあったのかな?)

 少し心配しつつ、校門で彼を待つ。

「京香、お待たせ!」

「ううん。裕くんは仕事終わり? お疲れ!」

「うん、ありがとう。家まで送るよ」

 彼はそう言って、車から降りて来て、助手席のドアを開けた。彼の紳士的な行動は何度されても慣れない。

 車に乗り、家までの道中はいつものようにたわいのない会話だった。そして、彼が家の近くの公園に車を止める。

「話があるんだけど」

 先程までの楽しい雰囲気とは違い、真面目な空気。自然と背筋が伸びる。

「結婚前提に付き合って欲しい」

「……!?」

 思わぬ話に目が飛び出そうになった。

(えええ!? 結婚!? え、ちょっ……えっ!?)

 頭の中で、「」というワードがぐるぐると回る。驚きつつも、どこか冷静に

(この人となら上手くやれそうかも)

 と思う自分がいた。だが、ここで問題が生じる。

「ちょ、ちょっと待って! 私、まだ彼氏と別れられてないから……」

「うん」

「私も裕くんと付き合いたいと思う! でも、ちゃんと彼氏とはケリをつけたい」

「わかった」

「すぐにケリをつけるから、待ってて」

 泣きそうになりながらもそう伝えると、彼が優しく頭を撫でてくれた。その手が温かくて、背中を押されたような気持ちになる。

 しばらくしてから車から降りて、彼の車が見えなくなるまで見送る。

 そのまま私は、家の方へ向かわずに公園のベンチを目指す。手には携帯を握りしめながら————。





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