第9話 彼の胸

冬休みが終わり

私たちは

本格的に高校受験へ向けて進みだした

今までのように時間はないけど

毎日、理玖とは寝る前に5分だけと決めて

メールしていた


”ピピピ”


着信?

今日はメールじゃないの?

私は時計を見る

22時過ぎ

時間も今日は早い


スマホを見る


真田からだ


真田は

あのキスの日から

会っていなかった


会っていないと言っても

学校で顔を合わす・・・


ただ

それまでのように

理玖と三人で下校することがなくなった


【理玖と二人で下校】


「お待たせ」


一人で教室で待つ私を見て

理玖はキョロキョロまわりを見て


「あれ?今日も一人?」


私は小さな声でこたえる


「うん」


「そっか・・・」


理玖、少し寂しそう


「最近、真田は一緒に帰らないね」


「そうだね

あいつなりに気を使ってるのかな?」


「今更?」


「そうだね

今更・・・だね」


二人でクスクスっと笑った


家の前に着くと

理玖はちょっと強く手を握りなおして

名残惜しそうな顔でこちらを見る

私はそれが

たまらなく可愛い


「じゃ、また夜ね」


「ああ、メールするね」


「・・・ ・・・」


理玖がナカナカ手を離さない


「もう少し歩く?」


私が聞くと

理玖はニコリ笑って


「歩く!」


理玖・・・かわいい


私はこうして

理玖への思いを一日一日

深めて

真田との不実なな行いを

理玖の笑顔で上書きしていった



なのに

なのに

今、私のスマホには真田の着信

どうしよう・・・

出ても良いのかな?

だけど

何でもない事かも

だって・・・真田は友達だし

理玖の親友だし

出ない方がおかしいし


私は

うだうだしているけど

全く着信音が止まらなくて


出る覚悟を決めた


「はい・・・ ・・・」


「あっ・・・でた」


声・・・真田の声だ

久しぶりに聞いた

どうしてだろう

胸の奥がギューッと締め付けられるように

苦しい


「あのさ・・・出てこれる?」


私は窓の外を見る

玄関の門の前に

真田が立ってこちらを見上げているのが見えた


私はすぐに

部屋着のまま

寝ている親にばれないように

静かに外に出た


「久しぶり」


私が言うと

真田はにっこり笑って


「学校で会ったるだろ?

って言うか

寒くねーの?」


真冬の風が冷たい

でも私は首を横に振る


「来る?」


真田は私に両手を広げ

胸の中に来るか?と誘った

私は

何も返事はしないで

彼の中に包み込まれた

温かい

真田は自分の上着で私をくるむんで抱きしめた


何なのよ

この包容力

安心して涙が出る


「どうしたの?」


私が聞くと


「どっちの意味?

最近、お前らに距離を置いていたこと?

それとも

今、会いに来た事?」


真田の声が彼の胸からも聞こえる


「どっちも」


「もう・・・二人で会うのやめようって思ってた

これ以上

好きになったら

ヤバいって思ってた」


やめようって思っていたんだ


「そうなんだ・・・」


少し寂しい


「理玖を裏切りたくない」


・・・ ・・・


「そうなんだ・・・」


そんなの私だって一緒だよ

共犯でしょ?


「あいつ

良い奴だから

俺がお前の事好きだって知ったら

おまえとこうして会ってるの知ったら

傷つく」


分かってるよ

そんな事


「そうなんだ・・・」


私だって

考えてる

毎日毎日・・・毎日毎日

真田の事を思う度に・・・


「傷つけたくない」


ねぇ分かってる?真田

そんな分かり切った正義感

理玖の事を守れば

私が傷つくんだよ


「そうなんだ・・・」


そんな風に思う私は

自己中心的な酷い女なのかもしれない

真田は理玖のことばっかり

それに嫉妬する気持ちがこみ上げる


「じゃ

何で会いに来たの?

何でいま、こうしてるの?」


真田は黙り込む

聞いちゃいけなかったかな?


私は真田の顔を見上げる


悲しそうな顔


そんな顔しないで

そんな顔されたら

私・・・辛い




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