エピソードタイトルが鉱物に結び付く。

 更新は三話毎に、同じ間隔か同時。


 この2つによって『枯れダンジョンの巡礼花』は目次が中身を暗示する設計になっております。

 それぞれが何を指すかまでは気付かれずとも、何となくエピソードタイトルに違和感を感じる方もいらしたのでは、と思うのですが、如何でしょう。


 この石の花を咲かせる物語。

 タイトルの「巡礼花」や、クロエ、イリソスの名前から枯れ山を緑化する話をイメージされるのではないか、という前提で「石の花を咲かせる」という一番の目的を隠しました。

 その代わり、目次を見ると石マニアの方でしたら「?」と感じそうなヒントを置いた次第です。


 エピソードタイトルは冒頭4話が、銀を採ることで出たスラグやスライム、山を汚す物から人が価値を感じるものを生み出す暗示。


第1話「かえり」……還

第2話「緑」……命 ※緑を指すχλωροςクローロスは生命感を表す語

第3話「不凋花」……石の花

第4話「銀」


 この銀を採った跡や鉱滓から生まれる可能性がありそうな「不凋花の野」を構成する石の花、つまり鉱物に因むのが第5話以降です。



第5話「流れ」……蛍石(フローライト)

 鉱石を蛍石と共に溶鉱炉に入れると流動化するため、ラテン語の"fluo(流れる)"からフローライトの名に。



第6話「粉」……粉銅鉱(コニカルコサイト)

 これは本文と足すと気付ける可能性がある程度のヒントです。「銅」と「石灰」が出て来るのがサインでした。

 コニカルコサイトは、κονιαコニア(粉、石灰)と、χαλκοςカルコス(青銅)から付いた名です。



第7話「苦土」……菱苦土石(マグネサイト)

 苦土は「くど」と読むとマグネシウムを指します。そこからタイトルの仕掛けに気付く方もあるかもしれない、という一番のヒント回でした。

 苦土の入る鉱石名も複数ある為、本文に「菱」を入れています。



第8話「グラウコピス」……グラウコセリナイト

 ギリシャ語のγλαυκόςグラウコス(灰青色、青)と、κήρινοςケリノス(蝋の様な)から、グラウコセリナイトと名付けられた石。

 女神アテナのグラウコーピス(輝く瞳の)という固有の形容は、グラウコスと同源の単語です。



第9話「町」……デビル石(デビリン)

 フランス人のDevilleデビユさんに発見されたため、デビリンと言います。Devilleはラテン語の"dei villa(神の村)"に遡れる名だそうですが、フランス語で"de ville(街の)"とも解釈されたとか。



第10話「職人の子」……菱亜鉛鉱(スミソナイト)

 発見者のSmithsonスミソンさん(※スミソニアン博物館の遺贈主)の名からスミソナイト。スミスは職人(特に金属職工)を意味するため、スミソンは職人の子となります。



第11話「嘘つきの櫛」……閃亜鉛鉱(スファレライト)

 スファレライトはギリシャ語のσφαλεροςスパレロス(誤らせる、不確かな)から来る名。これは他の鉱物との見分けが難しいことから付いたようです。

 ヒントのため、櫛も付けました。亜鉛zincは櫛の目のような(zincen)線が入っていたことが名前の由来。



第12話「長」……ラング石(ランガイト)

 これも発見者の名Langラングに基づく石の名前です。ドイツ語のlangは、長い、遠い、という意味。



第13話「ラウレイオン」……ラブリオ石(ローリオナイト)

 ラウレイオン→ラウリオン→ラブリオで、ローリオナイトはラウレイオンの地名から名付けられています。



第14話「山の珊瑚」……霰石(アラゴナイト)

 アラゴナイトは別名が幾つかあるのですが、珊瑚のような形に育ったものは山珊瑚と呼ばれました。



第15話「石の脂」……方解石(カルサイト)

 日本では昔、方解石を石の脂とも呼んでいました。方解石の一部は大理石。それに近い、色のついた方解石は脂身に似ている為、それを見ると納得な呼ばれ方。

 サーピエリ石という、ラウレイオン鉱山の鉱滓鉱物が有名なのですが、それをタイトルに使う方法が見つからず、同系のデビル石と方解石を使いました。



第16話「孔雀」……孔雀石(マラカイト)

 和名から。



第17話「群青」……藍銅鉱(アズライト)

 アズライトは岩群青と呼ばれる顔料になります。高価な絵の具として有名。



第18話「恩寵の山」……ニッケル華(アンナベルガイト)

 ドイツの地名アンナベルク"annaberg"から命名。"anna"は「恩寵」、"berg"は「山」。



 一方、三話セットにしたのは、ヒロインがヘカテのイメージであるサインでした。

 オケアノスの西の果てに冥府があった時、ヘカテならば地下の新冥府建設が出来そうに思い、この話を思い付き、そこで女神と縁の深い「3」を小説の概要ページに隠すことにしました。

 只、このネタは書く内、本筋ではなくなりましたが。

 本文中、柳、松明たいまつ、三叉路、蛇等、冥界やヘカテと繋がる小道具をちりばめましたので、ギリシャ神話に馴染んでいらっしゃる方にはそちらからピンと来られたかもしれません。


 本編の最終更新が8月8日なのも、8が回転すれば無限、書き方として循環することから選びました。

 ネット小説だから出来ることをしてみたかった、この作品です。

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