第20話 クラスのギャルは眼鏡好き?


 メイの左腕には、レモンがピトっと抱き着いている。

 二人は今、まるで恋人同士のように駅前の通りを歩いていた。


 すれ違う人が皆、レモンの可愛いさに見惚みとれ、そして隣りの男を見て首をかしげる。

 多少は身綺麗にしてきたとはいえ、何しろ全体的に負のオーラが漂っているのだ。なんであんな男と?と思う人間が殆どだろう。


 それはメイ本人ですら「何で俺がこんな美少女と……」と思うほどだった。

 だがレモンは楽しそうにメイに色んな話題を次々と話しかけていて、そんなことを気にしていない様子だ。


「えっとねー、私がいつもお世話になってる美容院に予約を入れておいたんだ」

「大丈夫なのかそれ……俺はいつも予約の要らない床屋に行っているんだけど」



 普段からオシャレとは無縁の生活をしているメイにとって、美容院は超高難度のミッションである。

 そもそも予約なんてゲームを購入する以外でしたことも無い。


「どうせ髪を切るんだったら、その前に眼鏡も変えちゃおうよ!」

「え……眼鏡を?」


 今のメイの眼鏡は実用性特化型。

 とてもじゃないが、オシャレなアイテムとは言えないシロモノだ。

 レモンはまず、そこから変えたいらしい。


「あ~、どうしてって顔してるね!? 眼鏡だって、かなり印象が変わるんだよ~。ホラ、見てみてよ!」


 カバンからスマホ取り出して操作をすると、画面をメイの眼前にグイっと押し出した。

 それは彼女がモデルの仕事でも使っている、画像投稿サイト。色んなファッションで着飾ったレモンがタイルのようにズラリと並んでいた。


「すごいな……確かに全部違う」

「でしょー!? たしかに髪型とか服も違うけど、眼鏡だって顔のパーツ並みに重要なんだからね?」


 自慢げに胸を反らしている隣りで、メイは感心したように次々と画像を観察している。


「うん、どれもレモンに似合ってて可愛い。あ、コッチは綺麗な感じがするな」

「ちょ、ちょっと……あんまりマジマジと見られると、ウチも恥ずかしいんだけど」


 真っ赤な顔でメイからスマホを奪い返すと、スタスタと先に歩いて行ってしまう。

 いくら普段から周囲に褒められ慣れているとはいえ、気になる男の子から言われるのは恥ずかしいようだ。



 だが、そこは女心の分からないメイ。

 レモンの態度を不思議がりながらも、意識は既にどんな眼鏡にするかで夢中になっている。


 こうして彼女の眼鏡論に納得したメイは、美容院の前にそちらを先に新調することになった。




 ◇


「いやー、良く見える!! また視力が下がっていたみたいだし、ちょうど良かったわ」


 メイは黒縁のオシャレ眼鏡を身に着け、ウッキウキで歩いていた。


 レモンが案内してくれた眼鏡屋は思っていたよりもリーズナブルなのに、オシャレなデザインが揃っていた。今考えると、なんで同じ値段帯でダサい眼鏡をチョイスしていたのか疑問で仕方がない。


 ちなみに当時のメイは、ゲームをするのに支障が無ければどれでも良いと思って適当に選んでいた。本当に根っからのゲーマーである。


「うんうん、カッコイイよメイっち!! なんだか知的なイメージになった!」

「だろ~?? 今なら学校のテストも余裕な気がするぜ!」


 なお、それは単に思い込みである。

 何度も眼鏡をクイックイッと無駄に直してインテリアピールをしているが、そんな事をしても頭は良くならないし、むしろ馬鹿っぽい。




 などと二人で眼鏡の掛け合いをして遊んでいる間に、目的の美容院に着いたようだ。



「こんにちは~!」


 ビルの一階にある、見るからに入りづらそうな外観の美容院。怖気づくメイをよそに、レモンは何の遠慮も無く突撃していった。


「こんにちは、レモンちゃん。お、その子がレモンちゃんの彼氏さん?」


 長身細身のイケメンが眩しい笑顔で出迎えてくれた。


 かなり気軽い挨拶だが、失礼だとかそういった嫌悪感は不思議と無い。

 店内もキラキラしていて、影の住人であるメイはさっそく帰りたくなってくる。


「ち、違うよ~! 友達だよ……今は、たぶん……」


 段々声量が尻すぼみになっていくレモンの言葉に比例して、美容師のお兄さんは笑みを深くした。



「そっかぁ、あのレモンちゃんがねぇ……」


 基本的に誰に対してもフレンドリーな彼女だが、プライベートはかなり大事にするタイプだ。男性と仕事以外で連絡することはかなり稀だし、こうやって誰かと遊んだという話も聞いたことが無い。


 それに今回は連れてきた男の髪をセットして欲しいと来たもんだ。

 これで好意が無いと言う方がオカシイ。



 だがこのイケメンは性格もイケメンだった。

 もちろん恋愛も百戦錬磨だろう。敢えて詮索することも無く、彼らの恋路をそっと見守ることにした。



「さて、それじゃあ……」

「あ、メイです。今日はよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」


 今回のカットはメイにはスタイリングなんて分からないので、全てお任せだ。

 レモンに意見や希望を聞きつつ、手際よくモサモサしていたメイの髪を切り始めた。


 そして三十分後。

 鏡を見た一同は、メイの変貌ぶりに驚愕きょうがくしていた。









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May9ラブ~えちちなチートに目覚めた俺は学園の女子達のオモチャにされています~ ぽんぽこ@書籍発売中!! @tanuki_no_hara

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