第10話 近況編③ 新型SKフォレスター (令和元年8月)

新型SKフォレスター (令和元年8月「フォレスターお前もか」と思った日)


プロローグ


 夏休みでした。まだコロナのコの字もなかったころの平和な、いつもの夏休みのことでした。突然ワシのフォレスターがシャコタンになっていました。それに気づいたのは、用事で九州に行く前日の夕方のことでした。


ワシのフォレスター(SJ型2013年式XT走行約2000万キロ)が壊れたというか左後輪がシャコタンになりました。。

 ワシのフォレスター(SJ型2013年式XT走行約2000キロ)は、日頃は車庫に入っています。冬場はちょっと乗りますが、あとはちょっと遠出する時かよほどの悪天候のときか、妻を乗せて出かけるときか実家に帰るときか、それから半年毎の点検のときに出動するぐらいで、ほとんど乗る機会がありません。だから年式の割にピカピカでタイヤもほとんど減っていないし、内装も極上状態です。ただ、5年を経過してタイヤが固くなってきたので、そろそろ交換せんといけんなーと思っていました。もちろんオイルも半年ごとの点検時に走ってないけどディーラできちんと交換しています。

 初めてのスバルでしたが、使い勝手と速さと悪天候での信頼性やその他諸々ですっかり気に入ってしまい、もう当時で6年も所有していました。ワシの車歴としては、最長の部類です。そのフォレスターがまったく予期せぬ壊れ方をしてくれたのでした。

 8月5日の日曜日の夕方のことでした。明日は高速乗ってはるばる200キロ走って九州に行くことになっていました。車に関しては割と神経質なワシは、給油と空気圧調整のために近所のガソリンスタンドに行きました。そのとき、左後輪とホイールハウスのすき間がやけに小さいことに気づきました。

「フォレスターってこんなに隙間が小さかったっけ?」

そういえば車体が左側に傾いているようにも見えます。

?になったワシは、スタンドの兄ちゃんに相談し、早速ジャッキアップして見てもらいました。すると左後輪のスプリングを支えている受け皿のようなものが外れてバネの間に挟まっていて、それによってバネ長が変わって車高がぐっと下がっていることがわかりました。スタンドの親切な兄ちゃんは、あまり動かさない方がいいと言ってくれました。それからワシもスタンドの兄ちゃんも、こんなになったのを見たことがないということでしばらく呆然としていました。

 ワシはゆっくりゆっくりと気遣いながら運転して家に帰りました。それから、フォレスターを購入してからずっと面倒を見てもらっている隣の市のスバルのディーラーに電話しました。すると・・・。

「本日の業務は・・・。」 

という留守番電話。もう19時を回っていたので当然ですが閉店していました。明日朝一で電話しよう。そうしよう。でホームページ見たら明日の月曜定休日って書いてあるし・・・。どうしよう。困ったぞ。こういう時こそ冷静に考えようと思うことができるようになったのは、年齢を重ねたワシの大きな進歩です。

 まず、明日の用事をキャンセルしました。それからネットで調べて山口市の本店が出てきまて、そこにメールができるようになっていましたので。ワシは必死で次のような内容のメールを送りました。


「突然すみません。貴社萩支店で購入させていただいたフォレスターが走行不能になって困っています。2013年式XT走行22000キロです。

 本日18時頃、給油のためにガソリンスタンドに行った際に見つけました。左後ろが下がって、左後輪とホイールハウスが接触すれすれになっています。ジャッキアップして見たところ、左後輪のバネを支えている下側の受け皿が外れてバネを支えられなっているように見えました。とりあえずゆっくり家に帰ることができました。とても困っています。ご連絡ください。よろしくお願いします。」

             (ワシの本名  ℡090―△△△△―××××)


 もう仕方ないので明日のことはすべてあきらめて、待つことしかできませんでした。

「まあ、萩店は明日が定休日だから、明後日の朝一で電話してみるか・・。」

ぐらいの気持ちで、あまり期待していませんでした。

 実はワシは、この異常事態を、何かが行くのを止めてくれたんじゃあないかと考えていました。予定通りに高速に乗っていたら、逆走の車に遭遇して正面衝突していたかもしれないとか、トラックに追突されて死んでいたかも知れないとか。ワシは基本的にそんな風に考える人間なので、さして怒ったり落ち込んだりしたわけではありません。自称霊感体質の妹も亡き母が守ってくれているので無理に行かなくて正解などと同じようなことを言っていました。なんてプラス思考の家族なんだろうかと自分でも感心していました。まあ、高速に乗ってから、バキッときたら間違いなくひどい目に遭っていたに違いありませんから、前の日に折れていてくれて、前の日に見つけることができて、それはそれでラッキーだと思いました。

 翌日の朝の9時過ぎに、突然携帯がなりました。

出てみると前の日にメールを送った山口スバルの本社からでした。おそらく開店してすぐ電話してくれたのですね。それでワシのわかりにくい話を

「大変でしたねえ。」

と丁寧に聞いてくれた上に、萩店にすでに連絡してあるので、ローダーで引き取りに行くという何とも驚くくらい迅速で丁寧な対応をしていただきました。すごいなあ。山口スバルさん。

 結局ワシの都合で、午後3時に自宅まで来てくれることになったので、用事を済ませて2時半には家に帰って待っていました。すると3時ちょうどに、ピンポーンと鳴って、とても丁寧で礼儀正しい若者が来てくれました。

 外にでると、キャリアカーに、白い新型フォレスターが積んでありました。代車も持ってきてくれたんですね、お願いもしなかったのに、こんなに良い車を貸していただけるなんて本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。

 若者は、新型フォレスターをローダーから降ろすと、代わりにワシの車高短フォレスターを丁寧にローダー積載して、挨拶をして帰って行きました。

 ワシはすぐに、萩のスバルに電話してお礼を言いました。ついでに、新型フォレスターみたいなしかも走行1300キロのほぼ新車を借りては申し訳ないと思ったので、明日返しに行きますと伝えました。ワシにはまだ小さな相棒もありますので、遠くにさえ行かなければ、フォレスターが入院してもあまり不自由はしないのです。ところが、

「いいですよ。よろしければどうか自由に乗り回してみてください。」

と親切におっしゃいましたので、ワシはお言葉に甘えまくって、この機会に新型フォレスターで九州に行ってみようと思ってしまったのでありました。

 さっそく取説を出して、基本操作を何となくですが確認しました。それからETCがついていることも確認して、8日に行くことにして準備にとりかかりました。新型フォレスターで遠乗りができると思うと嬉しくて、寝られないほど楽しみでした。

 

新型フォレスターSK型とは、初対面でしたが、幅が広がって車高が低くなったように見えたので、この種の車としては最も悪いパッケージングになったなあと思いました。時代の流れと申しますか、どんどん車幅が広がって屋根が低くなって全体的に平べったい印象の車が増えてきています。確かに低くて平べったい車はカッコウがいいのですが、運転すると最悪です。1800mmオーバーの車体はここ日本では大きくて扱いにくいことこの上ないのです。車高が低いのでどうしても座り込んでスポーツカーのように寝た姿勢になって運転することになります。幅の広い車をこのような姿勢で運転することは苦痛以外の何者でもありませんが、機能よりもデザイン優先で車を知らん人々をだましてインチキ商品を売りつける。あるいは売れれば正義的な最近の車業界は、昭和50年頃に退化して閉まったのでしょうか。実は輸出がらみだということは今となっては誰でも知っていることなのですが、生き残るためにはこんなパッケージングにせざるを得ないことに悲しみを感じるのはワシだけでしょうか。

 さて、本題にもどります。というわけで実物を見た瞬間、

「フォレスターおまえもか。」

と思わずがっかりしてしまいました。それから、いつもの習慣で、ボンネットを開けようとしたら、えらい重いんです。このボンネット。ワシのフォレスターは、アルミボンネットでダンパー付きで、開けるとそのままの状態が保持されます。だから開け閉めがとても楽なのです。ところが新型は、思いっきり鉄の重いボンネットをよいしょと開けて、細い棒で支えるという非常に安っぽい作りになっています。見えないことろには無駄銭は使わないぞという意気込みが感じられ、非常にトヨタ車的な作りになってしまったなと思いました。内装やナビはちょっと高級な作りになっていましたがこれもトヨタ的で、見栄え第一主義に振ったなあと感じました。そういえばスバルとトヨタってOEM生産者でけっこうつながっているし影響受けても当然といえば当然だなあと思います。でもスバルらしさが失われてしまうのはいただけません。だからワシは、この新型はあまり期待できんなと思ってしまいました。ワシはトヨタの車が決して嫌いなわけではありません。友達の車を運転させてもらうと、よくできているなあと素直に思います。でもワシはトヨタの車を所有したいと思いません。なしてかというと、ときめかないからです。どっか行きたいとかこんな生活をしたいとか、デートしたいとか、そういう趣味性の部分が思い浮かばないからです。通勤とスーパーへの買い物と送迎以外の用途に使うと楽しくないじゃろうなと感じるからです。

ところが、乗ってみるとこれは紛れもないスバルの良心で作られたフォレスターでした。あまり期待していなかった2500ccのボクサー4は発進直後から力強さを発揮してくれます。乗り心地も良くなって静かになって、非常に乗りやすい。大きく重くなった車体をあまり感じさせません。

 いちばんびっくりこいたのは、アイサイトバージョン3であります。ワシのバージョン2よりも遙かに運転が上手になっているではありませんか。ワシのは多少ぎくしゃくしたりブレーキの制動が感覚とちょっとずれて冷やっとしたりで、まだまだ人間の運転には敵わないと感じる部分もあるのですが、新型はまったく別物です。スムーズというか違和感が全くないというか、これなら安心して任せられるという感じです。

 そうこうしているうちに1時間半も経って、やっと高速に入りました。ワシはいつものように、前車と捕まえて追従クルーズに入って楽をしようと思いセットしました。前車追従機能です。これがあると本当に高速道路を楽に安全に走れます。

 ピッという音とともに前の車を捕捉。あとは楽ちんクルーズにお任せです。これはワシのフォレスターも一緒ですけど、ワシがびっくりしたのは、カーブでハンドルにそっと力が加わってハンドルを切るように促してくれることです。すごい。それからは、何の苦労もなく、促されるままにハンドルをちょっと切り足しさえすれば、あら不思議。ちゃんと関門橋超えて九州に到着しました。もちろん途中で車線変更したりで、自分で運転する場面もありましたが、はっきりいってとても楽でした。安心でした。すごいぞ、アイサイトバージョン3。

 音も静かで、水平対向エンジンのドコドコ音は見事に沈黙していますし、車体剛性だってサスペンションだって、とにかく静かで楽で乗り心地を含めて高級車感いっぱいでした。いつものパターンなら、ここでワシはこの新型フォレスターが欲しくなるところですが、やはりワシのフレスターの方がええと思ってしまいましたので、今回はそういう気持ちになりませんでした。

 この型になったとき、伝統のターボ仕様がなくなって、お嘆きの方々も多かったようですが、2500のこのエンジンで必要十分だと思いました。なんも困りませんから。でも280馬力直噴ターボの面白さにはかなわないというか、そういう優等生的なエンジンはフォレスターのキャラクターに合わないというか、オーナーの一人としてそう感じざるを得ませんでした。でも本当にええ車でしたよ。

 装備が高級になって電子制御満載で、まるでトヨタ車のようになってしまったフォレスターを見て「フォレスターおまえもか。」とシーザーのように叫んでいたのですが、往復400㎞を乗ってみて、やっぱり質実剛健のスバルが作った良い車だなあと改めてフォレスターの良心を感じました。実際に調べてみたら全長+15ミリ、車高変わらず、車幅+20ミリでほとんど変わってなかったのですが、なぜか大きく立派に見えた新型フォレスターでありました。でもスバルの方々は車幅以外をいろいろな要求から死守したのだろうなあということが伝わってくるにでした。


 追伸


 3日後にワシのフォレスターが直ったという連絡があったんで萩まで取りにいきました。折れたバネを見せてくれましたが、1/3ぐらいまで錆が進行していて、残りの2/3が絶えきれずにポキッと折れたということでした。生々しい断面を見て、ワシは、

「あのとき折れてなかったら、下手をしたら 高速で死んでいたかもしれんなあ。」

と、本気で思いぞっとしました。原因は不明でした。確かに家は海に近いのですが、ほとんど屋根付き戸付きのガレージに保管してあって点検もきちんとディーラーで受けてあって、きちんと洗車もするし水切りだって万全だし、とにかく過酷な条件では一切使用してないのに、ワシも生まれて初めてこんなことになって非常に困惑しました。しかし山口スバルさんと萩のスバルの代理店さん(この春から正規の営業所が撤退したため「スバルショップ萩」という会社に委託になっている)の非常に迅速で丁寧で感じの良い対応をしていただき、すっかり魅せられてしまい、またここで買いたいなあとか思うようになりました。

本当にまれに見るケースでした。6年も経っていたのに、無償で修理してくださった山口スバルさんありがとう。ついでに6年も経過していたタイヤも替えてもらい、新車のような乗り心地になりました。

 でも、新型に一週間ぐらい乗っていたので、ワシは自分のフォレスターを小さくチャちく簡素に感じてしまいました。でもやっぱりこっちの方がええなあ、乗りやすいなあと改めて感じながら帰路につきました。


追記

 しばらくしてスバルから「リコール」の連絡がありました。バネの塗装がどうのこうので錆が進行し最悪の場合は破損するという内容でした。まさにワシのフォレスターの事例そのままでした。

きちんと調べ、決して隠さず、誠意をもって対応してくださったスバルの方々に感謝の意を込めて。(令和元年8月末日)

 

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