第10話 ベッド

私たちはしばらく

言葉なく抱き合っていて

それから

どうしたらいいのか?

どうするべきかも分からなかった?


強い北風が吹いて

二人で身をすくめた後

真田が私から離れて着ていた上着を脱いで

私をくるむ様に包んだ


「帰る」


そう言って背中を向けた


「待って

風邪ひいちゃうよ」


そう言って

上着を返そうとしたけど

真田は走って帰っていった


私は上着を返したっかったんじゃない

もう少し

真田にくるまれていたかったんだと思う


私は真田が見えなくなって

自分の部屋に帰った


手がジンジンとした

私は真田の上着を抱きしめて

ベッドに潜る

真田の匂い・・・


胸がジワリと熱くなる


さっきまで感じていた温もりも

かすかにここにある


まるで真田とベッドで抱き合っているように

それを抱きしめる


「好き・・・好き・・・好き・・・」


小さな声で何度も真田への愛を告白する

今、この場所に彼がいたら

こんな私をどう思ったかな?

キモイかな?


そう思いながらも

彼の香りとまぐわっていると

スマホがなった


”ピッ”


メールだ


私は

真田の上着をベッドに残し

机に置いたスマホの画面を見た


理玖だ・・・


火照っていた肌が

急激に冷める


”起きてる?

俺はさっきまで寝てた

今から勉強頑張るよ”


私は理玖からのメールを見て

固まる

早く返信しなきゃ・・・

早く・・・早く・・・


言葉が上手く浮かばない


私は

そのまま

スマホを裏返した


そして

ベッドに戻り

また

真田の上着を抱きしめた


ごめん・・・理玖


私ね・・・私

今は、真田を愛してる


私、最低な女だね

あなたを裏切っています


翌日

なかなか目が覚めなくて

ギリギリで家を飛び出した


「行ってきます」


玄関の門の前に出ると

昨日、真田と抱き合っていた場所に目をやる

すると

理玖がいた


「おはよう」


理玖はニコリと笑ってこちらを見た

私は目を逸らした


まるで

浮気現場を見られてしまったような気持ちで

後ろめたかった

そんな表情に彼は何か気が付いたように

笑顔は曇った


「ごめん

朝から会いたくて

迎えに来た」


いつもなら

理玖の飾らないストレートな

その言葉にキュンとくる

だけど

今朝は・・・ごめん


「珍しいね・・・朝から・・・」


そういって微笑みかけるけど

きっと笑えていない


理玖は小さくうなづいて

私たちは同じ方向へ歩き出す


理玖は少し前を歩く

スマホを見ながら歩いている

それが素っ気なく見えて気になる


手・・・つながないの?


理玖・・・こっちを見ない


理玖・・・無口


何もかもがいつもとは違っている

それは朝だからかもしれない

それか・・・

私がそんな風にさせてしまっているのかも


学校が近くなってきたとき

理玖がスマホを鞄にしまい立ち止まった


「リン・・・何かあった?」


真面目な顔

低い声

理玖・・・何かに気が付いているの?


私も立ち止まって

下を向く


「リン?」


理玖が私の顔を覗き込む

困っていたのかもしれない

理玖にすべてを見透かされているようで

彼の真っすぐな目が見れない


すると

理玖は私の手を強引につかみ

学校とは逆の方に歩き始めた

私はどうしていいかわからなくて

そのまま連れていかれる


「理玖・・・理玖・・・どこ行くの?」


やっと聞けたのは

しばらく進んだところだった


理玖の家の前


理玖は何も答えないで

家の鍵を開け

靴もバラバラに脱ぎ捨てるように

私を連れて部屋へ・・・


部屋の戸を閉めたら

私の腕を離した


腕が痛い

少し赤くなってる


それを見て

理玖は


「ごめん・・・痛かった?」


私は言葉なくうなづく

理玖は私の肩をもって

少々強引にベッドに座らせ

理玖は向かい合うように

床に座った


そして

少し下から見上げるように

こちらを真っすぐに見た


怒ってる?


そう見えてしまうのは

やはり

私が悪い事をしているからかもしれない


いつになく

シリアスな理玖に

私はドキドキドキドキと心音に追い詰められるようだった


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